2 スイングバイなの? あたりじゃないの?
2 スイングバイなの? あたりじゃないの?
頭上の メインデスプレイに映る航路図で、スイングバイに入る回廊の 突入時間と航路を確認すると、探索 通信 を担当している男性に 船長が聞きました。
「ミハエル 索敵はどうだ、みつけられそうか?」。 中肉中背で 短髪の 細いメガネを掛けた 頭の良さそうな男が 軽く振り向きながら答えます、名前はミハエル・ハルカスと言います。
「惑星の後ろだと 見つけるのは 無理そうです、探索プローブを出しますか?」と聞いてきた。 艦長は 少し考えてから答えます。
「いや 警戒されると面倒だ、突入と同時に会敵 のタイミングで シュミレートしてくれ、それよりも 複数艦での襲撃の可能性が高い グアトンとブルーナインに警戒するように伝えてくれ」。 想定の範囲内です、と言わんばかりに ニヤリと笑い、人差し指でキュっとメガネを上げて言いました。
「大丈夫です。すでにグアトンとブルーナインが ステルスモードで 追従しています」。「そうか」と船長が軽く答えて 続けて話す。「突入隊はどうだ? 」。
「多少人選で揉めた様ですが、準備は出来てます 。でも良いんですか?マーヤちゃんも入ってますが」と心配そうに ミハエルが聞いてきます。 "ふん"とかるく鼻をならして 仕方ないさと。肩をすくめて。
「言い出したら聞かないからなぁ〜。まぁ 無茶はするなと言ってあるし、大丈夫じないかなぁ〜」。と他人事の様に言って 、深く座ろうとしてふと気がていて 少年を振り返って見る、不安そうな少年を見てニヤっと笑って言った。
「心配かね。」
マーヤと言うのは 船長の娘である、15歳になる女の子で 綺麗な黒髪を 腰まで伸ばしている、黙っていたら お人形さんみたいに可愛いのだが、気が強くて 口が悪い。 華奢な身体からは 想像も出来ないくらい力持ちで、かなり重量のあるハルバートを ブンブン振り回してくる。
何度か稽古で対戦しているが、一度も勝てていない 、その悔しさが出たのか 「いぇ」と小さく答えて。「本当に拿捕するのですか?私としては身代金の 交渉のつもりで いたのですが?」と聞いてきました。
「悪くない考えだが 時間がかかり過ぎるねぇ〜、それに根本的な解決にはならんよ」と 意味ありげに船長が話します。 "よし"と一つ気合いを入れると船長が宣言します。
「合戦用意!本船は これより戦闘態勢に入る!」。
これを受けて 司令室が慌ただしくなる、照明が落とされ 各セクションへの 命令伝達の 声が聞こえてくる。 司令室の中央にある火器管制コンソールの 三っある 座席の中央に浅く腰掛け 腕を頭の上で組んで 暇そうに鼻歌を歌っている人物がいます。
頭の上に飛び出た猫耳。 腰掛けた座席の横にはしっほが飛び出て 揺れている。名前は ニーニャ・バスと言う、他に ソーニャとメリーニャと言う姉妹がいて 本来ならソーニャが担当しているのだがクジで負けてその席に座っているらしい。
何故かメイド服を着けていて、「コレがキャットピープルの制服ニャ〜!」、と言っていたが本当だろうか?、ちなみに 他の二人も着ていたりします。 今は不機嫌そうに 頭の上の 猫耳を伏せているが、誤魔化す様に 座席から飛び出た尻尾が 鼻歌に合わせて 左右に揺れています。
その姿を見て、"いい加減 仕事をしてくれないかな〜"と言いたげに 船長から声が掛かる。 「ニーニャ、防御フィールドを展開してくれないかなぁ、あと念のために、全武装を立ち上げてくれ」。
すると 嬉しそうに、「ニャニャ! 撃っいいのかニャ?」、と聞いてくる。
呆れた様に 船長から 「スタンバイだけだ」と言われ 、諦めた様に「わかったニャ」と言いながら コンソールに指を 走らせています。
そんな コントの様な話を聞きながら クリストファー少年が ふと前に目を向けると、いつの間か 画面にいっぱい映る巨大なガス惑星の姿が見えています、スイングバイの為に 惑星の縁ギリギリを通るだけだと分かっていても ガスが渦巻く惑星の中に 落ちて行く様な恐怖を感じていました。
カリナの予想どうり 惑星の影から 接近して来る 二隻の宇宙船がいました。
どうやら 退役したフリーゲト艦を改造しているようで、接舷を目的とした複数の 固定用アンカーや 侵入ゲートが、側面に備え付けられています。
当然 海賊船です、その艦橋では 海賊船の艦長が、渋い顔をして 航路図を見ていました、流石にこの辺りを縄張りにしてるだけあって 探査機を複数設置している様です、航路図には自艦と輸送船の正確な進路が映し出されていました。
そんな艦長の顔を見て 部下の航法士の男が 「どうしたんです」と聞いてきました。
「気に食わねぇなー、向こうは スイングバイで 速度が出るが、こっちは軌道を変えらにゃならねぇ!しかも後から追いかける事になりやがる」。と海賊船の艦長が悔しげに話します。 無理な機動と加速の事を言っているのです、何だそんな事かと 。
