7話
「ひっ引っ酷い目にあった」
保健室をバレないようにさっそうと抜け出した。
すぐに来てすぐ帰ったので保健室の先生からは変な目で見られたけど気にしない。
だって私の勘が言っている、あの男に関わってはいけないと!
あそこに居たら酷い目に遭うのは目に見えてる!
「……おい、どこへ行く」
しっしつけぇ!!
「話しは終わってない。おいアキノシタ・アカネ貴様は何を企んでいる」
「なっ何も企んでません! そもそも私はレイラに対して悪い感情なんてない! 彼女をただの友人としか見てないの! 可愛くて素直になれなくて笑顔が素敵な彼女を陥れるわけない! それに私は貴方には興味ない! 貴方は彼女の婚約者ってことしか知らない!」
怖い顔で壁に追い詰められたので感情任せに勢いよく言ってしまった。
大声を出したので相手はギョッとして思わず距離をとる。
彼の瞳を強く見つめ続け強い意志を見せる。
「……貴様……平民の分際で……!」
終わった。
私終わった。
目をつけられて悪役令嬢断罪イベントの前に私処刑されますわ。
悪役王子のど怒りを目のあたりにしている私はそう思った。
「……そこで何をしているんですか?」
そんな所に透き通った綺麗な声が聞こえてきた。
振り返ると桃色の髪の少女が可憐にたっていた。
「あっアイリ!?」
「レオン様とアカネさん? 珍しい組み合わせですね」
「あっああ。同じ授業だったんだ。さっき早めに終わったから教室に戻ってたところだ」
助かったぁ……。
良かった主人公が来てくれて。
悪役王子も主人公の前なら可愛いもんよ!
そのまま甘えてよろしくやっててくれ!
私にはもう関わるなってんだ!
「まぁ、そうでしたの。そうだ! レオン様このあとお時間ありますか? 美味しいお茶が飲めるカフェを見つけましたの!」
「あぁ、行こうかアイリ」
二人は私がいることなんてお構い無しにほのぼのとした世界を見せてくる。
まったく、そのまま二人でイチャついててくれ。
そのまま二人を放置して私は教室へと戻る。
こそりこそり、空気の様に。
「……何をこそこそしてるの」
後ろから怖い声が聞こえてきたから顔をひきつらせながら振り返る。
私を怪訝そうな目で見る三人の女生徒。
どこかで見たような顔とお揃いの髪飾り。
……こりゃもしかしてもしかしなくても!
「ヨシュア様こいつ昼間の!」
「レオン様に近づいていた平民です!」
こんなのってありえないんですけど!
あの性悪王子に脅された後にその親衛隊に会っちゃうなんて!
この後起こる展開はズバリ私フルボッコ!
逃げなければそこにある結末は死。
「初めまして、平民。私の名はヨシュア・アイスフォール。レオン様親衛隊長を務めておりますわ」
丁寧に笑顔で挨拶してくる親衛隊長さん。
その笑顔が怖いんですけど。
「はっはじめまして秋下明音です」
目をキョロキョロさせながら少し上ずった声で挨拶してしまった。
「そう平民さん」
名乗ったのに平民って呼んでくるあたり凄く性格悪い。
ニコニコと笑って彼女は私に近づいてくる。
彼女は前かがみになって私の顔に顔近づけてきた。
「平民ごときがレオン様の手を握るなんておこがましいですわよ」
笑顔が般若のような顔に変わった。
思わず顔が強ばる私。
「才女だかなんだか知りませんが、貴方は所詮平民。身分の差があるくせにあの方に色目使ってるんじゃねーよゴミクズ」
おっお嬢様!?
やばいよ怖いよなんていう言葉遣いしてんだ!
「いやっそのー私はそんなあの人の事に対して興味など微塵もありませんし、貴女方がお怒りになるような事はしていませんよ?」
ははっと誤魔化すように笑ってそろりそろりと後ろに下がる。
「……貴方の噂は耳にしていますわ。あの方の婚約者レイラ・クォーツと友達だとか」
ひいっ怖い!
お嬢様がしちゃいけない顔してる!
