2話 勇者を名乗る女がすごいぐいぐい来る
えーと?
何を言ってるんだ、コイツは?
ウォルグの第一印象はそれだった。
扉を開けて入ってきた『勇者』を名乗る女の子。
だが、勇者という割には、あまりにも貧相な装備だ。鎧などを身に付けているわけでもなく、普通に可愛らしい布の服を着ている。
手にしている剣も、ずいぶんと粗悪品のようだ。その辺の露店に処分価格で売ってそうな代物に見える。
そもそも、両手で剣を構えているものの、なんというか素人丸出し感がハンパない。
1000歩譲って『正眼の構え』が1番近い形だと言えるだろうか?
しかし、思いっきり腰が引けているし、身体の重心もブレている。『素人がへっぴり腰で、とりあえず剣を持ってみました』というのが的確な表現だろう。
どう見ても剣の心得があるとは思えない。
ならば、魔法を使うのだろうか?
剣を持っている時点で、それもどうかと思うのだが、そもそも魔力が感じられない。
魔力が無いなら魔法は使えない。
枯れ果てた池から水を汲んでこいと言われても無理な話なのである。
結論として、目の前の人物は『ただの小娘』であると断定。
「勇者だと? 貴様がか?」
「そうです!! 私は勇者!! 女勇者コレットです!! さぁ、魔王、覚悟して下さい!!」
疑いの眼差しを全力全開にして問いただすも、キッパリと断言されてしまった。
名はコレットというらしい。
あんなへっぴり腰で安物の剣を使って俺に攻撃したら、剣も腕も折れちまうぞ……と、そんな事を思うウォルグは、はたと気付く。
こいつ、どーやって、ここまで来たんだ?
どう見ても『ただの小娘』であるコレットという少女。
サエウム荒原に生息する魔物たちを突破できるとは到底思えない。下級の魔物にアッサリ殺されるだろう。
10000歩譲って古代遺跡の入口まで来られたとしても、この城に侵入など出来るものだろうか?
仮に侵入出来たとしても、この城には精鋭が集まっている。特に6人の幹部は1人1人が一国の軍事力に匹敵する実力だ。
ホイホイとこの部屋まで辿り着けるはずもない。
「貴様、どうやってここまで来た?」
「サエウム荒原までは馬車で、そこからは徒歩です」
いや、交通手段じゃなくてね……
「荒原に生息する魔物どもはどうした? 貴様ごときに突破できるとは思えぬな」
「その辺をウロウロしていたリザードマンさんに『勇者です。魔王を倒しに来ました』って言ったら、遺跡の中心部まで案内してくれました」
ちょっとぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!?
なにしてんのぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!?
なんで『魔王を倒します』って言ってるヤツを案内してくるのぉぉぉぉぉぉぉぉ!?
リザードマンの頭の中は、脳味噌の代わりにう◯こが詰まってんのかぁぁぁぁぁぁ!?
皮を剥いでバッグにしてやろうかぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっっ!!??
「どうやって城に入った? 門番のミノタウロスがいたであろう?」
「『魔王を倒しに来ました』って言ったら『頑張って下さいね』って、通してくれましたよ」
おっほおおおおぉぉぉおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっっ!!!!????
なんでなの!? なんで、そーなんの!?
なに応援してんの!? 『頑張って下さいね♪』ぢゃねーだろうがぁぁぁぁ!?
ステーキにして食ってやろうかぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!??
「城の中には我の配下がいたはずだが?」
「その、パンツを見せてあげたら通してくれました♡」
「ぱ……ぱんつ???」
「えと、異界人は下着の事を『パンツ』と呼ぶそうです」
ごぅおおおおおおおおおぉぉぉぉぉおおおおおおおおおおおおぅえええええええええええええええええええええっっ!!!???
ぱんつ? パンツ!? え? 下着のこと!?
つまり、そのスカートの中を見せてあげたってこと!?
そしたら通してくれちゃっちゃられら!?
馬鹿なの!? ねぇ、馬鹿なの!? 俺の配下って、実は馬鹿なの!?
なに、パンツを見せてもらって通しちゃってんの!? どーゆー法則なの!? パンツって通行証なの!? 違うだろ? 下着だろ!? 明日から食事はパンツにしてやろうか!? パンじゃねーよ!? パンツだよ!?