「あの船の積荷は ハイブレイト鉱石がたんまり 積んであるって話じゃねぇですか!、 お釣りがくるってもんでさぁー」、と 海賊船の航法士がニンマリと言います。
そんな事は分かっていると言いたげに、海賊船の船長が 命令を伝える。
「姿を見せりゃ 慌てて航路から外れるかも知れねぇからな、おい!進路変えるぞ、惑星の影から出るんだ。さて向こうの船との回線を開け こちらの要求ってのを言ってやろうじゃねぇーか」。
海賊船が航路を変えて 惑星の影から出ると 途端にライズレイク号のセンサーに捕らえられました。その航路図を見て レンフィールド船長の顔が曇ります。
「あの船の 船長はバカか、この進路だと追いつくのに時間が掛かるぞ。しょうがないなぁ 少し進路を変えるぞ、ミスった振りして減速してくれ」
「了解」、と操舵員が返事をするのと同時に 通信が入ります。
「船長!未確認船からの通信です。回線開きますか?」とミハエルが聞いてきました。船長が 操舵員に少し待つように命じて 通信に応じる。すると サブスクリーンに髭を蓄えた むさ苦しい男が現れる。
「こちらは、オリアナ号、そちらの船名と目的地を教えてほしい」と 丁寧な言葉で。 聞いて来る。
「こちらは、フレイア ライズレイク号、積み荷を クラステイル迄運ぶ途中さ。いや〜びっくりした!。急に現れるから 海賊船かと思ったぞ?」。とさも安心した様に 惚ける船長。
それを聞いた海賊船の船長は、ニヤつきながら答えた。
「間違いじゃねぇ〜さ。その海賊だ。速度を落としな、抵抗しなきゃ命まではとらねぇ!。逃げようなんて 思うんじゃねぇ〜ぞ」。
それを聞いた レンフィルド船長は慌てた様な演技をして、通信を切った。
「さて 海賊船を引っ掛けるぞ。左舷接舷アームの準備を急げ。突入班は左舷エアロック前に集合するように。カルマ 方位034仰角15。エンジン全開。噴射の軸線を派手にズラしてくれ」と矢継ぎ早に指示を出す船長。
それに答えて操舵手の カルマ が舵を切り スラスターを吹かしながら答える。「了解 方位034 仰角15 推力全開」。
すると ライズレイク号は横滑りしながら スイングバイの軌道から逸れていく。
それを見た海賊船の船長は 慌てて言った。
「おいおい、派手に逸れて行くじゃねぇ〜か」。
「船長、軌道がズレますぜ。このままだと交差して離れて行っちまいますぜ」。
航海長の指摘に、不満そうに指示を出す。
「仕方ねぇ、空力ブレーキをつかう。仰角を下げて惑星の表面を回るぞ、シールド全開」。
海賊船が 惑星の表面に入ると、シールドとガスの摩擦で赤く輝き出す。ライズレイク号の司令室では、海賊船 オリアナ号の 軌道が 航路図に映し出されいた。予想航路図ではライズレイク号とオリアナ号の軌道が徐々にに重なって来ていた。すると アルバート船長がタイミングを計る様に指示を出す。
「方位050 仰角3。軸線を戻せ!」。操舵士のカルマの操作で 横滑りが収まると、エンジンカットと逆噴射の指示を出す アルバート船長。
「エンジン停止。全力逆噴射30秒間始め!」 「よし。そのまま惑星の重力を使って 接近するぞ!」と言い。チラッと惑星を映し出す左舷
側のパネルを見る。そこには実際の海賊船の小さい点と、隣に拡大された海賊船の船体と 距離と方位の情報が、映し出されていました。どうやら惑星に押さえ付けて接舷するようです。
逃げるはずの 輸送船が接近して来る、あり得ない行動に海賊船の艦橋は色めき立つ。
「船長!、輸送船が接近してきます。15分後に衝突します。」観測員の報告に信じられないと 海賊船の船長が確認してきます。
「なに!。くそぉ どうなってやがる、無理な機動で故障でもしやがったか?。回線を繋げ!。」
ライズレイク号の 司令室では、スクリーンに映る海賊船の船長が 顔を真っ赤にして 怒鳴っていた。
「てめぇ!、なんの真似だ。てめぇらと心中する気はねぇぞ。」
「いやぁ、逃げても いずれ捕まってしまうからね、で。物は相談なんだが、積み荷の一割で見逃してくれないか?。」とアルバート船長が聞いてきます。
「てめぇ 知らねーのか?、俺たちは ここら一帯を取り仕切っている 正義の『パーシヴァル』海賊団だぞ、通行料として 積み荷の二割を貰っちゃいるが命までは取らねーよ。」海賊船の船長が 安心しろと言いたげに 話します。
「そいつは助かる、今から接舷アームを伸ばすから、ドッキングベイを開けてくれ。」アルバート船長が安心した様に話して 通信を切りました。
「いいんですかい、獲物の方から ドッキングして来るなんて、聞いた事 有りませんぜ?。」海賊船の乗組員が 不満そうに聞いてきます。
接近して来る ライズレイク号を睨みながら、海賊船の船長が言います。
「構わねえさ、こっちの手間が省けるからな。」
スイングバイはどうなるのでしょう? あたりなのでしょうか?。