プロローグ
新作です。ちゃんと書き始めるのは2年ぶりくらいかな?
知ってる人はお久しぶりです。知らない人ははじめまして。よろしくね!!
「はぁっ!!」
「やっ!!」
つい先刻まで静けさに満ちていた森に二つの声が響く。
一つはまだ幼さを残した少年の。
一つはこちらも幼さを残した少女のそれ。
声から遅れて数瞬の後にカッ! という何かを打ち合わせたような音が耳に届く。
それが何度か繰り返された後、声の主が姿を現した。
「ふぅ、流石だね。アカリ」
「兄さんこそ」
声の主はやはり、少年と少女の姿をしている。
普通と違うとすれば、お互いに木で作られた剣を握っているところだろうか。
纏う雰囲気は戦士のそれ。見れば刺す。寄らば斬る、と言った風に。
「でも今日こそは--」
「今日こそ--」
「俺が」
「私が」
「「勝つ!!」」
そしてまた二人は姿を消す。
もっとも実際に消えているわけではなく、お互い高速で動いているからそう感じるだけなのだが。
なんにしろこれがお互い最後の一撃というわけだ。今のうちに冷たい飲み物でも用意しておこうか。
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「で、また決着がつかんかったワケじゃな」
妙な言葉遣いをする声の主は先の少女とはまた違った少女である。もっとも少女なのは見た目だけであり、目の前の少女が一体何年生きているのかは知らない。
恐らく妖怪の類ではないかと常々思っている。思っているだけで口には出さない(出せない)が。
その妖怪(のようなもの)は手にしたカップを口に付け、ゆっくりと机に下ろしたところでこちらを睨み付ける。
恐らくこちらが考えている事を察したのだろう。ほらみろやっぱり妖怪じゃないか。
「今日はイケると思ったんだけどなぁ」
と、こちらは先の少年である。
先ほどまでとは打って変わり、刺すような視線や触れれば切れるような雰囲気はどこにもなく、年齢相応の空気を出している。
「ふふふ、甘いよ兄さん。私だってそう簡単にはやられないんだから」
そしてこちらもまた先の少女である。断じて妖怪ではない、むしろ天使か。
「まあ勝負なんて時の運さ。勝ち負けにこだわるだけが強さじゃないってな」
と、分かった風な事をのたまっているのは何を隠そうこの俺である。
昔は色々あったが、今は分不相応にもこの二人の父親なんてものをさせて貰っている。
そう、あくまで二人の父であり、妖怪の親ではありません。どっちかというとそっちが俺の親。
まあそれも『のようなもの』が付くわけだが。
「そこのバカがエラそうにしているのは妙に納得がいかんが、まあそのバカが言う通りじゃの。勝負とは言うものの勝ち負けだけが全てではない」
俺の親(のようなもの)が俺に続く。が、なんでバカが二回も続くんですかねぇ?
「じゃがあくまで『全てではない』というだけじゃ。もちろん負けられない、勝たなければならない場面もある」
「例えば?」
「負ければ命を落とす。大切なものを失う。そういう場面では勝つ以外の選択肢はないの」
おいおい人の子供に何物騒な事吹き込んでんだよこのバ--
「もし見たいのならそこのバカに『負ければ命を落とす』場面を実践してやってもよいが」
--お師匠様、まだその子達には早いと思うんです。
「師匠! 父さんを虐めるのはやめて!!」
アカリが俺を庇ってくれた。アカリたんマジ天使。
「冗談じゃよ、冗談。全くアカリは可愛いのう。どれ、そんなバカではなく、儂の子にならんか?」
どさくさに紛れて何調子乗ってんだこのババア!!
アカリはウチの子です。どこにもやりません!!
「でも師匠は父さんのお母さんなんでしょ? だったら私達にとっておばあちゃんになるんじゃないの?」
いいぞアキラ、もっと言ってやれ!! おばあちゃん、お・ば・あ・ちゃ……アアアアアア!!
どこからか伸びてきた手が俺の顔面を鷲掴みにする。
「痛い痛い!! 師匠、ギブギブ!!」
「ふん! 母からの愛のムチじゃ。遠慮せずにありがたく受け取るがいい」
お母様からの愛情を顔面いっぱいに感じる。主にこめかみの辺りとか。
--これぞ師匠の十八番。母より愛をこめてである。
しばらく経ってからようやく解放された。母の愛って偉大だと思う。だってしばらく逆らう気にならなくなるもん。
「全く……貴様は親になっても子供のままじゃの」
いつまでも子供の心って大事だと思う。
「まあなんじゃ。そこの息子は置いておくとして、アキラとアカリはもう十五になったんじゃろう?」
--十五歳。それが意味するところはつまり。
この世界では成人と認められ、神から天職を授かる事が出来る年齢であるということ。
その事に思い至り、無意識に渋い顔をしてしまっている事に気付いた。
「うん! 次の『天の日』に天職を調べて貰うんだ!! すっごい楽しみなの!!」
「俺も!! どうせなら『騎士』系の転職だったらいいなぁ」
そんな俺の様子を知ってか知らずか、子供達は無邪気に自分の天職に想いを馳せている。
--願わくばこの子達には良い天職が授けられん事を。
そう願っていた。少なくともこの時までは。
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