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村人54

 謁見の間を出た俺は聖女様を押して城内を後にする。王城の中には不自然なほど兵士や文官の姿がなく、誰にも話しかけられることがなく門を出た。


 立派な城門の前には二人の衛兵が門番をしていたが、こちらへ視線を僅かに向けただけ。俺は素知らぬ顔で聖女様を連れて通り、ある程度進んだところで後ろを振り返ってみる。


 追手の心配をしていたが、兵士が慌ただしくやってくる素振りはない。


 王城が荘厳と佇んでいるだけだ。


「ダクトは心残りでもあるのですか?」


「そういうわけじゃないんですけど……」


「なら、お屋敷へ戻りましょうか」


「そうですね。ティナにも言わないといけないし……」


 何て言おうか迷う。こうなってしまったのは致し方ないにしても、国と軋轢が出来たことを素直に白状するべきなのだろうか。


 俺の選択は間違っていないはずだ。あんな国王にユニークスキル所持者だからって忠誠を誓うのは馬鹿げている。


 ティナなら分かってくれるはずだが、やたらと心労をかけそうだ。ティナのレベルは低い。


 詳細はステータス鑑定をしないと分からないが、レベルが低いと不安になってしまうだろう。


 俺はレベルが上がって強くなったから国と敵対したところで些事のように思えてしまうが、レベルが低かったときなら胃に穴が開いていた。


「ダクトは故郷に帰るのですよね?」


「……ええ。休暇も兼ねて何もしないで過ごすつもりです。こうなったら王都にはもう居られませんし。聖女様はどうしますか?」


 車椅子を押し、石畳で舗装された道をガタガタ鳴らして進む。


「わたしもダクトの故郷へ着いて行ってもよろしいですか? 聖堂教会に預かって頂くことも可能ですが、リゼレッタの件で一緒に居たほうが好都合かと」


「……でも、俺の村って何もないですけど、大丈夫なんですか?」


 賢者を殺すまでは安心できないし、聖女様が村に来るのはお互いに利害が合っている、しかし、聖女様が住めるような環境ではない。


 王都のように店があるわけでもないし、不便極まりなく、本当に何もない。あっても木々や畑ぐらいだ。一応、酒場や小さな教会といったものはあるが、王都のものと比べると見劣りする。


 周りは山に囲まれており、外灯もない。夜になると村は真っ暗になる。


「存じておりますよ。あまり記憶にありませんが、一度巡礼で訪れた場所だとティナさんから聞いております。それに、わたしは貴方に興味がありますから。何も問題はありません」


「……俺に興味?」


「ダクトはわたしの理想に近付きつつありますからね。このまま変化を傍で眺めたいのです」


 聖女様の言う理想とは。


 最近は嫌なことがありすぎて頭を悩ませているだけなのだが。


「変化って……そんな変わってますかね?」


「ふふ、自覚はないのですか。それはもうわたし好みに……と、それより、帰りの際に教会へ寄ってくれませんか?」


「ああ、はい。了解です」


 屋敷に真っ直ぐ帰ろうとしていたが、寄り道をするため道を曲がる。王城を出て歩く場所は貴族街だ。人は疎らで、閑散としている。


 ガラス張りに展示されている服屋を曲がり、大通りに出ようとする。


 そこで、真後ろから声をかけられた。


「――なあ、村人」


 忘れていた。勇者も俺と同じく謁見の間から出ていたのだ。というか、それなりに歩いていたのに、ずっと着いてきていたのか。


「……なんだよ」


 振り向くと勇者が歯切れ悪そうに俺から視線を地面に向けている。


「……オレはこれから迷宮都市に拠点を移す。ここはリゼレッタやお前がいるからな。戦力的に厳しい迷宮都市に拠点を移すつもりだ」


「で?」


 勇者がどこに行こうと興味はない。そのため、思っていた以上に素っ気ない返事になってしまった。


 妹のシェイラにはティナと一緒に挨拶ぐらいはしたいが、勇者はどうでもいい。


「……武道国家は魔族の撃退に成功した。次に標的になるのは王国か迷宮都市のどちらか二つだ。もし、魔族を見つけたら必ず殺せ。リゼレッタとやり合うよりも優先してほしい」


