8話
気持ちのいい朝だ。
小鳥が楽しそうに歌い太陽が暖かく私たちを包み込む。
……だけど今日は布団から1歩も出たくない!
学校に行くなんて憂鬱すぎるよ。
多分学校に行ったら机に落書きされてるんだ。
そして陰湿ないじめが始まるんだ。
トホホ……私主人公じゃないのに主人公してる。
しかも助けてくれる王子もいない。
というか王子にまで虐められてるし。
モブキャラにひどい仕打ちでは!?
決めた! 今日は学校に行かない!
「……ううっ、でもなぁ。今日も二人分食事を用意してくれてるんだろうなぁ」
心に決心したけど、彼女の顔がチラついた。
私が行かなかったら料理が無駄になっちゃうし……休むわけにはいかないか。
布団から出て制服に着替える。
髪の毛をとかし朝ごはんを食べて準備は完璧。
鞄を持って扉を開けてバス停まで歩く。
憂鬱な気持ちのせいで足がとても重い気がした。
バスに乗って揺られる私が考えることはこれからどう学校生活を凄そうかということ。
ゲームのルートとは外れて完全オリジナルストーリー。
これを攻略する方法なんて見つからないよ。
お願い主人公私を助けて。
イチャイチャして王子と早く幸せになってよ。
そうしないと悪役令嬢の前に私がいじめられて人生が滅茶苦茶になるバットエンドができるぞ。
こんなモブキャラに逆転イベントなんて起きるわけないんだし。
モブキャラをいじめて楽しいの? この世界は。
バス止まり次々に生徒が降りていく。
その波に私も混ざる。
上履きに履き替えて教室に向かう。
扉を開けるとそこには私の机に群がるクラスメイト達がいた。
「早く! この落書きを消しますわよ!」
「ええ! でも消えませんわ! これ油性マジックですわ!」
「クレンジングオイルはありまして!? タオルにつけてこするのよ!」
「もうこれ、新しいの新調しましょう。オーダーメイドでアカネさんの為のアカネさんだけの世界に一つの勉強机を!」
「馬鹿じゃないの! そんなんじゃアカネ登校するのに間に合わないわ!」
「……おはようございます皆さん」
そっと挨拶するとクラスメイト達がぐるりと首を回す。
みんな凄いやばい顔をしているのですが。
そして所々から聞こえてくる『早く消して』
「おはよう! アキノシタさん!」
「ねぇ僕ら宿題やってないから教えて欲しいんだけど」
「えっあっうん。いいよその前に荷物を……」
私が自分の机に向かおうとすると彼らは私の前に手を広げて道をはばむ。
「ぼっ僕らの机に置いていいから!」
なんでこんなに挙動不審なの……?
何かを隠してるような。
というかさっきの会話で色々と予想はできるけど。
「置いたら勉強できないでしょ?」
「「あっ……その……」」
二人の男子生徒はビクッとしてモジモジし始めた。
その隙をついて私は自分の机に向かう。
「あっあ! 待って!」
彼らの呼び止めを無視して私は歩く。
そこには自分の予想していた机の姿があった。
赤字で書かれた死ねと淫乱。
悪口かくにもセンスがないなと思った。
机に集まっていた彼女達は私に気づかず一生懸命その文字を消している。
「……皆ごめんね。そんな事しなくていいよ」
私がそう言うと振り返ったレイラは焦りながら誤魔化してきた。
「あっ! アカネ!? 違うのよ! これはそう! 宇宙人の仕業!」
「そうです! 親衛隊の嫌がらせとかでは消してないのです!」
「あっ!? お馬鹿! セイラさん!」
……やっぱりか。
「……ごめんね皆。こんなことやらせちゃって。
大丈夫だから、心配しなくていいよ。それより皆私に関わったらあいつらからいじめられてしまうわ」
「アカネ……貴方」
「ありがとう皆。私が悲しむと思って隠してくれようとしたんでしょ。でも本当に大丈夫だから。でもちょっとオーダーメイドの机は気になったかなお言葉に甘えてもいい?」
皆私に不安そうな目を向けていたので少し冗談混じりにそう言った。
「ええ! もちろん! その机もう要りませんわね! 窓から捨ててしまいましょう! ご心配なく貴方の机は私の机をお貸ししますわ!」
それを聞いた一人の女生徒は顔をキラキラさせて飛んでもない提案をしてきた。
「ええっ!?」
「もしもし、セバスチャン? 大至急机を一つ」
執事に電話して取り寄せるとかお嬢様本当凄すぎない!?
ケータイの通話ボタンを押したと同時にヘリの音が聞こえ窓から彼女の机は運び込まれた。
「……まったく最初からこうすれば良かったのでは? メアリーさん」
「はっ!? そうですわね! 私ったらパニックになって冷静さを忘れていましたわ!」
なんか凄いな。
クラスメイト達に虐められると思ったのに皆私を助けてくれた。
この世界の私どんだけ徳を積んだんだ。
「朝来たら親衛隊がアカネさんの机にスプレーで落書きしていたんですものパニックになりますわ……本当に最低な方々!」
「でもアカネさんがレオン様と話す事などあって?」
「あはは、それはその昨日たまたまあったって言うか……」
「ええ、食堂に行ったらたまたま彼がいてね。それで握手を求められたのよ彼女。そのせいであいつらに目をつけられちゃったけ」
「まぁ本当に!? ついに王国の王子にまで認められたのですわね! 」
きゃっきゃとはしゃぐお嬢様達。
なんだかレイラとの仲も深まってる様子。
「おはようございます! 皆さん!」
そんな中に主人公がやってきた。
あいからわらず元気のいい挨拶だなぁ。
「おはよう! アイリさん!」
「あっえっ!? おはようございますレイラ様」
気分が良かったのかレイラは笑顔で彼女に挨拶する。
それにびっくりしたアイリ。
レイラも挨拶してからやべっと言う顔をしていた。
「おはようこざいますアイリさん」
「おはようアカネさん」
気まずくなったら困るのでささっと挨拶をする私。
彼女はにこっと私に微笑みかけ自分の席に座った。
「……なんでこうなってるの」
「……何か言ったアイリさん?」
「いいえ何も!」
一瞬だけだったが彼女の表情が曇った気がした。
でもただの気のせいだったかも。
「はーい皆さんおはようございます」
教師がクラスに入ってきてクラスの雰囲気は静かになる。
今日初めての授業が始まった。
……はぁ今日は絶対大人しくしていよう。
お願いします神様私に平穏をください。




