海を食(は)む者
声劇台本(2:1)
男性2人、女性1人、計3人用声劇台本です。
利用規約は設けておりませんので、ご自由にお使い下さい。
録画等を残せる媒体でのご使用の際は残しておいて下さると助かります!
喜んで聞かせて頂きます!
(所要時間20分)
キャスト
タカシ:
ケント:
ミユウ:
冬の海辺
SE:波の音
タカシ
「さっむ!!」
ケント
「寒いねぇ」
タカシ
「誰だよ、真冬の海に行こうなんて言ったのは!」
ケント
「そりゃあ、タカシだなぁ」
タカシ
「こんなに寒いと思ってなかったんだよ!」
ケント
「そりゃあ、タカシが海を舐めてるって事だねぇ」
タカシ
「こんなしょっぱいもん舐めねぇよ!」
ケント
「物理的な話じゃないんだけどなぁ…
あ、別に、試してくれても僕は構わないけど」
タカシ
「お前馬鹿なの?」
ケント
「うわぁ、タカシに言われるとは世も末だなぁ」
タカシ
「どういう意味だよ!」
ケント
「何で急に、海に行こうだなんて言い出したの?」
タカシ
「はぁ!?
え、今聞く?
何でそれを今聞いちゃう!?」
ケント
「そういえば聞いてなかったなって、今思い出したから」
タカシ
「そこはさぁ、行こうって俺が言い出した時に真っ先に出る質問だよね。
今、この時期に、この時間に? ってさぁ」
ケント
「別にいつ聞いてもいいんじゃないの?
僕の勝手でしょ」
タカシ
「んん、まぁそうなんだけどさ!
あぁ、いいよって即答したのケントだよね!?」
ケント
「うん」
タカシ
「そこで疑問には思わなかった訳?」
ケント
「別に?」
タカシ
「そこなんだよなぁ…ケントのおかしい所はさぁ」
ケント
「突然宅飲みしようってうちに来て、乾杯する寸前で海に行こうと言い出したタカシに言われたくないなぁ」
タカシ
「いやさ、普通そこで変に思うだろ!?
あれ、こいつ何かあったのかな、話でも聞いてやろうかなってなるじゃーん!」
ケント
「まだ乾杯前で良かったよねぇ。
呑んでたら車の運転出来なかったし」
タカシ
「だからさぁ、俺が言ってるのはそこじゃなくてね?
話聞いてるか?」
ケント
「聞いてるよ」
タカシ
「聞いてないじゃん!
さっきから話噛み合ってないじゃん!
噛み合わないのはさっきから寒さでガチガチ言ってる歯だけでいいんだよ!」
ケント
「ははっ」
タカシ
「笑うとこでもねーよ!」
ケント
「それでさ」
タカシ
「あーもう、疲れた…… 何だよ」
ケント
「あそこにいるの、誰かなぁ」
タカシ
「は!?
ちょ、やめろよ、真冬にホラーな話は求めてねーよ!」
ケント
「怪談しようって訳じゃなくて、ホントにさ。
あそこ、誰かいるよね」
タカシ
「へ……うわぁっ!!」
ケント
「寒中水泳でもするのかなぁ」
タカシ
「何呑気な事言ってんだ、止めなきゃだろっ!!」
ケント
「……あれって…」
タカシ
「おいあんた!
馬鹿な真似はやめろ!!」
ミユウ
「…誰…?」
タカシ
「いいからこっちに来いっ!」
ミユウ
「え……」
タカシ
「ううっ、冷てぇ!」
ケント
「おーい、毛布いるー?」
タカシ
「おう、頼むわ!」
ミユウ
「……何…?」
タカシ
「くそっ、何で俺がこんな目に…
おいあんた、大丈夫か!?」
ミユウ
「いたっ…引っ張らないで!」
タカシ
「あんた名前は!?
何でこんな事しようとしたんだ、お陰でこっちまで濡れちまった!
何考えてんだよ!」
ケント
「そんなに矢継ぎ早に質問しても答えられないでしょ。
それより毛布持ってきたよー、車に積んどいて良かったなぁ」
タカシ
「おう、サンキュ!
あーあー、こんなに薄着でさぁ、マジで馬鹿じゃねぇの!?
非常識にも程があるぜ!」
ケント
「非常識の塊が非常識を語ってる…」
タカシ
「うっせ!
うー、膝まで濡れちまった」
ケント
「濡れたままじゃ風邪引くし、取り敢えず車に行こうか。
あっちに僕らの車がーー…」
ミユウ
「嫌っ!」
タカシ
「えっ?
