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 あれから忙しい日々がやってきた。家の家具を買ったりとかは勿論のこと、一番辛いやつは新たな日課が加わったことだ。


 今までは朝早めに起きてご飯を食い、昼過ぎまで畑の世話をしたり獣を狩ったりしていたのだが、王都に住むことになった俺がすることはステータスの基礎値を上げること。


 基礎値といっても俺は何をするのかも分からず、俺の護衛隊長ことアッシュさんに教えてもらう。


 基礎値とはレベル上げとは別で、体を動かしたり集中力を鍛えたりすれば上がるやつらしい。簡単に言えば筋トレや瞑想をやってステータスの底上げだ。


 まあ、レベルを上げれば全ステータスの値が上がるが、基礎値は訓練しても上がるのは微々たるものらしく、効率が悪いと言われている。それでも、塵も積もればという感じでやるらしい。騎士の方々は自主的に休日にやっているとのこと。


 騎士に勤めている人は職務柄、戦闘が頻発する可能性がある。対人戦では微々たる値でも勝敗を決することになる。そのため、ステータスの底上げはやらないという手はないらしい。


 俺の場合は初っぱなからレベル上げをやればいいと思うのだが、レベル上げに適した魔物は早々見つからない。格上の魔物と遭遇すれば戦闘は避けられず、レベル上げに伴うのは危険が必ずや付いてくる。なので、極力はステータス値を上げてから魔物狩りが常識らしい。


 基礎値上げは準備期間とかそんなやつだ。


 基礎値上げの利点としては、危険もなくステータスを強化出来る。剣を持ったこともない素人――つまり俺だが、魔物と戦ったら死ぬのは目に見えているのだ。俺も先人の教えに従うべきだろう。後先考えずに魔物と戦うのは狂人か自殺志願者だ。


 そんなわけで、俺は毎朝走り込まされ、疲れた状態で編み物を半ば強制的にさせられていた。午後には模擬戦という名のスパルタ指導が俺の心を折ってくる。


「もう、やだ。帰りたい……切実に」


「ダクト君、そう言わずに、ほら、ほら、ほら!」


 屋敷の庭で模擬戦をやっている俺。目の前には剣を持って嬉々として迫ってくるアッシュさん。俺の弱音に渇でも入れるためか、一気に距離を詰め、ぎりぎり視認できる速さで打ち込んでくる。刃引きされた剣が振り下ろされ、防御もままならずに体を打ち付ける。


 刃引きされているから裂傷にはならないが、刃先が潰された剣とはいえ俺の体に痣を作っていく。


「い、っ――。……痛いです。少し手加減とかやってくれません?」


 俺が剣を落としたことで中断され、アッシュさんへ進言してみる。


「そんなこと言ってたら上達もしませんよ。ほら、避けてください」


 剣を拾うと始まる一方的な攻勢。


 アッシュさんの目が笑っている。気合いの入れようが見ていて怖い。この人は俺をいたぶるのが好きとかではない。手合わせを純粋に楽しんでいるのはそうだが、この後の反省会では数えきれないぐらいの指摘をしてくる。俺を鍛えるという点で真面目なのだ。


 この模擬戦も実践感覚を掴むためと、ステータスにおける防御力を上げる意味があった。


 この模擬戦は俺の忍耐力を鍛えるためなんじゃないかと疑ってしまうが。俺の心がへし折れそうだ。


 アッシュさんと模擬戦をして分かったことがある。


 俺は剣聖になれそうにないです。




 どうやら四番目のユニーク所持者とあって俺は期待されている。アッシュさんの気合いの入れ方は異常だ。この理由としては王様から文書が届いたことが上げられる。アッシュさんに俺を一流の戦士に鍛え上げるようにと書いてあったらしい。


 王直々の言葉となれば国を守っている騎士ならば名誉そのもの。アッシュさんは結果に恥じないよう気合いを入れ、俺をサンドバッグにしてるわけだ。


 いやあ、有り難いね。王様の心遣いに涙が出そうだ。


 走り込みは王都の外れにある所を延々と回り、体力の限界まで走らされると屋敷に帰宅してから編み物をされる。


 持久力を上げる意味として走り込みは分かるが、編み物をする意図に当初首を傾げたものだ。なんでも、手先が器用になればステータスにおける技術が上がるらしい。


 技術値は戦闘における剣技にも差が出るらしく、騎士の人達は編み物をやっている。総じて上手くて印象が変わってしまった。ゴツい騎士がチクチクと編み物する光景に笑ってしまったのは仕方ないだろう。




 夕方、訓練が終わった俺は屋敷のテーブルに突っ伏していたティナを発見する。


「お疲れ……ティナ」


「……ん、お疲れさま」


 ティナのほうも俺と同じように従者として勉強しているがため、疲労感は一緒だ。


 ティナのほうにはカトレアさんという従者が付きっきりで教えている。貴族のお偉いさんから寄越された従者の方である。


 俺は複数人の従者に囲まれると身構えていたのだが、あんまり出来ない人がたくさんより、とても優秀な一人が従者として来てくれた。


 カトレアさんは歳は二十代後半の女性で、王宮で勤めたこともあるそうだ。ティナが言うにはやたらと厳しいとのこと。


 どんな教えをしているのか見たことはないが、初日のティナは目が死んだ魚のようになっていた。ティナの心身的ダメージは察するべきだろう。


 因みに、ティナの格好は従者用のだ。黒と白の二色の服で、スカート丈は膝下まである。服だけ見れば野暮ったい印象を受けるがティナには滅茶苦茶似合っていた。


「今日は久々に外食にしようと思うんだ。わりかし高級なやつで、どうだろう」


 お疲れ気味のティナを誘う。


 俺達が外食したのは王都に来たときだ。それ以来は行っていない。ティナがカトレアさんから料理を習うためというのもあるのだが、貰い物のお金で豪遊するのも気が引けた。


 村人生活が染み付いているとも言う。節約第一の村で長年住んでいたらこうなる。だが、たまになら誰にも文句は言われないはずだ。


「賛成ー、料理作りたくない」


 ティナは俺の提案に顔を突っ伏したまま片手を上げた。ティナがここまでなるとは余程カトレアさんの教えが厳しいのか。


「んじゃ、着替えたら行こうか」


「はーい」

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