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村人60

 村の正面にある門を通り、道から外れて森に入る。


 木々が乱立し、緩斜面となっている森だ。たまに獣狩りを手伝っていたので勝手知ったる場所である。奥まで入り込まなければ迷う心配はない。


 適当にうろつき、森の中で異変があるかどうか探ってみる。


 村長はゴブリンと言っていた。ダンジョンの上層で見た緑色の魔物だ。あれは一体一で負ける気がしなかったほど弱かった。


 俺が低レベルのときにそうだったのだ。今では片手で殺せるだろう。


 素手で殺すと血を浴びるので、武器でも借りてくればよかったかもしれないが、俺の膂力に耐えられる武器がない。


 一振りで必ず折れるだろうし、持ち手の部分も加減しなければ変形してしまう。


 俺のステータスでも耐えられるかもしれないのはダンジョンで戦った黒ゴブリンが使っていた剣だ。倒したときにパクってくればよかったと後悔している。


 暫くは戦闘になっても素手でやるしかない。


「……って、まじでゴブリンが居るのかよ」


 散策を開始してから数十分。村から程近いところにゴブリン二匹が屯っていた。緑色の小人は座って木に背中を預け、楽しそうに二匹で話している。


 全く言語が分からないが、ゴブリン同士ではしゃいでいるようだった。


 俺は痕跡とかを探していたのに魔物本体が居たことに驚きつつ、辺りに他のゴブリンが居ないか確認する。二匹だけだ。不安要素だった黒いゴブリンも居ない。


 数分待ってみても二匹だけだと確定し、俺は姿を現す。


 木に背中を預けていたゴブリンは俺の登場で慌てるように立ち上がり、二匹は小さな木の棒を持って俺へ威嚇するように真横の木を叩いた。


 ペシン、ペシンと鳴っている。


 全然怖くない。


「ギィ! ギィィ!」


 変な鳴き声を上げているが、何て言ってるんだろうか。怒ってるような表情だが、俺にはさっぱりである。


「まあいっか。死ね」


 近付いて蹴り上げた。


 軽い蹴りは重みを感じず、ゴブリンの腹は凹んで後ろにあった木に衝突する。


 これで死んだと思うが、念のため、木に張り付けとなったゴブリンの頭を狙って踏み潰した。


 胴体ぐらいの幅がある木も半ばから折れ、首を失ったゴブリンの胴体が地面にずり落ちる。


 数秒もかからず、一匹を処理。もう片方は背中を見せ、逃げる素振りをみせた。


「ギィィ、ギィッ!」


 粗末な武器である木の棒を投げ捨て、俺から逃げようと遠ざかる。しかし、簡単に追い付き、回し蹴りをしてみた。


 ゴブリンの首が折れ、頭が吹っ飛ぶ。


 命を奪ったという感触がないほど、呆気なく仕留めた。


 ダンジョン前の頃とは考えられないほど簡単である。あのときは俺のレベルが低すぎた。


 今はステータスの数値が四桁であり、黒いゴブリンでも固有技を使わずとも倒せるだろう。


 ゴブリンを倒して強くなったことを実感しつつ、残ったままの死体をどうしようかと悩む。


 魔石を取れば死体が消失するが、ゴブリンの亡骸を引き裂いて探さなければいけない。


 手間だし、汚れる。


 少しだけ考え、俺は放置することにした。とにかく、辺りの探索を優先しよう。


 ゴブリンが一匹居れば、百匹は居ると聞いたことがある。村の周辺にまで居たのだ。いずれ被害が及ぶかもしれないし、俺が出来ることなら早めに片付けよう。




 くまなく散策した結果、十五匹ほどゴブリンを倒した。


 全て瞬殺だ。


 まだ残りが居るかもしれないが、お昼ぐらいになったので村に帰って休憩する予定である。村長にも報告しないといけないなと思いつつ、村の門を通った。


 そこで待っていたのは二人組だった。


「よう、ダクト」


「ダ、ダクト君」


 デードとイーホン。


 二十代前半の小太りな男が俺の所へ寄ってきて、後ろで困ったように頬をかいているイーホンも着いてきている。


「……なにか、用ですか?」


「お前、見ねえ間に良いご身分になったじゃねえか。女引き連れて帰ってくるとか勇者様の真似事かよ」


「……何を言ってるんですか?」


 俺は女を引き連れているようなことはしていない。


 勇者は妹を除き、奴隷で構成されたパーティーである。イチャイチャしているのは何回も見ているので、その言葉も当てはまるだろう。


 しかし、俺のパーティーと呼んでいいのか分からない集まりはティナと聖女様、従者のカトレアさんだけだ。


 たまたま女性だけが周りに多いだけで、本来ならここにアッシュさんや部下の騎士達が加わる。


「ユニークスキルってそんなに偉いもんなのかよ? なあ? あの時、おれのこと無視したよな」


 近距離で睨み付けてきたデードが凄んできた。


 俺はため息を吐く。


 昔から何かとイチャモンを付けて絡んでくるが、俺が久しぶりに帰ってきても変わりないようだ。


「……いい加減にしてください。言いがかりはやめてもらえませんか?」


「泣き虫ダクトが調子乗ってんなよ? お前ばっかりズルいだろ。おれは剣術スキルを手に入れたのに、冒険者たちは見る目がねえ。何が、田舎者とパーティーは組まねえってんだ!」