あ、急に暴れんなよ!」
ミユウ
「どこにも行かない!
ここにいなきゃ!」
ケント
「いやでも、服も濡れてるし」
ミユウ
「離して!」
タカシ
「ちょっ、暴れんなって!
何なんだよ!」
ケント
「うーん、困ったなぁ」
タカシ
「だから、何でケントはそんなに呑気なんだよっ!」
ミユウ
「貴方達一体何なの!?
何で私の邪魔をするの!?」
ケント
「落ち着いて…大丈夫、何もしない」
タカシ
「いてっ、引っかかれた!」
ミユウ
「離して!」
ケント
「タカシ、離してあげて」
タカシ
「いやでも、そしたらこいつまたーー…」
ケント
「大丈夫だよ、僕が話すから」
タカシ
「なっ……ホントに大丈夫なんだろうな!?」
ケント
「うん」
タカシ
「……分かった」
ケント
「有難う。
ねぇ君、僕らはもう君の邪魔はしない。
その代わり、少し話をしようよ」
ミユウ
「っ……な、何を…」
ケント
「僕らは幸か不幸か、こうして出会ってしまった。
これも何かの縁、神様の思し召し。
きっと何か意味があると思うんだ」
ミユウ
「意味……なんて…」
ケント
「このまま別れたらきっと、こいつはーー…ううん、僕らは後悔すると思う。
そして君も」
ミユウ
「後悔…?」
ケント
「うん、きっとね。
だから話せる事だけでいいから、話して貰えないかな」
ミユウ
「……話す、事なんて…」
タカシ
「へっくし!」
ケント
「タカシ、大丈夫か?」
タカシ
「うう〜、大丈夫そうに見えるかぁ?」
ケント
「見えないね。
このままじゃ君もこいつも風邪引くから、あそこに見える小屋まで移動しようか。
あっちの車はダメでも、あそこなら大丈夫?」
ミユウ
「……多分」
タカシ
「多分って…へっきし!!」
ミユウ
「…寒いの?」
タカシ
「うー、マジで風邪引く5秒前だぜ…」
ケント
「君は寒くないの?」
ミユウ
「…分からない」
タカシ
「おらっ、さっさと行くぞ!
さむさむ…」
ケント
「……行こうか」
ミユウ
「…お母さん」
ケント
「え?
ごめん、波の音でよく聞こえなかった。
今何て?」
ミユウ
「…何でもない」
ケント
「そう?」
タカシ
「おーい、早く来いよ〜!」
ケント
「あぁ、すぐ行く!」
ミユウ
「……お母さん…」
間
タカシ
「おぉ〜、海風来ないだけで結構違うもんだなぁ」
ケント
「ホントだ。
あ、暗いから足元気を付けてね」
ミユウ
「大丈夫」
タカシ
「この小屋、何用なんだ?
囲炉裏みたいなのあるけど」
ケント
「多分海女さんの小屋じゃないかな」
タカシ
「あま?」
ケント
「そう。
素潜りして貝とかウニとか採ってくる人達だよ。
何年か前にテレビで観た事あるんだけど、その海女さん達の休憩所だと思う」
タカシ
「へぇ〜…
てか、それって勝手に入って大丈夫なのか?」
ケント
「鍵かかってなかったし、非常事態だからそこは許して貰えるでしょ」
タカシ
「ん…まぁそれもそうか。
おっ、ライターもある!
火をおこせそうだぜ!」
ミユウ
「あまさん……らいたー?」
ケント
「タオル類もあるし丁度良かった。
ほら、これで少しでも拭くといいよ。
流石に着替えは無いし、女の子に脱がせる訳にはいかないからね」
ミユウ
「…私は大丈夫」
ケント
「え、でも…」
タカシ
「おっ、火が点いた!
ふう〜、これでひと安心だなっ!」
ミユウ
「嫌っ、何!?」
ケント
「どうしたの?」
ミユウ
「やめて、怖いっ!」
タカシ
「…どうしたってんだ、一体」
ケント
「大丈夫だよ、何も怖い事しないから」
ミユウ
「…っ……」
ケント
「…火が怖い、のかな」
タカシ
「えぇっ、火が怖いだなんて、そんな事ある訳ないだろ」
ミユウ
「…お母さん、助けて…っ」
タカシ
「何だってんだ!?
