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村人57

 開け放たれていた門を通り、村というには狭い集落に入ったらまずは村長宅を目指していく。


 村長が住む家は一番奥である。畑が広がる道を通り、住宅が密集している所だ。


 畑には農作業している人達が点々と居て、馬車に乗った俺達を歓迎しているように帽子を上げたり、手を振っている。商人や旅人と勘違いしているのかもしれないが、そんなことを気にせずティナが手を振り返していた。


 因みに、お互いに遠いため顔は視認できていない。相手も手を振っているのがティナだと気付いていないはずだ。


 俺は一生懸命に手を振っているティナを見ながら感傷に浸っていた。馬車が石ころを踏んで揺れるような道しかない村だが、長閑な雰囲気である。


 王都に居たときと比べると俺はこっちのほうが落ち着けている。心が安らぐのだ。


 王都に行ってから良い思い出は少ない。あれよあれよと決まり、俺は女神の加護を得てダンジョンで囮にされた。


 ティナが誘拐されたり、人を何人も殺している。昔の俺には戻れない。


 だが、俺はやっと故郷に帰ってきた。





 村長宅の前で馬車を停止し、先に降りた俺は家の扉を軽くノックする。数秒して村長が腰を曲げつつも扉を開いてくれたが、俺を見て目を見開いている。


「ダクト……なのかの?」


「はい。ただいま戻りました」


「死んだという報が来ていたが……見た目も随分と変わったの。生きておったのか?」


「まあ、この髪とかはスキルの影響で。えっと、そもそも死んでないですけど、誰から聞いたんですか?」


「騎士の方々じゃよ。ティナも誘拐されて行方知らずで探しに来ていたのじゃ」


「あー、なるほど。あれは誤報ですね。ダンジョンから帰還したんで。ティナも無事ですよ。今出てくると思います」


 村に来た騎士はアッシュさんの部下達だろう。本当に探してくれていたんだな。


 俺は少し横にズレて馬車の扉から降りてくるティナを村長へ見せる。


「村長ー! ただいま!」


 元気よく馬車の段差を飛び降りたティナが八重歯を覗かせて寄ってくる。


「本当にティナじゃ……生きていたんだのう」


 涙目になっている村長だった。感動の再開である。村長に頭を撫でられているティナが頬を緩ませ、はにかんでいた。


 続いて、馬車からはカトレアさんと聖女様が降りており、御者の二人は馬車で待機するようだった。


 それを横目に確認して話を進める。大事な話をしなくてはならない。


 主に、俺と国についてだ。


「色々ありまして……。詳しく話したいんですけど、中に入ってもいいですか? 聖女様も居るんで」


「うむ。……聖女様?」


「こんにちは。村長様。聖堂教会所属の聖女リシアでございます」


 車椅子に座った聖女様が微笑み、軽く頭を下げた。目元は黒い布で覆っているが、髪色は一際目立つものだ。拝見したことがあれば見間違うこともない。


「こ、これはこれは……聖女様。どうしてこちらに……?」


「ダクトがわたしを救ってくれましたの。その話もしたいのでお時間よろしいですか?」


「ええ、勿論でございます。ささ、こちらへ」


 へりくだった村長が扉を開き、中へ案内した。


 村長宅に迎え入れられようとしていたが、俺はふとソワソワしているティナに声をかけた。


「ティナはティリアさんとグレシスさんの所に行ってきなよ。こっちは村長と話してるからさ」


 ティナの両親である二人だ。俺も世話になっていた。あとで顔を見せるとして、ティナは先に行ったほうがいいだろう。


「え、いいの?」


「もちろん。ってより、顔見せてきたほうがいい。行方不明になってたし、心配してるだろうから」


「ありがと、行ってくるね!」


 パァーっと顔を輝かせたティナが駆けていったのを見送り、俺は最後に村長の家にお邪魔した。




 簡素な作りになっている居間にはテーブルと椅子が置かれている。子供の頃に遊びに来たとき読んでいた本も棚に置かれていて、他の民家よりも広い。


 招かれた俺達は村長がお茶を入れようとしたところをカトレアさんが手伝い、椅子に座ったままの俺は茶を頂く。


 村長は粗茶だと渡してきたが、本当に粗茶だ。


 一口飲むが、王都の物に比べると糞マズい。


 癖の強い苦味を堪能したところでコップを置き、全員が座ったところで俺は話を切り出した。


「早速なんですが、俺たちが村に帰ってきた理由を話します。まず、ティナが誘拐された件にも関わっているんですけど、ティナと聖女様を監禁していたのはユニークスキル所持者の賢者でした」


