表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

55/66

村人55

 勇者と別れ、教会にたどり着く。


 王国内に存在する他勢力の聖堂教会支部。


 王都の中でも目立つ静謐な外観は王城や冒険者ギルドと遜色ない建物となっている。白を基調とした教会は村にあるものと同じ作りだが、広すぎる内装は塵一つもない。


 初めて見たときは心の穢れた部分を問答無用で洗浄されたような気分に陥ってしまい、あまりにも綺麗すぎるこの場所は苦手だった。


 そんなところへ二人でやってきたわけだが、聖女様が中に居る神官へ一声かける神父が来て案内された。


「リシア様。この者は……?」


「この方はユニークスキル所持者の一人なのですよ。わたしの仲間です。お話もこの方も交えてお願いします」


「最後の四人目の方でしたか。これは失礼を、どうぞこちらへ」


「……失礼します」


 内部へ入り、長椅子が並んでいる所を通って奥の部屋へ案内された。女神の像へ祈ってる人とかも居たが、俺の外見を見てギョッとしている。


 酷く動揺している神官達を見事にスルーした神父様に付き従い、聖女様と一緒に部屋に入る。


 個室のテーブルの上には革製のトートバッグが置いてあり、俺達三人だけだ。


「では……先日、言われた物と関わった貴族たちのリストがこれに入れております」


 渡されたのは置いてあったバッグ一つ。聖女様が中に手を入れ、外に出したのは箱と紙。底には金貨が敷き詰められていた。


 取り出した紙には文字がびっしりと書かれており、俺には読めない。


 木箱にはポーションが九個入っていて、色と形が違うビンだった。容器の形状もそれぞれで、どれも聖堂教会の紋章が刻まれている


「ありがとうございます。貴族の名前は読み上げてもらわないと分からないですが……。赤、青、白は揃っているようですね」


 聖女様が手触りでポーションを確認している。赤や青、白といった色違いのビン。


「貴族たちの件はこちらで処理することも可能ですが、いかがなさいますか?」


「そうですね……わたしの手でやりたいですが、この足では叶いません。あなたにお任せしても?」


「はっ、必ずやご期待に添えましょう」


「では、お願いします。わたしはこれから、この方の村へと一緒に着いていきます。あなた方はこの国から撤退なさい」


「撤退、でしょうか?」


「ええ、結界を放棄するのです」


「それでは、この国の民が……」


「何も考えず、従うのです。これは聖女リシアとしての命令。聖堂教会は王国と手を切り、あなた方は神徒を連れて本部へ合流。さあ、復唱してください」


「……我々は聖堂教会エルタ王国支部を放棄し、聖堂教会本部へと合流致します」


 神父が膝を地面に着き、両手を頭上で組んだ。恭しく頭を下げて復唱した。


「ええ、よろしくお願いしますね。本部に着いたら、わたしのことや魔導国の件も報告しておいてください」


「はっ。しかし、村へ行くとのことですが、リシア様に護衛は必要でしょう」


「護衛であれば、クラリッタとランゼフの二人を。手を叩かないうちは表に出ないよう、厳命しておいてください」


「承りました。では、任務を遂行します」


 大きく礼をした神父が部屋から退出していく。


「では、ダクト。用は済みましたので屋敷へ帰りましょうか」


 二人のやり取りに置物となっていた俺は聖女様が乗る車椅子を押して教会を引き返す。


「えっと、はい。何が何だか分かってないんですけど……」


「ダクトはいいのですよ。こちらの都合ですので」


「……そうっすね。首突っ込んでも怖そうなんで」


「ふふ。でも、何か不明な点があれば聞いてくださいね?」


 気安い感じで聖女様が言っているが、さっきの貴族達のリストというものは賢者リゼレッタに関わった者だろう。それを神父様は処理するとか言っていたが、そういう意味の処理なのだろうか。


 教会の闇を見たような気がする。


 話を変えたくて、聖女様が抱えているバッグの中身を聞いてみることにした。


「……そのビンってポーション類なんですか?」


 木箱に入っていたのは九本のビン。色は違うため、中身も別だろうか。


「市販で売っている回復薬とは別物ですが、青色のものは魔力回復薬です。白色は状態異常を無効化する薬ですね。どれも原液なので薄めて飲むものですけど、それでも体に害があるのでオススメしません」


「なんでそんな物を貰ってきたんですか?」


「備えあれば憂いなしですからね。あれば困らないかもしれません。これは効果が絶大ですが、勇者アークスが言っていたように中毒性があるので服用はしたくありませんけど」


「青は魔力で白は状態異常……赤色は?」


「これは、まあその……。体に害は出ないものです。試しに飲んでみますか? 宿に行ってからになりますけども」


 箱から赤いビンを抜き取って勧めてくるが、一番色合い的にマズそうなものだ。手に持ってみたもののガラス細工のビンで、精巧な紋章が描かれている。


 高そうな代物だが、さすがに中身を知らなくちゃ飲めないだろう。


「効果は何なんですか?」


「……」


「え、何ですか?」


 ごにょごにょと濁した声が聞き取れなかった。口をすぼめている聖女様を問い詰めてみる。


「……媚薬です。発情します」


「なら、いらないです」


 一番使い道が分からないやつだったので、直ぐに返した。


「残念です。ダクトになら犯されてもいいと思ってましたのに……」


 惜しむように木箱に戻した聖女様だったが、俺は絶対に飲まないので聞かなかったことする。

 