「あの女と仲良くなって彼に近づこうなどと考えているのではなくて? そう出ない限りあの女と仲良くするなど考えられないわ」
「違う! そんなわけない!」
「はぁ? 口ではなんとでも言えるわ。そもそもおかしいのよ。この学園の嫌われ者レイラと仲良くなるなんて。なんであいつがあの人の婚約者なのよふざけんじゃないわ。どうせ親の金で物言わせて婚約してレオン様をいいように扱ってるに違いない! そして貴方! その弱ったレオン様に優しく触れて彼の心を奪おうっていう計画なんでしょ!」
「だああああ! しつこい! こっちが黙ってれば好き勝手いいやがって!」
私の堪忍袋の緒が切れた。
さっきから酷い目にあってきてストレスでイライラしてたのに更にストレスが降り掛かってきたのとレイラの心境もしらずに好き勝手いう彼女に対してのヘイトが集まって私の怒りは爆発した。
「へっ? あっえっ?」
私の突然の大声に驚くヨシュア。
「だぁれが! あの男に色目を使ってるだって!? てめぇの目は腐ってんのか! あんなやつに色目なんて使うか! 使ってんのはお前らの方だろ! 親衛隊って立場であいつに媚び売ってんじゃないの!? さっきも言ったけどそもそも私はあの男に興味なんて微塵もない! なのに変な妄想しやがって! 言ったことも素直に受け取れないポンコツな耳してんの!? 誰があいつのこと好きだと言った!」
「へっ平民! あんたヨシュア様になんて口きいてんの!?」
「うっさいわね! 人間みな平等! 先生に習わなかったの? 身分なんて関係ないのよ!」
小馬鹿にしながら女生徒Aに吠える私。
あーあこりゃまずいテンションに身を任せて暴走しちゃってる。
後戻りなんて出来ないしここで素に戻ったら面倒くさくなるだけだ。
なら全てさらけ出してやれ。
「レイラと友達になったのはあいつに近づくからだって!? なわけないだろ! レイラは私の大切な友達だ! それになぁ! レイラを泣かせたあいつに好意的な感情なんてあるわけない! それより私にちょっかいかけるより、あの男とイチャついてるアイリ・ハートフィールドのとこ行きなさいよ!」
強く言い放った言葉を聞いて彼女は引きっつた顔を見せる。
「それともあれですか? 彼のお気にのアイリさんを虐めたら貴方の達への評価が下がるとでも思っているの? はははそんなわけないじゃん! そもそもレオン様の目にはお前らの顔なんて映ってないわ!」
私の言葉が彼女の心に刺さったのか少し彼女は涙目になる。
やっば、図星だった。
「こっこの平民ごときが! 絶対許さないんだから!! 」
「「ヨっヨシュア様!」」
彼女は怖い顔をして私に勢いよく向かってくる。
「うわっ!? ちょちょ! あんたら何とかしなさいよ! あんたらのボスでしょ!?」
身の危険を感じて私は走る。
「セイラ! アンジュ! あんたらも手を貸しなさい! あの平民に鉄槌をくだすのよ!」
怖い顔で追いかけてくる彼女を振り切るために私は加速する。
手と足をシャカシャカ動かして逃げる。
「くそっ! 速い!? なんで速いのよあいつ!」
こちとら現役JKだぞ!? 体育の授業とマラソン大会で鍛えた足の速さを見よ! 運動もしないお嬢様達に追いつかれてたまるか!
階段を上がって教室に戻る机にかけられた鞄を持って急いでこの教室を出る。
「あっアカネ!? そんなに疲れた顔してどうしたの!?」
「どうもしてないレイラ! それより急いでるからじゃね!」
ポカンとするレイラに別れを告げてキョロキョロと周りを確認。
よし、あいつらはまだ来てない。
廊下を走り、さっき上がってきた階段とは反対の階段を駆け下り靴置き場まで走る
走って走ってまた走る。
帰宅部には辛い運動量。
息を切らしてそこからバス停まで走る。
飲み込むつばが喉を刺激してとても痛い。
「ぜぇ……ぜぇ……まったくなんでこんな目に……」
無事にバスに乗り込んで私はこの学校を後にする。
メインキャラと関わっただけでこの始末。
もうやだこの世界、一瞬でもいいと思った私が馬鹿だった。