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第1話

「……あれ、ここはどこ」


暗い空間で私は目覚めた。

ぽわんぽわんと優しい光が浮いている。

体を起こして少しキョロキョロしているとどこからか声が聞こえてきた。


「やぁ目覚めたかい、秋下(あきのした )明音(あかね)


ふわふわした髪の優しそうなお兄さんが私に笑顔で話しかけてきた。


「貴方は……?」


「僕は神だ、凄いだろ~?」


……胡散臭い。

会ってすぐの人間に神を自称するとかこいつ頭おかしいんじゃないの?

というか何でこんな所に私はいるの?

もしかして誘拐された!?


「ちっ近寄るな! 何が神よ! 私に何を求めてるの!?」


「なんだいその反応は! ……もしかして君自分に起こったこと覚えてない?」


「はぁ!? 何言ってんのよ! 私は……」


……あれ? 私なんで寝てたんだっけ。

眠いから寝たんだろうけど……その前何をしてたっけ。


「その様子だと本当に覚えてないようだ。仕方ないじゃあちょっと君の過去を見せてあげよう」


神と自称する男は持っていた杖で床をつついた。

するとそこに映像が浮かんできた。


「おはよ~」


「おはよう! 明音! ねぇー聞いてよ! ゴットラブの新作『姫物語』の話!」


私が学校に登校したらその瞬間、友人が元気よく話しかけてきた。


「あのねあのね! このゲーム滅茶苦茶ライバルキャラが邪魔してきてね、シナリオが進まないの! 早く攻略キャラとイチャイチャしたいのに!」


彼女の話を笑顔で聞く私。

人には人の好きなものがある。

その話を無下に扱うのは失礼だ。

たとえ嫌いなゲームの話でもきちんと聞いてあげよう。


「明音天才ゲーマーでしょ? お願い! ちょっとプレイしてみてよ! そして恋愛ゲームで慌てふためくがいい! 普段ゲームを余裕そうな顔でクリアする明音ちゃんにやりごたえのあるゲームをプレゼントフォーユー!」


ゲームのソフトケースを笑顔で差し出して来た彼女にため息をついて応える。


「……私が乙ゲー嫌いなの知ってるよね奏。それにファイツのイベント期間だから他のゲームしないって昨日言ったじゃん」


「ううっ! そうだけど! 天才ゲーマーの明音のクリア出来ないもどかしさを知ってもらおうと思って……」


……それが本音か我が友よ。


「あのねぇ……クリアこそがゲームの全てじゃないの。それに対戦ゲームやってたらもどかしさなんて沢山感じるっての。そもそも女の子落とすならともかく野郎を落すゲームなんて嫌よ」


「……明音本当に性癖が特殊よね。美少女好きで男の子に目もくれないし。でも知ってるんだからね! 最近の推しはすっごいイケメンキャラだってことをさ!」


「げぇっ!? なんでそれを!」


「ふっふっふー推しがガチャから出ないってtweetしてたの知ってるんだからね? 女子キャラ好きの明音ちゃんが惚れた男キャラ、君あんな感じの男らしいのがいいんだぁ」


にやにやしながら彼女は私を煽ってくる。


「いっいいじゃん! ストーリーの活躍と顔の良さにドキッときたの! でも彼だけだもん! 他のゲームの好きなキャラはほぼほぼ女子だし! それに! ファイツキャラだからってのもあるよ!? 女子をターゲットにした甘々な恋愛ゲームのキャラにハマる程私はチョロくない!」