 屋敷に戻り、アッシュさんとカトレアさん、ティナを呼んだ。リビングのテーブル席に座ってもらい、謁見で行われた内容を話していく。


「――そんなことがありまして、俺は村へ帰ることにしました。準備が出来次第、すぐに出立します。聖女様も一緒です」


 急ぎすぎな気もするが、国側が何かしてくるかもしれないし、早めに行動したほうがいいだろうという考えだ。


「わたしはいいけど……ダクトはそれで本当に大丈夫なの?」


 不安そうなティナの頭を優しく撫でる。上目遣いだったティナは恥ずかしそうに下を向いた。


「心配しなくていいよ。ただ故郷に戻るだけだし。ユニークスキル所持者の役目はしっかり果たすつもりでいる」


「ダクト君の考えは理解した。だけど、反対だ。ユニークスキルを承った者は国に属し、四人揃っていなければならない。どうしても王都を離れなくてはいけないのかい?」


「ええ、貴族の上層部がアレで賢者も居るので、身の安全を守るためには村に帰るべきだと思ってます。一度、故郷に帰りたいとも考えてましたし、アッシュさんはどうしますか?」


「一緒には行けないよ。この国を守る騎士の一員だからね。ダクト君のことを見守りたいとも思っているが、どうか考え直してはくれないのかい?」


「……無理ですね。賢者と一緒になんて、ありえないので」


「……そうか」


「…アッシュさんとはお別れになりますね。今までありがとうございました」


「ダクト君も達者で。あまり、無茶はしないようにね」


「はい、アッシュさんもお元気で」


 アッシュさんには色々と世話になった。恩は返せていないが、今生の別れでもないはずだ。いずれ、何かしらで返そう。


「私は一緒に行ってもよろしいですか? 侯爵様から渡された仕事ですが、弟子の教えが終わっていません」


 カトレアさんがティナを横目で見て、軽く右手を上げた。


「めちゃくちゃ助かりますけど、賢者に狙われているので危険ですよ」


「承知してます」


「給料も出ないですよ……?」


「構いません」


「ダクト、お金はわたしが出しますよ。この目と足では介護してもらうかもしれません。このお金の半分を受け取ってください。もう半分は管理して頂けると有難いです」


「いえ、こんなには……」


 バッグを渡すが、中身を見たカトレアさんの頬が引きつっている。


「重いので受け取って貰いたいのです。半分もあれば十分ですので、そっくりお渡しします」


 ぎっしりと詰まった金貨を抱えたカトレアさんは悩み、受け取ることにしたようだ。


「……では、頂戴します」


 そんなわけで、俺達は屋敷を出るために荷物を纏めていく。しかし、俺自身の荷物は少ないので直ぐに終わる。手持ち無沙汰になった。


 ティナも同様に手早く済ませ、カトレアさんの手伝いをしている。俺も加わろうとしたら、カトレアさんに拒否された。主人にやってもらうことはないとのこと。


 もう国を捨てたようなものだし、主人でも何でもないような……。そんなことを言ってみたら、ユニークスキル所持者に支えている従者なのだと力説された。


 カトレアさん的には国とかどうでもよくて、女神様に選ばれた俺がご主人様らしい。


 荷造りしている部屋から追い出された俺は、どうしようかなと思案する。


 アッシュさんの部下達にも挨拶しようかと、屋敷をウロウロしていると、そこにやってきたのはシェイラだった。


 急いで来たようで呼吸が荒い。金髪の少女が息を盛大に吸い込み、屋敷の門で膝を震わせている。肩に下げた鞄は大きめに膨らんでいた。


 遅れてやってきたのは息を一つも乱していない奴隷の二人。勇者の連れである。


 俺はさっきの部屋に戻ってティナを呼び、カトレアさんにもシェイラの来訪を説明した。


 シェイラが来たことでティナが目を輝かせたが、直ぐに困った表情になってカトレアさんと俺を交互に見ている。


「ティナ、行ってきな。こっちは俺が手伝うから」


「でも……」


「こちらは任せて構いませんよ。行きなさい」


「ありがとうごさいます。ダクト、ありがと!」


 カトレアさんに一礼したティナが走って行ったのを見て、俺は荷物を纏めてるところに腰を下ろした。


 カトレアさん一人で荷造りは大変だし、手伝うつもりだ。衣類などをバッグに収納していたようだが、俺も適当に手をつけて片付けていく。


 小さく畳まれた白い布を掴み、バッグに移す。


 しかし、はらりと途中で形が崩れた。手に持ったまま固まる。


 布だと思った物は下着だった。どうやら、シャツだと間違えて鷲掴みしていたようだ。


「……これは?」


「ティナの下着です」


「そうですよね……」


 俺は慎重に畳み直して元あった場所に戻す。


 俺が触っていいもので他に片せるものはないかと見渡すが、ここに置いてある物は衣類関係ばかりだった。見覚えのあるティナの物や聖女様の服もある。


 俺が気軽に触っていいものなのか躊躇してしまう。俺が触れたところでどうということはないのだが、一応男が触れて良い気はしないはずだ。そこら辺の線引きはするべきである。


 だからといって、何も出来ずに手を迷わせて数秒を有し、俺は勇んで手伝おうとした手を下ろした。カトレアさんが黙々と聖女様の下着をバッグに詰め込んでいるのを眺め、一段落したところを見計らう。


「何か手伝えることありますか?」


「いえ、結構ですよ。ダクト様にやらせるわけにはいきません。直ぐに終わらせますので休んでいてください」


 即答で断られる。


「……分かりました。何かあれば言ってくださいね」


 俺が手伝うのは今度にしよう。今回は間が悪かった。


 部屋を退出し、手持ち無沙汰なのでアッシュさんの部下にでも挨拶しようと外に向かう。玄関先の段差にティナとシェイラが座って話をしていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
script?guid=on
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