「デ、デード。落ち着くんだな」


「いや、デードさんの事情とか知らないんですけど……」


 荒ぶってきたデードだったが、八つ当たりされている俺の身になってほしい。


 ステータス鑑定で剣術スキルを手に入れ、勇んで王都に行ってみても上手くいかなかったのは伝わってきた。


 だからどうしたっていう話である。


「なんで、おれがこんな糞田舎に帰ってこねえといけねえんだ。おれは貴族の娘と結婚して騎士になる予定だったんだぞ!?」


 鼻から息を吹き出して熱弁するデードへ俺は冷めた視線を送る。


「……だから、何なんですか? 俺に言われてもどうしようもないですよ。それに騎士を目指すのに冒険者をやる意味が分からないです」


「平民で騎士になるには実績が必要なんだよッ。そんなことも分からねえのか?」


「なら、普通に実績作ればいいじゃないですか」


 田舎者だから冒険者のパーティーに加えてくれなかったというのは同情するべきなのかもしれないが、パーティーなんて組まなくても出来ることがあるだろう。


 イーホンも居たんだから二人でやればいいのに。


 それを一応言ってみたら、怒鳴り返されてしまった。


「――二人だけで冒険者出来るとか舐めてんなよ!? 命懸けで依頼をこなすんだぞ!?」


「デ、デード。お、落ち着くんだな!」


 イーホンが羽交い締めにして必死に宥め、少しだけ落ち着きを取り戻したデードが俺をきつく睨んだままポツリと漏らした。


「……一人ぐれえ寄越せよ」


「何を?」


「しょんべん臭えティナは駄目だ。聖女様もあの足はそそらねえし、あのメイドって下級貴族だよな? あいつをおれに寄越せよ」


「は……?」


 メイドってことはカトレアさんのことだろう。本人に貴族なのかどうかを聞いたこともないが、侯爵様との繋がりを持っているからそうなのかもしれない。


 だが、デードの要求は歪曲されまくってて意味が分からなかった。


 どうやってそこに行き着いたんだろう。


「おれに殴られたくねえなら、あの女を寄越せって言ってんだ。メイドが居るってんなら泊がつくし、同意でヤったほうがいいだろうからな」


「お断りします」


「……おい、イーホン。お前はそこで見てろ」


「ダ、ダクト君。すぐに謝るんだな!」


 なんで俺が謝る必要があるのか。おかしいのはデードだろう。カトレアさんは俺が雇ってるだけの関係だ。


 寄越せよと言われても、渡せるわけがない。


「痛い目見たいみてえだな」


「ダ、ダクト君っ! 早く謝って!」


 イーホンが俺へ謝罪の言葉を催促する。


 この人はいつもそうだ。形だけは止めようとするが、昔から最後まで止めようとはしなかった。


 何度も殴られていたのに、ヘコヘコとデードに付き従う。ボコボコにされた俺を見て、辛そうに謝ってきた。


 毎回、それだけだ。自分は悪くないとでも思っているのだろう。


 だから、俺はこの人も嫌いなのだと再確認した。


 デードが拳を握り、音を鳴らす。


 ポキポキと骨抜きされたものが鳴り、首を回したデードが俺に殴りかかろうとしてくる。


