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俺の一言でティナは頷いた。多分、俺と同じく疲れたのだろう。気疲れとかそんなやつ。身の丈に合わない屋敷を貰い、騎士には重警護。ただの村人には荷が重い。
早く慣れなきゃいけないのは分かっている。こんなので疲れていては先が思いやられるからだ。
一息つけたいと申し出た俺は村長とアッシュさんも誘った。屋敷に招待というわけではないが、一応俺の家になってるわけで二人を誘う。
「申し出は嬉しく思いますが、止めておきます。部下の配置とかを決めないといけませんので」
「……わしも村に帰る。ティナの家にも報告せねばなるまい」
まさかの拒否。アッシュさんは仕事で隊長としての役目があり、俺の護衛について部下に指示だしとかあるそうだ。早速、集まっている騎士に色々と言っていた。アッシュさんとは親睦を深めたいと思っていただけに残念。まあ、時間はあるからこれからでいいか。剣を習ったりとかするだろうし。
村長も屋敷に寄らず、今日中には村に帰るらしい。
「……そうですか。村長、お元気で。俺から村に行くの難しそうですけど、たまには会いに来てほしいかなと」
村長とはこれでお別れだ。少し寂しい気がする。いつも怒られていたばかりだったが、それも無くなる。これが寂寥感か。村長とはそんな間柄でもないんだけど。
「ふ、ダクトじゃヘマやらかしそうだわい。また王都に来たら寄るとしよう。ティナ、ダクトを頼むぞ?」
村長の俺に対してのイメージが酷い。村の中だと俺はしっかりしていたはずなんだけど。
「はいっ、ダクトのことは任せてください!」
「うむ、ティリアとグレシスにはわしから言っておく。二人も心配性だから近々来るだろう。――二人ともこれから大変だろうが、しっかりやるのじゃぞ?」
しっかりやれるか実際はどうかとして、俺は真面目な表情で返した。
「はい、頑張ります」
村長はこれで締めだと踵を返していく。これから預けていた馬とボロ馬車を引き取って村に直行するのだ。
俺とティナは背骨が曲がった村長の後ろ姿を見えなくなるまで見送った。
俺達は村長を見送ると屋敷に入った。どこが居間なのか説明されたから分かるが、家具が最低限しかなくてやたらと広い。二人で使うには少し大きすぎる。ここに従者が何人かいて調度いい広さだ。
俺とティナは横長のテーブルに隣合わせで座り、ふうと息を吐き出した。これからのあれこれに不安しかない。上手くやっていけそうな気もするが、新生活に不安が多い。
とりあえず、目先のものからやっていくしかないか。
「このお金、どうしようか」
テーブルの上にどんと置いた大金。
買うべきものはたくさんあった。家の家具に食い物。調理器具は最低限あったから必要なものがあるときに都度付け足しか。
俺やティナの服も必要だ。王都に来るにあたって、旅の準備として何着か持ってきたが足りないだろう。
貴族様と同じ位になったからには見栄えの問題もある。お洒落なんてしたことはないが、派手な服ならいいのか。貴族のように奇抜な格好をすればいいのか。そんなの着たくないけど、うーん。そこは我慢するしかないか。
服装関係はティナに任せるとして、あとはなんだ。冒険者みたいな装備か。レベル上げに伴って私服じゃ馬鹿にされる。防具と剣は買うべきだ。
「わたし預かるよ。この家に隠す感じでいいんだよね?」
「そうだな、金庫とかも買った方がいいか」
「だね、家具は後から買うでいいけど、まずは食べ物と服かな?」
「ああ、そこら辺は任せる」
トントン拍子で買う物を決めていくティナ。ティナが居てくれて本当に助かった。ある程度、買う物を決めていくと外出することになった。
でだ、王都の店がどこにあるのか知らない俺達は、アッシュさんにお願いして付き添いをしてもらうことにした。騎士達に命令を出していたりとお仕事の真っ最中であったが、そういうことならと快く引き受けてくれた。
現地人のアッシュさんは物知りで、名店とか人気になりそうな飯屋とかも教えてくれる。相づちを打ちつつ、会話していく俺達はまずは一番遠い服屋から行くことになった。荷物関係で、歩きながら重いものを持たないようにとアッシュさんの配慮からだ。
しばらくして到着した服屋は王都にあるからか外観が立派で、俺のような村人風情が入店していいのか迷ってしまうぐらいの規模だった。ティナは立ち止まった俺とは反対で、服を買うのが楽しみだったらしく、服屋に着くや目を輝かせて物色していった。
そんなわけで俺も続き、服を選んでいく。ティナが何着持ってきて似合ってるかとか俺に聞いてきたわけだが、ティナが着れば何でも可愛い気がした。
曖昧な感想を返す俺を気にせず、ティナは楽しそうに服を選んでいく。
暫くして、服を買ったりすると最後に食糧を買って屋敷に戻ってきた。頃合い的には夕方ぐらい。ティナの服装に対する熱意のせいで、服屋に長時間拘束されたのが原因だ。時間が掛かりすぎである。アッシュさんは苦笑していたが、俺はげっそり。
時間の関係で冒険者用の装備と屋敷の家具は後から買う形で、服と食糧の買い込みで一旦終了。今日の夜飯は外食になり、美味しいもの食べて腹を膨れさせると寝るだけとなった。
「ダクト、一緒に寝てもいい……かな?」
屋敷にて、寝間着姿のティナは俺の部屋までやってきた。暫定上、俺の部屋である。部屋がたくさんある中で適当に決めた部屋だ。因みに、隣の部屋はティナのものである。
もう寝ようとしていたらティナが備え付けの枕だけ持ってやってきた。
眠れないのだろうか。まあ、こんなに広い部屋だ。一人だとか細いのだろう。
「お、おう」
断る言い訳も思い浮かばず、ベッドの端に寄る。ティナが入れるスペースを作ると招き入れる。
ティナはおずおずとベッドに入ってきて笑みを浮かべ。
「一緒に寝るの何年ぶりだろうね」
「だな。あんまり覚えてないけど、小さいときだったかな、ティナが泣きながら愚痴ってたのは覚えてる」
しばらくぶりだ。思春期が同じベッドで寝るのは駄目だろうが、今日は特別だ。俺も誰かと一緒に居たい気分でもある。
「あ、あれは子供の頃だったから! そんなことばっかり覚えてなくていいから。もうっ、寝るね!」
思い出話をすると膨れっ面でむーと唸るティナ。毛布を頭まで被ると俺に背中を向けた。
「はは、おやすみ」
俺も反対側を向き、二人の夜はこうして過ぎていった。




