助けた女の子とおじさん
まあどう考えても斧ですよね。え? 浪漫武器? 浪漫武器ならドリルでしょう。
「それで、ハフッ、依頼を受けたところまでは、んぐっ、良かったんですが」
「あー、食べ終わってからでいいから、喉に詰まったりしたら大変だから、な?」
「はいっ!!」
それにしてもよく食べる子だな……
先刻助けた女の子が正気を取り戻すまでの間に昼食の用意をしていたらグゥ! と盛大に腹の虫が鳴る音が聞こえたので、ついでと思い大目に作ったつもりだったが、既に大半が彼女の胃袋に収まっている。見た感じは普通か少し細いか? といったくらいなのに、一体この身体のどこに入っているんだろうか。
そしてあっという間に自分の分を平らげてしまったと思ったら手元の水筒を勢いよく口元へと持っていき、ゴクゴクと小気味良い音を鳴らしながら水を呷る。感心して見ていると、落ち着いたのかフゥ、と一息吐いて満足そうな顔をした。
「ごちそう様でした!!」
「ああうん、満足して貰えたみたいで良かったよ」
「はっ。す、すいませんです。助けて貰ったばかりかご飯まで……」
「まあ肉だけは大量にあったし、気にしなくていいさ」
これだけの食べっぷりを見せつけられてしまうと、逆に気分が良いものだ。食料に関しては道すがら狩ってきた魔物のおかげで大量に余っているし、別に懐が痛むわけでもない。収納袋様々、といったところか。
「で、話を聞かせて貰ってもいいだろうか?」
「あ、はい。助けてくれてありがとうございますです!!」
特に礼を言って貰うつもりではなかったが、律儀にお礼を言う彼女には好感が持てた。ちょっと元気が良すぎる子だなぁ。とは思ったが。しかしこの子、少し言葉遣いが変じゃないか?
「なんでオーガなんかに襲われてたんだ?」
「それはですね……」
彼女曰く、自分達は冒険者であり、ゴブリンの討伐依頼を受けて町から出てきたのだそうだ。思ったよりも近くに町はあるらしく、この辺にオーガが生息しているなんて話は聞いたこともなく、油断していたところに急に現れたらしい。
先ほどの男達については数日前にパーティに誘われたそうだ。なんでも相手もちょうど後衛を探していて、自分としても親しい知り合いがいるわけでもなかったので了承したらしい。
で、最初は順調にゴブリンを狩っていたらしいが、リーダーを務めていた男がもう少し遠くまで行ってみようと提案し、それに了承して少し進んだところで急にオーガが現れたんだとか。
俺自身あまり冒険者というものに知識があるわけではなかったが、話によるとオーガはシルバーランクの冒険者パーティが倒せるレベルの魔物らしく、彼女達はブロンズランク、彼女はすぐに逃げようと提案したらしいが、リーダーがそれを却下。オーガが倒せれば自分もシルバーランクに昇級出来るかも、と欲を出してしまったそうだ。
「で、案の定オーガには歯が立たずに、逃げるにしても怒らせてしまった後だったと」
「はい……オーガは怒りで身体を硬質化させる特性がある事は知っていたので、なんとかエクスプロージョンをぶつけて、その間に逃げようと思ったんですが……」
「あいつらは先に逃げて、自分は魔法を使った疲労もあって逃げ切れそうになかったと」
「おじさ……貴方が助けてくれなければきっと殺されていたと思いますです」
「おじさんでいいさ。実際俺はもういい歳だし、お嬢ちゃんくらいの子供もいるしな」
ついついアカリにしていたように、女の子の頭をぽんぽんと叩く。
「お嬢ちゃん……わ、私はキリと言います。もう十八ですし、子供扱いはやめてくださいです!!」
「おっとそうか、悪い悪い。で、お嬢ちゃん……キリはどうするんだ? 町に戻るのか?」
半眼で睨まれてしまい、慌てて名前で呼ぶ。
「はい、オーガが出た事をギルドに報告しないといけないですし」
「ああ、それもそうか」
「それにしてもおじさんは凄いですね。オーガを一撃だなんて」
「ん、まあ昔はそれなりにな」
「もしかして凄い冒険者だったりします?」
「いや、冒険者じゃない。今はただ宛てもなくその辺を旅してるだけさ」
しかし冒険者か……
今の俺は魔物を狩ってきたおかげで肉だけはあるが、たまには野菜や魚も食べたい。ただそうなるとお金が必要になってくる。町に立ち寄って魔物の素材や肉を売って金を稼ぐのも良いが、どうせ魔物を狩るのなら冒険者として活動すれば一石二鳥なのでは? と考える。
「その斧もすごく大きいですよね。ちょっと見せてもらってもいいです? あまり斧を使う人って見なくて……」
「いいけど重いぞ?」
背中から斧を手に取り、キリに手渡す。とは言っても急に手を離すと大変な事になりそうなので、徐々に彼女に重さを預けていく。
「わ、わわわ! ストップ、ストップです!!」
「な? 重いだろ?」
ひょい、と斧を持ち上げる。
「重いのは見た目で分かったんですけど、それにしても重すぎません? 一体何で出来てるんです? その斧」
「んー、貰い物だからよく知らないんだよなぁ。俺の師匠が言うには重魔石? だかで出来てるって言ってたけど」
「重魔石……あ、思い出しました! 確か魔力を流すと重量が軽くなる石ですね!! 確か持ち運びには向いてないから武器に使われてるのを見た事なんてないですけど」
「あ、そうなの?」
「え? だって軽々と扱ってたじゃないですか。魔力を流してるんですよね? あれ、 でも普段は背中に背負ってるって事はずっと魔力を? おじさんってそんなに魔力が多いんです?」
なんかキリが勝手に混乱し始めたが、そもそものところで勘違いしてるな。
「っていうか俺魔力ないし」
「へ?」
うん、確かこれは昔魔力測定でも言われた事だし、俺自身魔力と言われても感じた事もないからサッパリ分からん。
「じゃあどうやって持ち上げてるんです?」
「どうやってって? こう普通に」
キリの目の前で斧を持ち上げたり、下げたりしてみる。斧に合わせてキリの頭が上下するのが面白い。
「おじさん、とりあえずそれは普通じゃないです」
その後キリは俺の斧が刃の部分から柄の部分まで全て重魔石だった事に驚き、普通は魔力の消費を抑えるために一部だけ重魔石を使用するんだとか、持ち運びに不便だから据え置き型の魔道具に使われるようなものだから、武器に使うなんて非常識だとかなんとか。町に着くまで質問は続いた。
--若い子って元気だよなぁ。と俺はしみじみと自分の年齢を自覚するのだった。
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