「それは無理だろ。賢者と魔族が両方同時に来たら俺は賢者を先に殺す」


「……まあ、いいけどよ。その場合はリゼレッタを殺して直ぐにでも魔族を殺せよ?」


「分かってるさ。魔族を殺すのがユニークスキル所持者の役目ってんだろ」


 魔族と敵対しないと俺達が神様に殺されるって話だ。


「ああ、分かってるならいい。それと、リシア。お前はこいつを聖堂教会に引き込もうとしてんのかもしれねえが、オレが許さねえぞ」


「あら、駄目なのですか?」


「……オレ様が聖堂教会について分からないとでも思ってんのか?」


「それは、聖堂教会が何か悪いことでもやっていると?」


「……白々しいな。聖水や勇者因子の取引をしてんだろうが。薬物を国に蔓延させてるのはお前らだろ」


 勇者がポケットに両手を突っ込み、道端に唾を吐いた。聖女様を睨むような目付きで見下ろしている。


 俺は車椅子を移動させ、庇うように勇者と相対した。


「ダクト、大丈夫ですよ。アークス、わたしはそれとは関係ありません。確かに聖堂教会は神徒を増やすため、中毒性のある代物を配布しておりますが、それを欲しいと望む者たちへ無償で提供しているだけに過ぎません」


「……オレには別にどうだろうといいけどよ。勇者因子って名前はどうにかならねえのか。風評被害だぞ」


「あれは大司教様が付けたものですから。『始まりの勇者』から作った物ですし、わたしは無関係です」


「……廃人にさせられたって、オレの元にやってくる被害者も居るんだぞ」


「無理強いはしてませんよ。その者が欲しいと望んだら差し上げているに過ぎません。ただの聖水にお金は貰っていませんので。効果の強いものはそれなりの金額を頂いていますが……」


「胡散臭えな」


「酷い言われようですね。わたしたちは幸せという不確かなものを与えているだけなのです。リゼレッタのように悪用はしてませんし、何も悪いことはしておりません」


 不穏な会話である。


 聖堂教会が薬物を配布してるのなんて初めて知ったぞ。薬物ってあれだろ。薬とかじゃなくて、人をダメにするやつだ。


「村人、お前は騙されんなよ。こいつら神官共は着飾った言葉で地獄に引きずり込んでくるからな。聖堂教会とは関わらねえのが身のためだぞ」


「ダクト。わたしはそんなことしませんから安心してくださいね?」


 聖女様が車椅子の持ち手に置いていた手に触れてきた。温かく柔らかい。


 真っ白で折れそうなほど細い腕だ。


「な、胡散臭えだろ?」


「……そんなことないだろ」


 そう、勇者を否定したが、何を信じればいいのか。


「まあ、お前が決めて後悔しねえようにしろ。最後にオレ様からの善意だ。忠告になるが、お前は強くなって魔族も余裕で殺せるほどになった。だけど、周りはそうじゃねえ。それだけは覚えておけ」


「……お前に言われなくても分かってるよ」


「余計なお世話だったか。……まあいい。あとでシェイラをそっちに寄越す。じゃあな」


 勇者が踵を返し、片手をひらひらと上げた。


「……あのアークスが忠告とは珍しいですね」


「そうなんですか?」


「ええ。彼は最善を尽くす者という印象が強いです。その中に情けはありません。ダクトも知っての通り、弱ければ簡単に切り捨てようとする方ですから。認められたということなのでしょうね」


「あんまり嬉しくはないですね……」


 俺は勇者のせいでダンジョンに置き去りにされた。強くなれたのもユニークスキルが開花し、運が良かっただけ。


 それなのに、俺を認めるのは手のひら返しだろう。俺は勇者を好きになれない。


 背中を向けて歩く勇者は格好付けているのか、やけに様になっていて腹が立つほどだ。


「それもそうです。あの方は一度、ダクトを裏切りましたから。でも、ダクト。わたしは貴方を裏切りませんよ?」


「……ええ、信じてますよ」


 あんな思いは二度と味わいたくない。

十二月はあんまり更新できなかった理由はカクヨムでラブコメ投稿してたり、村人のプロット書いてました。元々書くの遅いので期待しないでください。

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