「我が配下には女もいるはずだが?」
「あ、女性の方にはドレスデネで買ってきた甘いお菓子を差し上げました。すごく喜んでましたよ」
おいいいいいいいいいいいいいいいいい!?
俺の事なんてどーでもいいわけ!?
俺より甘いお菓子が大事なんですか!? そーですか!?
じゃあ、もう、俺は明日から砂糖を被って生きていくよ!! それでいいですかぁ!?
……と、まぁ、内心で大混乱を引き起こしている魔王ウォルグであったが、玉座に深々と座り、強面の表情を崩さないあたりはさすがである。
「さて、では覚悟して下さいね!!」
そう言ってコレットは、改めて剣を魔王ウォルグへと向ける。
ウォルグとしては困った事態である。
たとえ無抵抗でいたとしても、自分を攻撃なんかしてきたら、コレットの細腕は剣もろとも砕け散ってしまうだろう。
この距離から剣だけ吹き飛ばしてやろうか?
しかし、余波でコレットも吹き飛んでしまいそうだ。
あれこれと悩んでいるうちに、
「えーい」
なんとも可愛らしいかけ声を上げながらコレットがぽてぽてと走ってくる。
仕方がない。身体ごと受け止めてやれば少女を傷付けずに止められるだろう。
そう考えた矢先、
べちょっ
転んだ。
コレットは、魔王ウォルグまで辿り着かずに、その中間地点で見事にスッ転んだのである。
おまけに転んだ拍子に落とした剣は、床に当たって折れていた。
粗悪品とかいうレベルではない。
「ああっ!! まさか剣が折れてしまうなんて!! ……くっ、さすがです。私の負けですね」
おおおおおおおぅぅぅぅぅぅいい!?
なんとコレットは自分で勝手に転んで、アッサリと敗北宣言をしてしまった。
一体全体、この少女は何がしたいのか?
魔王ウォルグは困惑する。
そんな困惑する魔王に対してコレットは、
「魔王に負けてしまった女勇者は、魔王に……りょ……りょ……凌辱されてしまうのですね。ああっ、悔しい。悔しいけれど、負けてしまったのですから、仕方ないですよね。負けた女勇者は魔王に凌辱されるのが決まりですものね。しくしく」
とんでもない爆弾発言を放り込んできた。
……は?
はあああああああぁぁぁぁぁぁぁぁっっ!?
りょ、りょりょりょりょ、凌辱って!! 凌辱って!!
え? なにそれ!?
決まり!? 決まりなの!?
俺は魔王だから、女勇者を凌辱しなきゃいけないの!?
ってゆーか、いいの!?
え? ええ!?
それって、つまり、なんてゆーか、要するに、詰まるところ……
え、ええええ、えっ、えっ、えっ、エッチなことしていいって事ですかっっっっ!!??
困惑を通り越して、大混乱パニックパーティー開催中の魔王ウォルグの脳内。
しかし、そこは腐っても魔王。顔には出さずに、改めて目の前の少女、コレットを観察する。
うん。かわいい。
年齢は15~16歳ぐらいだろうか。
くりくりとした大きめの瞳、小さく可愛らしい鼻、ふっくらとしていて、思わず吸い付きたくなるような唇。
さらさらと流れる赤みがかった茶髪はポニーテールで纏められている。
身長は小柄で160センチは無いだろう。
乳房は巨乳という程ではないが、確かな膨らみが服を押し上げていてツンと上向きで張りが良いのが分かる。形も良い。
ミニスカートから覗く太ももが眩しい。
恥ずかしげに口元に寄せられた指が細い。しなやかだ。仕草がなんかエロい。紅潮した頬がエロい。顔がエロい。身体がエロい。あと、なんか、エロい。
だああああああああああああああっ!!
鎮まれ、俺っっ!!!!!
コレットはゆっくりと立ち上がると、脳内大パニックエロ症候群の魔王ウォルグに近付いていく。
「ほ、本当に悔しくて仕方ないですけど、ま、負けてしまったのですから、す、好きにしていいですよ。ああ、悔しいなぁ~」
『悔しい』と言いながらも、どこか期待が入り交じったような、何とも言えない表情を浮かべながら魔王ウォルグににじり寄るコレット。
い、いいのか!?
本当にいいのだろうか!?
だ、だが、決まりなのだそうだ。
だったら、やらないといけないのではないか!?
