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 どうしてだろうか、ティナの目が険しい。まるで、路肩のゴミを見るものだった。言葉を間違ってしまったか。そうだな、うん。


「すまん、今のは間違いだ。言葉の綾っていうものだな」


 冷めた眼差しを送るティナに言い訳をする。適切な言葉が浮かんでこなかったんだ。従者が欲しいと言えばそうなのだが、そんな関係性を築きたいわけではなく。


「へえ、奴隷にしたいっていうのはダクトの願望じゃなくて?」


「奴隷にしたいというか、奴隷が欲しいというか……」


 願望と聞かれればそうだろう。誰しも欲しいはずだ。


 奴隷は便利、奴隷は肉体労働だって任せられる。一人居れば楽が出来るんだぞ。俺は安直な性奴隷よりも肉体労働が欲しい。俺の代わりに働いてくれるなんて素晴らしいじゃないか。畑仕事が激務だったからこう考えているのかもしれないが。


 奴隷となった境遇は不憫に感じなくもない。だが、大抵の奴隷って犯罪奴隷だろう。偏見かもしれないが、奴隷に落ちるには余程のことがなければならないはず。


「……最っ低!」


 俺の本音をどう受け取ったのか、ティナは心底見損なったと頬を膨らませて椅子から立ち上がった。そのままどこかへ歩いていく。


 しかし、ここで呆然とする俺ではない。慌てて俺も立上がるとティナの元へと駆け寄る。走って追いつき、ティナの正面を立ち塞いだ。


「ち、違うんだって、これはそのなんだ。とりあえず、待ってくれ!」


「……弁解なら聞いてあげるけど?」


 半眼で睨んでくるティナ。俺の胸元ぐらいしかない小柄のティナが、上目遣いで眉を寄せて怒っている姿。あんまり迫力もなく、可愛いとしか思えない。


 だが、俺は長年の経験から知っている。このまま謝らなければティナの怒りは長くて面倒だと。


 俺はティナに誤解を訂正するため頭を下げる。奴隷のような完璧な主従関係が欲しいと言われれば、欲しいと首を縦に振る。されど、ティナとはそういう関係を望んでいない。


 まずは謝る。大事なことだ。それからティナにどうしてもらいたいか伝える。


「ち、違うんだ。ごめん、奴隷とかじゃなくて。俺、スキル持ちになって王都で暮らすことになるから、ティナに世話をしてほしいんだ!」


 ああ、俺の口下手加減が恨ましい。世話してほしいってヒモになりたいような発言じゃないか。


「世話……? どういうこと?」


 ゆっくりでいい。ティナに分かってもらうように意味のない身振り手振りを交えて話していく。


「ユニークスキルのせいで俺のレベル上げとかやらなきゃならなくて、他に時間が割けなくなるかもしれない。国から従者を寄越してくれる話もあったんだけど、見知らぬ人は嫌だから断って……ティナには俺の従者というか、その、婚約者みたいな関係で……一緒にいてもらいたい的な」


 しどろもどろに言い切る。頬が焼け落ちそうなぐらい恥ずかしい。もうティナを直視できない。婚約者ってなんだ、まだ付き合ってすらいないのに。


「え……う、うん。分かった、婚約者、そうよねっ、ダクトは一人じゃ何も出来ないもの! わかった、私がお世話してあげるっ」


 一人じゃ何も出来ないとか少し引っ掛かる言い方だが、まあいっか。機嫌を直してくれたようで良かった。ティナが一緒に住んでくれるのも引き受けてくれて安堵する。


「本当か、よかった。じゃあ、教会に着いてきてくれるか。お偉いさんに挨拶と村長が心配だから」


 ティナに伝わってよかった。気兼ねなく喋れるティナが一緒に居てくれるだけで心強い。


「う、うん!」


 そうして、無事に目的を果たせた上で俺達は仲直りし、貴族相手に恐縮している村長の元へ向かうのだった。



 ティナと教会に着くと神官様に話を通し、来客室に行く。


 そこにいたのは変わらない面子で貴族であるお偉いさん二人に神父様と村長だ。ティナの紹介を軽くやりつつ、金銭面の話をしている村長と自己紹介だけして話していなかった貴族一人を横に、もう一人の貴族と俺達は話す。


 内容としてはティナに従者として学んでもらうこと。俺の所属が国になり、貴族と立場がそう変わらないということ。ユニークスキルが本来の形に開花するまでレベル上げやステータスの基礎を上げること。


 先ほど話したことも交えて今後のことを教えてくれた。因みに明日には俺が住む屋敷を用意してくれるらしく、今日で安宿とはお別れだ。


 勇者や賢者とはしばらくしてから顔を会わせるらしい。まずは王都に慣れて訓練。それから国王様の時間が空き次第に顔合わせだそうだ。


 ティナは貴族相手に緊張していたが、村長ほどではないらしく質問なんかもしていた。


 話が終わると解散し、宿に戻ることになる。村長は疲れて寝て、ティナと俺もそのまま就寝した。


 なんだか今日一日で人生が変わったなと俺は思いつつ、今後のことは楽観視していた。まあ、上手くいくだろうと。

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