村人59
皆の反応はそれぞれだった。
俺を慰める者や、神妙な顔になって口を閉ざす者。聖女様なんかは俺の話に感嘆としていたが、しんみりと微妙な空気になった。
聞いても辛いだけのもので、面白くはない話である。だけど、俺の胸の内はすっきりした。
そうして、ティナの家にお邪魔してから数時間が経ち、話が終わると俺達は歓待され、軽めな食事などをご馳走になる。
そのあとはティナとカトレアさんが俺の家を掃除したりと時間が過ぎていき、夜には村長宅の目の前で宴会が開かれた。
夜になると真っ暗になる村だったが、松明を何本も用意して周囲を照らす。
村の倉庫から出してくれた食料を振る舞われ、村人達の皆で飲み食いしながら騒いだ。食料の備蓄は大丈夫なのかと不安になるぐらいだったが、国からお金を貰って潤っているらしい。
そう話してくれた村長は渋い顔をしていたが、聞いた俺はそれ以上に何とも言えない気持ちになっていた。
俺がユニークスキルを発現させ、国の管理下に置かれるための補助金だ。
だが、既に受け取った金である。俺は国王に啖呵を切って王都を出てきたが、関係ないと思うことにしよう。あっちが悪い。
そんなこんなで過ごして後日、酒も出回ったせいか二日酔いになっている村人達が多い中、俺は早めに起床した。
俺の家で就寝した聖女様とカトレアさんは別の部屋で寝ていたが、早めに目が覚めて居間に行くと既にカトレアさんが起きていた。朝食の準備を始めてくれている。
俺の家には何も無かったはずなので、昨夜の宴会中に食材を頂いていたのだろうか。
淡黒の髪を後ろに纏め、いつものメイド服を着用しているカトレアさんは包丁を握って小気味の良いリズムでまな板を叩いている。
屋敷でもない台所でその服装は違和感しかない。新鮮な気分である。親でもないのに二十代ぐらいの女性が朝食を作っているのだ。
カトレアさんの正確な年齢を聞いていないが、ティナの両親よりも若いはずだ。服装をピシッと着ているせいか、従者としての貫禄が滲み出ているけども。
彼女は丈長のロングスカートで隠れているが、スタイルも良い。綺麗系な顔立ちをしていて良い奥さんになりそうだ。しかし、この人はティナと結婚の話になり、未婚だとお喋りしていたのを耳にしたことがある。
結婚適齢期を当に過ぎているのに、だ。
家事全般を完璧にこなし、女性としても優良物件なはずなのに、なんでこの人は俺の従者をやってんだろうと思わなくもない。
そんなことを疑問に思いながら、背後で流麗な動作で捌いている姿に見惚れているとカトレアさんが振り向いてきた。
「ダクト様、お早いですね。おはようございます。朝食はもう少々お待ちください」
「おはようございます。本当に色々とやってもらって申し訳ないです。あの、ここって村なので体面とか誰も気にしないですし、メイド服とか着なくていいですよ? もし、何だったら休んでもらってもいいですからね?」
「いえ、わたしはダクト様の従者ですので」
「……俺ってユニークスキル所持者ですけど、ただの村人の一人なのでテキトーでも大丈夫ですよ?」
「……何が仰りたいのでしょうか。仕事に不備がありましたらご指摘願います」
「いえ、そんなことじゃなくて。めっちゃ有り難いんですけど、辛くないですか? ここに来てまで色々やってもらうのが申し訳なくって……」
「わたしは従者として誇りを持っております」
お金は聖女様が一括で払ったけど、俺の金は受け取ってもらっていない。勇者から貰った金で払おうとしたが、聖女様から貰った額で充分だとやんわりと申し出を断られている。
「そんな働かなくても、普通に暮らしてもいいんですよ……? 従者とかじゃなくて、お手伝いさんみたいな関係でも良いんじゃないかと」
「それは解雇、ということでしょうか。ご迷惑でなければ、どうか従者として仕事を続けさせていただけないでしょうか。……何卒、お願い致します」
カトレアさんが深いお辞儀をした。
本当にやりたくて仕方がないというのが伝わってくる。
俺は仕事なんてしたくないので分かり合えないものだったが、そこまで言うならそうなのだろう。
「……失言でした。カトレアさん、いつも助かってます。こちらこそ、これからもよろしくお願いします。だけど、辛くなったらいつでも言ってくださいね」
「はい、ありがとうございます。ご期待に応えられるよう精進致します」
仕事に戻ろうとするカトレアさんが嬉しそうにはにかんでいた。この人が結婚出来ない理由を垣間見た気がする。偽りなく従者として居たいのだろう。
遅れて起床した聖女様と一緒に朝食を食べてから、俺はめちゃくちゃ暇になった。
聖女様は村の教会に行くとのことでカトレアさんも同行することになり、俺も着いていこうとしたら内密な話になると断られてしまったのだ。
カトレアさんからも教会の外で待ってもらうことに了承を得ていた。
どんな話をするのか気になるところだが、そうなると次はティナの家に行き、畑仕事でも手伝おうかなと訪れたら大丈夫だよと遠慮された。
ティナが張り切って家の手伝いをしているらしい。
少しの間、のほほんとティナの卓越した仕事振りを見ていたが、ちらちらと視線を気にしているティナの邪魔になっていると気付き、俺は挨拶してから立ち去った。
暇潰し感覚で村長のところへ寄ってみると忙しそうに書類を書いていたが、俺を見掛けて顔を上げる。
「どうしたのじゃ?」
書斎で書き物をしていた村長は急に現れた俺に動じず、握っていた筆を置いた。
「いや、なんか退屈で……」
「王都に比べると何も無いからのう」
王都に行く前は走り回ってるだけでも楽しかったのだが、王都の生活に慣れてしまったのかもしれない。
「村長は何を書いているんですか?」
「これは冒険者ギルドに依頼を出すものじゃ」
「冒険者ですか?」
「うむ。近頃、近隣の村がゴブリンに襲われたらしくての。こちらの被害はないのじゃが、周辺を調査してもらうための依頼じゃよ」
「黒いゴブリンじゃないですよね?」
「黒いゴブリン? 普通の緑色の小人しか知らんの。商人の話では段々と近付いているらしくてな……。昼にはギルドへお願いする予定じゃ」
ダンジョンで倒したのと同じやつだろう。あれなら楽勝だ。
「それなら倒したことあります。俺も見つけたら倒しますね。暇なんで周りを散策してきます」
「……頼んでいいかの。危険を感じたら直ぐに逃げてくるのじゃぞ? 他に異変があったら報告じゃぞ?」
不安そうな村長に力こぶを作り、自信満々に返す。
「大丈夫ですよ。黒いやつじゃなければ余裕なんで」
行ってきますと告げ、俺は村の周辺を散策することにした。