そ、そうだ。実に不本意だが、決まりを破るわけにはいかん。
これは、あれだ。別に俺がやりたいからやるわけではなく、あくまでルールを破るわけにはいかないから、仕方なくやるのであって、俺がやりたいからやるわけではなく、決まりを守るのは大切な事だからであって、俺がやりたいからやるわけではなく……
「……ど……どうぞ」
夕陽のように顔を真っ赤に染めて、手を後ろで組んだコレットが、その肢体を前面に押し出すように、魔王に差し出すようにして、小さく呟く。
嘘ついてましたぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!!
やりたいです!!
エッチなこと、やりたいですっっ!!!!
お、おおおおおおおおおおお、お、お、おっぱいを、さ、さささ、さ、触ってもいいだろうか!?
ま、待てよ。どうやって触ったらいいんだ!?
鷲掴みにしてもいいものだろうか!?
さすがに、それは、ヤバいんじゃないか!?
え、でも、じゃあ、どうやって触るの!?
手のひらで、ふわっと触ればいいか!? ホントか!? でも、ぎゅっといきたいな。いやいやいやいや、いきなりはマズイだろ!?
えーと、
ええーと、
そ、そうだ!! まずは指でつついてみよう!!
それだ!! 名案だ!! 俺は天才だ!!
よ、よし、い、いいい、いくぞ!! おっぱいをつつくぞ!!
魔王ウォルグと女勇者コレットは、距離1メートル程の間隔で、互いに向かい合って立っている。
そして2人の顔は真っ赤である。
魔王ウォルグは、ゆっくりと、人差し指を伸ばした右手を持ち上げた。
コレットは、ビクッとする……が、覚悟を決めたように下唇をキュッと噛んでその場を動かない。
ぶるぶると震える指先を、ゆっくりと徐々にコレットの胸部へと向けて進軍させていく。
そして……
ぷにっ
目的座標に到達する。
「……んっ」
コレットが小さく声を上げる。
乳房は指を柔らかく飲み込み、それでいて跳ね返そうとする。
なっ……なっ……なんだ、これはぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっっ!!
やっ……やわらかいぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!!
なのに、弾力がすごいぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃっっ!!!!
こっ……これが、おっぱいかっっっっ!!!!
す、すごい。
すごいぞぉぉぉぉ!!!!
魔王ウォルグは、ふがふがと鼻息を荒くしながら、夢中になって、ぷにぷにぷにぷにとコレットの乳房を指でつつく。
あまりに夢中になっていたせいか、コレットの変化に気付いていなかった。
彼女は、すでに真っ赤に染まっていた顔を、さらに赤く染めて、ぷるぷると震えていた。
「……や」
羞恥心ゲージがマックスを振り切ってしまったのだ。
「やっぱり、無理ぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃっっ!!」
コレットは両手で乳房を隠しながら、一目散に部屋から飛び出していってしまった。
突然の事に魔王ウォルグは呼び止める事も、追いかける事もできずにいた。おっぱいの感触で感動にうち震えていたせいも、多分にある。
「いきなり、おっぱいは……やはりマズかったのか……くっ……」
魔王ウォルグは、その場にガックリと座り込む。
「……しかし」
自身の人差し指を見つめて、その素晴らしき感触を思い出す。
「おっぱいを触ったぞぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!! 触ってしまったぞぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」
絶叫しながら床をゴロゴロゴロゴロと転がった。
長い時間、床を転がって、転がって、転がって、転がって、ようやく魔王ウォルグは止まった。
「はぁ」と、ため息をついて、それにしても惜しい事をしてしまったなぁ……と、コレットが出ていった扉の方を向いて…………そして、固まった。
少しだけ開いた扉の隙間に、6つの顔がある。
扉の隙間から覗いている人物がいるのだ。
そう、6人いる。
「……お前ら」
シュンッ……と、6つの顔が一瞬にして消える。
そして、すぐにノックの音がして、
「失礼いたします。魔王様」
キリッとした顔のダミアンが入ってくる。
「……おい」
「おや? どうかなさいましたか? 魔王様」
キリッとした顔のダミアンが答える。
「……見てたのか?」
「はて? 何をでございましょうか?」
キリッとした顔のダミアンがとぼける。
「わたくしは……ぷっ……何も見ては……ぷぷっ……おりませぬが?」
キリッとした顔のダミアンは、時折、吹き出しながら返答する。
「てめぇら、ぶっ殺すぞ!!!!!!!」
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