…っきし!」
ケント
「…ごめん、火が怖いのかもしれないけど、少しだけ我慢して貰える?
このままだと僕の友達が風邪を引いてしまいそうなんだ」
ミユウ
「…かぜ……ひく…?」
ケント
「そう。
勿論君も、大丈夫って言ってるけどその濡れた服のままで大丈夫だとは思えない。
助けたいんだ、僕の友達も、君も」
ミユウ
「助け、なんて…」
ケント
「…そうだね、君にとって、さっき言われた通り僕らは邪魔者かもしれない。
でも、あのまま放っておいたらきっと僕らは後悔していたと思うよ」
タカシ
「ったりまえだろ!
何があったかは知らないけど、していい事じゃねぇ」
ミユウ
「…何が、していい事じゃないの……?」
ケント
「取り敢えず、その前に自己紹介しようか。
僕はケント、こっちはタカシ」
ミユウ
「ケント…タカシ…?」
タカシ
「おう、タカシだぜ!」
ケント
「君は?」
ミユウ
「……ミユウ」
ケント
「ミユウ、僕らはここから少し離れた市に住んでる大学生なんだ。
今日はたまたま、何となく、気分でここに来た」
タカシ
「ノリと勢いって奴だな!」
ミユウ
「だいがくせい…」
ケント
「ミユウはどこから来たの?
この辺りに住んでるとか?」
ミユウ
「…私は……ずっとここにいる」
タカシ
「ずっと?
あぁ、ここが地元って事か」
ミユウ
「お母さんの傍にいる」
ケント
「お母さん?
そういえば、さっきも海に向かってお母さんって言った様に聞こえたけど…
聞き間違いじゃなかったんだ」
タカシ
「えっ、何だそれ?」
ミユウ
「お母さんとずっと一緒にいる」
ケント
「…うーん…どういう意味かな?
さっき僕らと会った所にお母さんがいたの?」
ミユウ
「お母さんはどこにも行かない。
だから私もここにいなくちゃならないの」
タカシ
「さっぱり分からん。
ケントは?」
ケント
「僕にも分からないけど…
タカシ、さっき近くに誰かいた?」
タカシ
「いや?
夜とはいえ月明かりである程度は見えてたけど、周りに人影は無かったぞ。
誰かいたらケントだって気が付くだろ」
ケント
「そうだよね、でも誰もいなかった。
ねぇミユウ、僕らは君が死んでしまうと思って引き止めたんだ」
ミユウ
「死んでしまう……何で?」
タカシ
「何でって、そりゃあ冬の海に入ったら死ぬに決まってんだろ!?」
ミユウ
「私は死なない」
タカシ
「はぁっ!?」
ケント
「タカシちょっと待って。
ミユウ、じゃあさっきは死のうとしていたんじゃないの?」
ミユウ
「私は死なない」
タカシ
「そりゃさっきも聞いたって」
ケント
「じゃあ、何をしてたの?」
ミユウ
「お母さん、食べてた」
タカシ
「なっ…!?
おい、おいおいおい、どういうこったそりゃあ!?」
ケント
「タカシ、落ち着いて」
タカシ
「これが落ち着いてられるかって!
だって今ーー…」
ケント
「多分、ミユウが言ってるのは僕らが認識しているお母さんじゃない」
タカシ
「じゃあどういう意味だってんだよ!」
ケント
「もしかしたらミユウは……人間じゃないんじゃないかな」
タカシ
「は…ははっ、何言ってんだよケント!
どう見たってこいつは人間の女の子だろ!?」
ケント
「見た目はそうだけど、多分…」
ミユウ
「ニンゲン……は、ケントとタカシ?」
ケント
「そう、僕らは人間だよ。
ミユウのお母さんはひょっとして…海なんじゃないかな?」
タカシ
「ちょっと待ってくれよ、頭が混乱してきた」
ミユウ
「お母さんは、お母さん」
ケント
「うん、そうだね」
タカシ
「俺にも分かる様に説明してくれよ!」
ケント
「この地域には、昔からの伝承がいくつかあるんだ。
その中に、海を食む者、というのがある」
タカシ
「伝承…?
あぁ、そういやケントって民俗学専攻してたっけ」
ケント
「うん。
彼女の話を聞いていて思い当たる節があるなって。
母なる海は月を食み、海を食む者はその母なる海を食む事でそれを糧とし、地に豊穣をもたらす」
タカシ
「……何なんだ、それ。
はむ?」
ケント
「食む、は、食べるって事」
タカシ
「あぁ、食む、ね」
ケント
「そう。
タカシも少し位は聞いた事あるでしょ?