 全く怖いという感情がやってこない。幼少の頃はこれで怯え、殴られて泣いていた時期もあった。


 十歳になったぐらいで泣かずにいたが、ティナに何度も何度も慰められた。


 村長にも頭を撫でられ、そのときの名残で俺が辛い顔をするとティナが頭を撫でてくる。


 惨めだった。


 今は違う。


 ゴブリンと相対しているときと同じ気分だ。


「ユニークスキル所持者になってから俺もレベルが上がったんで、ステータスがそもそも違うので勝てないですよ」


「言ってろ。後から謝ってきても遅えからな!」


「……はあ」


 忠告したのに受け入れてもらえなかった。


 デードが緩慢な動作で振るった拳が俺の鼻に直撃する。


 目を閉じることもなく、受けた拳は真っ赤に腫れ上がっていた。


「――いっ、てええええッ!?」


 遅れて、右手を押さえたデードが踞る。


 俺は何もしていない。ステータス差によって起こった現象だ。


「……だから言ったじゃないですか。昔とは違うんですよ。ステータスの数値で勝負にならない」


 デードが拳をさすっていたが、起き上がると腰に差していた剣を抜く。


「てめえ、スキルを使いやがっただろ!? おれだって剣術スキル使ってやるぞ!」


「話を聞いてください。何もしてないですから。ステータスの差ですって」


「んなわけねえだろ! 防御スキルとかだろうが!?」


「そんなスキルは持ってませんよ。あと、剣を抜くっていうなら容赦はしませんよ?」


 気怠げにしていると目の色を変えたデードが、唇を舐めた。


「……ユニークスキルを手に入れてから本当に変わったみてえだな。いいぜ、これからやるのは決闘だ。騎士道に則った神聖なる決闘をやろうぜ。お前は武器でも持ってこい。おれが正々堂々と受けてやる」


「……俺は武器とかは使わないですけど、なんでそうなったんですか?」


 デードは事あるごとに騎士になると宣言していたのは知っているが、騎士に憧れでもあるのだろうか。


 そもそも、受けてもいない決闘である。こんなに片方へ都合の良い決闘がなんてあるわけがない。


「うるせえ! 決闘するぞ。おれが勝ったらメイドを貰う。てめえが勝ったら好きなこと命令しろ! イーホン、お前が審判だ!」


「え、え。ダ、ダクト君! あ、謝るべきだよ!?」


 恐々といった様子でイーホンが俺を諭しつつ、真横に移動した。


 俺はこんな茶番に付き合う必要性を微塵たりとも感じず、片足を上げて地面へ踏み下ろす。


 ――轟音。


 地面に埋まった片足を軸に亀裂が走り、ひび割れた大地がデードとイーホンを巻き込んだ。


 尻餅をした二人を見下ろし、俺は口を開く。


「決闘をしてもいいですけど、加減なんて出来ないので殺しますよ?」


「……あ?」


「……え?」


「これは忠告です。二度目はないので。決闘したいならまた言ってくださいね」


 口を半開きにする二人を無視してスタスタと歩き、村の中へと俺は戻っていった。

謎理論を展開するクソ雑魚かませ系エピ。

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