「……ふーんへー? そーなんだー」


私が顔を赤らめて早口で否定すると彼女はうすら笑いを浮かべて私の目をじっと見つめてくる。


「……分かったわよ、やればいいんでしょやれば! 貸しなさい! 一週間ありゃクリアしてやるわ!」


その圧に負けて私はやけくそ気味にそう言って彼女の手からケースを奪い取った。


帰ってすぐにパソコンの電源をつけてゲームをプレイした。

内容は平民の主人公がある日国の王子といい雰囲気になり他の男キャラからも求愛される感じのゲームだった。

よくある乙女ゲーム。

プレイしていくと意地悪なライバルキャラも登場してくる。


登場人物は主人公のアイリ・ハートフィールド。


攻略キャラのレオン・アルベルト、攻略キャラは他にもいるらしいがとりあえずレオンルートをクリアすればOKと友達から言われたので他は今は気にしない。

とりあえず説明書は読んでおいたので気になったらやってみよう。


そしてライバルキャラのレイラ・クォーツ。


レオンの婚約者で物語の途中で主人公を虐めていたことや悪事がバレて追放される可哀想なキャラ。

まぁ、フィクションの世界だから仕方ないけど。

説明書によるとライバルキャラには他にも、エリオット・ダイアーとミリア・ダイアーと言う兄弟も出てくるらしい。


「……あー! 邪魔だ! なんだよレイラ! ふざけんなよ! お前のイベントのせいで攻略できないだろうが! こりゃ、イライラすんなでも私はここで諦めん! 喰らえ! Aボタン連打!」


そんなこんなで長い間寝ないでゲームをやっていた。

体がベタベタしてきたな……今何時だろ?

時計を見ると12時を示していた。

もう昼か……それにしてもなんだか頭がふわふわするな……

そう考えていたら急に瞼がとじて私の意識はどこかに行ってしまった。


「あーーー! 思い出した! 私ゲームしてたら意識を失ってそれで……」


「うん、死んだよ」


普通のテンションでそんなショッキングな事をサラリという神様。


……えっ? 死んだ!? なっなんで!?


「嘘でしょ!? なんで死んでんのよ! ゲームしてただけでしょ!?」


私が納得がいかない様子で喚いているのを見てため息をつきながら神様は話し始める。


「……秋下明音、君はクソ暑い中冷房もつけずにゲームに熱中しその部屋で何時間も過ごしたせいで熱中症になって死んだよ……」


……馬鹿みたいな死因で死んでるじゃん私……。

凄いショックなんですけど。

暑さなんて我慢してゲームに集中してたからなぁ……馬鹿だなぁ周り見えて無さすぎじゃん私。

つか暑かったら窓開けろよ私、なんで集中してゲームしてんだ。

長い人生をたったちょっと出来事で終わらせるなんて……私はなんて馬鹿なんだ。


「若くして変な理由で死んだ君にはきっと未練があるだろう。そこでだ、君にもう一度チャンスを与えよう!」


落ち込んでる私に彼は励ますようににこやかに言ってきた。


「……それって生き返れるってこと?」


「その通り、君が望む世界で君の人生をやり直させてあげる」


「望む世界……ってことはゲームの世界でもいいの!?」


「もちろん! どんな世界でも大丈夫さ! 剣と魔法の世界、平和な世界、人間がいないモンスターだけの世界!」


「本当に!? ……あっでも転生したらこいつ誰って思われたりして孤立したりしないかな。それだったら元の世界で生き返った方が……」


私が心配そうにしてるのを見ると、神様はちっちっちと指をふってウインクをしてきた。


「なぁに心配は要らない。君が生きてきた人生をそのままその世界にトレースする。この世界で君がもし最初から存在していたらと仮定してそれを世界に刷り込ませる。そうしたらその世界で送るはずだった時間は手に入る。だから君は死んだ歳で転生してもいきなり来た知らない人にはならない」


「何言ってるか、ちんぷんかんぷんなんですが」


頭にはてなマークが浮かび、口をポカンと開ける。

それを見兼ねた神様はくすりと笑った。


「要するに、二次創作のオリキャラが最初から本編に登場していたことにするってこと」


あぁ、なるほど!

……わかってしまう自分がなんだか悲しいなぁ。


納得した私を見て神様は微笑んで手を差し伸べながらこう言った。


「さぁ、君の望む世界はどこだい? どんな世界でも僕が連れてってあげるよ」


……最高じゃないか。


馬鹿みたいな死因だったけどそのお陰で自分の好きな世界に行く切符を手に入れたなんて!


どんな世界に行きたいかだって?


そんなのもちろん! 大好きなゲーム『ファイツ』の世界!