その地を守る土地神様の話だよ。
日本だけじゃなく、世界中に色んな伝承がある」
タカシ
「うぅーん、俺あんまりそういう話興味無いからなぁ」
ケント
「前から言ってたもんねぇ。
まぁ、分かりやすく言えばミユウは神様の使い、みたいなものかなぁ」
ミユウ
「かみさま?」
ケント
「ある程度の言葉は分かるみたいだけど、時々分からない言葉があったり、火を怖がったりしてたのはそういう事かなって」
タカシ
「……まだ訳分かんねぇけど…でも良かった!」
ケント
「うん?」
タカシ
「死のうとしてた訳じゃなくて、飯食ってただけって事だよな!」
ケント
「あぁ、うん、そうだね」
ミユウ
「めし…は分からないけど、お母さん、食べてた」
タカシ
「ぐっ…その、お母さん食べてたって言い方はこえぇよ…」
ケント
「やめてよ、僕まで変な想像しちゃうじゃんか」
ミユウ
「あ…っ!」
ケント
「どうしたの?」
ミユウ
「お母さん、呼んでる。
私を探してる」
タカシ
「呼んでるって?
何か聞こえたか?」
ケント
「さぁ、でも多分僕らには聞こえない声なんだと思うよ」
ミユウ
「私、帰る」
ケント
「そうだね、邪魔した上に引き止めてごめんね。
話、聞かせてくれて有難う」
ミユウ
「ううん、私、やっと分かった。
心配、してくれたんだよね?」
タカシ
「ん、まぁ、誤解だったけどな」
ミユウ
「お母さん、私が消えるのをいつも心配してる」
ケント
「消える?」
ミユウ
「私は死なない。
でも、消えるかもしれない」
タカシ
「死なないけど消えるって…」
ミユウ
「お母さん、ニンゲンの、しん、こう? が消えたら私も消えるって言ってた。
お母さんも、チカラが消えるって言ってた」
ケント
「しんこう…信仰、か」
タカシ
「それなら大丈夫じゃね?
俺ら、見ちまったし、こうやって直接話もしたしな」
ケント
「…そうだね。
ミユウ、お母さんに安心してって伝えてくれる?
僕らはずっと、ミユウの事忘れないから。
ちゃんと、後世に伝えていくからって」
ミユウ
「こうせい?」
ケント
「えっと、僕らが大人になって、親になって、子供に、孫に、ミユウと、ミユウのお母さんの話をするよって事」
タカシ
「まぁ、なかなか信じて貰えないかもしれないけどな!」
ミユウ
「ケントとタカシ、ニンゲン…
ニンゲンの、しん、こう? 消えない?」
ケント
「絶対に、消さないよ」
タカシ
「おう、約束だ!」
ミユウ
「やくそく…」
タカシ
「必ず守るって事だ!」
ミユウ
「…うん、やくそく、分かった。
お母さんに伝える」
ケント
「ミユウ、ホントに有難う。
君に会えて良かった」
タカシ
「俺も、最初はビックリしたけどな!」
ケント
「また、会えるかな?」
ミユウ
「分からない、でも、ケントとタカシがやくそくしてくれたから…
消えないなら、いる。
会える」
タカシ
「じゃあ、また会いに来るからなっ!」
ミユウ
「うん。
お母さんと、待ってる」
間
ケント
「友人と見送った少女は、母なる海を背に手を振ってくれた後、月明かりに照らされた白波に同化する様に淡くなり消えていった。
海を食む者は確かにそこにいたのだ。
僕らは約束通り、少女を、そして母なる海がもたらしてくれる恩恵を後世に伝えていく。
また会える日を、心待ちにしながら、っと」
タカシ
「ケント、レポート書き終わったか?」
ケント
「あぁ、まだまだ手直しが必要だけどねぇ。
取り敢えず今回の体験した事は形になってきたかな」
タカシ
「そういやさ、この間伝承は他にもあるって言ってなかったっけ」
ケント
「うん、あるけど…興味無いって言ってたよねぇ」
タカシ
「前はな!
でも、こんな体験しちまったら俄然興味湧いた!
平凡な毎日に飽き飽きしてたしな」
ケント
「ふうん…
じゃあ、これから一緒に辿ってみようか」
タカシ
「おう、面白くなってきたぜぇ!!」
-end-
ご使用有難うございました!
感想お待ちしています!!