「賢者リゼレッタ様かの?」


「そうです。俺が二人を救い出したんですが、それで敵対関係になったんです」


「聖女様も誘拐されていたとは……本当ですかの?」


「ええ。とても長い間を拷問され、この目と足を失いました」


「それで聖女様の足が……」


 村長が喉を鳴らし、俺に視線を向けている。本当だと頷き、話を続けるとしよう。


「俺と同じユニークスキル所持者の一人の賢者ですが、平民を狙っていたぶる極悪人です。ティナと聖女様を救い出しましたが、未だに狙っているんです」


「大国とも呼ばれている魔導国の王族ともあらせられる方が……。賢者様の数々の偉業は村にも届いておるが、そのような方だったとは」


「それで、王国も賢者側に付いたらしくて、見てみぬ振りをしてます。謁見では国王がティナを賢者に差し出せとか言ってきたんで、ふざけんなって国から出てきたところですかね」


 村長が眉を曲げ、目元を押している。深く思案しているようだった。


 気持ちは分かる。突飛な話だと俺でも思う。こんな話をされても困るだろうが、理由は言っておかなくてはいけないはずだ。


「……ダクトがティナのことを大事にしているのは理解しているがの。相手が魔導国や王国ともなれば、そうもいかんじゃろうて。お互い譲歩して上手く纏まらんのかの?」


「無理っすね。平民をゴミみたいに思ってる奴等なんですよ。でも、大丈夫です。俺もユニークスキルを持ってるし、聖女様も居るんで」


「どうするというのじゃ……?」


「賢者を殺します」


「……それは。少し整理をしたい。待ってくれんか」


「ええ」


 村長がゆっくりとお茶を飲み干す。俺も飲んだが、舌が痺れてきた。


 数分経過し、重い雰囲気の中で村長が口を開く。


「……殺す理由はあるのかの?」


「ユニークスキル所持者が死ねば新しい所持者が生まれるので、殺さないといけないらしいです」


「魔導国と敵対するということで間違いないのじゃな?」


「まあ、そうっすね」


「魔導国は三大国家の一つじゃぞ……」


 簡単に結論を返すと、村長が再び頭を抱えてしまった。


「村長様、リゼレッタの件はこちらで対処します。暫くこちらでお世話になる予定のため、衣食住を保証して頂きたいだけなのです」


「それは勿論構いませんが……」


「ありがとうございます。村長様は不安になることはありません。聖女リシアの名において聖堂教会がこの村を庇護下に置きますので、どうか安心してください」


「……王国からも狙われるとなると匿うのも難しいのじゃが、本当に大丈夫ですかの?」


「ええ、第一陣はこちらで対処しなくてはなりませんが、ダクトが居れば可能でしょう。それ以降はわたしの手の者が働いてくれます」


「……こちらに危害はないと?」


「全くとは言いません。しかし、ダクトの故郷ですから、ここで手を打たなくては滅ぼされますよ。リゼレッタの異名はご存知でしょう?」


「王族殺し……実の兄弟を打ち首にして血縁者を皆殺しにしたというものですかの? あれは噂に過ぎないものだと」


「そうです。一人の妹を除き、十人の兄と弟を殺し、血縁関係の者を幼子であろうと皆殺しにした。あれは実話ですよ。敵対している者は一人残さず殺すような方なのです」


「しかしですな……」


 なおも言い淀む村長だが、聖女様はきっぱりと告げた。


「あなたは聖女リシアに従いなさい。悪くはしません。平和のためにリゼレッタを殺害し、ここを守るのです。魔導国はリゼレッタが死ねば動きませんし、王国のほうは既に手を打っております」


「……分かりました。従いましょうぞ」


 疲れ果てた村長がついに頭を下げた。

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