魔法があるファンタジーな日常で敵と戦いながら成長して仲間達と関係を築くそんな世界に行きたい!


「私が大好きで一番熱心にやってるゲームの世界に行きたい!」


私は目を輝かせながら心弾むような声でそう言った。

神様はそれを聞いて満足そうに笑って、杖を振った。

すると大きな白い扉が私の目の前に現れた。


「さぁ、行きなさい。君の新たな人生はそこを開けたらスタートする。今度は変な理由で死ぬんじゃないよ?」


「はい! 神様!」


私は扉を心躍らせながら開けて、白い光が眩い空間に足を踏み入れた。

目が潰れる位の明るさだったので思わず目を瞑る。

光が収まって目を開けるとそこは美しい街並みが広がっていた。

市場があって賑やかにしている人々やレンガ造りの西洋の町並みそして大きく構える豪華な宮殿。


……あれ? ファイツってこんな中世的な世界だっけ?


私が想像していた世界は日本みたいな住宅街でそこらじゅうに魔法使いが住んでいて、そこで魔法を使って戦ったり日常と魔術が合わさったローファンタジーの世界なのですが。

見たところ、魔法はなさそうだし日本じゃないし。

そもそもここどこ?


「おーい、アカネ! そこに突っ立ってないで仕事を手伝ってくれ!」


私が困っていると、ぽっちゃりとしたおばさんが私の名を呼んだ。


「……あの、おばさん。ここはどこですか」


恐る恐る質問をしてみるとおばさんはキョトンして豪快に笑った。


「あはは! アカネ面白い冗談を言うね! ここは『グリーンウェスト王国』! そして私はおばさんじゃなくてジェシー・ライス。あんたの上司さ!」


グリーンウェスト……?

なんかどこかで聞いたことが……。

それとこのおばさんも見覚えが……


「はい! いらっしゃい! お嬢さんなんにする?」


「そうですねー。このヘアアクセサリーを」


おばさんに連れられて店のカウンターにたったらそこである人物に出会ってしまった。


ピンク色の綺麗な長い髪。

整った愛くるしい顔。

小柄な守ってあげたいような体。

私は彼女を見て信じたくない事実を確信してしまった。


……ここファイツの世界じゃない。

彼女は私の好きなゲームには出てこない。

それよりなりより、この世界観が違うもん。


「……あっ、ああああああ!! なんで!? なんでですか神様!」


「アっアカネ!? どっどうしたんだい!! いきなり叫んで!」


ありえなさ過ぎて思わず叫んでしまった。

人って理不尽であり得ないことに巻き込まれるとこんなにまで暴走してしまうんだ……ははっ。


「嘘でしょ!? 神様! こんな間違いするの!? 私は大好きなゲームの世界に行きたいっていったの! これは無効よ! カムバック神様! だいたいなんで大嫌いなゲームの世界に! 無理やり友達にやらされて寝ないでやってた……あっああああ!! まっまさか!」


その時私は自分が犯したミスに気づく。

私は今一番やってる大好きなゲームと神に言ってしまったのだ。

私が死ぬ直前に一生懸命寝る間を惜しんでまでやっていたゲームそれは……


「うわああああ! 神様なんで大好きって言葉を切り落としてんの!? もしや一番やってるからそれが好きなんでしょってことなのか!? くそっ! こんな事ならゲーム借りるんじゃなかった! スマホでポチポチイベント進めてガチャ引いてりゃよかった!」


それは友達から借りた乙女ゲームだった。


「あっあの? 大丈夫ですか?」


客である主人公のキャラクターに心配されはっと我に返る。


「なっなんでもありません! すいません変なところ見せてしまって。さっき食べたキノコにでもあたったのかなーははは! どうぞこれ商品です!」


笑顔でその人に対応してその場を乗りきった。


どーしよ絶対変な人だと思われたよ。


大好きな世界に転生したと思ったら、大嫌いな世界に転生してしまった私。

しかもこういう時のお約束のメインキャラになって転生というオプションがついてなく、あくまでもモブの町娘として転生。

この絶望的な状況で生きていくとか……ははっ私また変な死因で死にたいんですけど。

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