53、謁見。
謁見の間は重々しい雰囲気が漂っていた。
誰もが口を閉ざし、新しく入ってきた俺達に視線を投じている。車椅子を押しているから車輪の音がギコギコと響いているぐらいだ。
赤い絨毯の上では勇者と賢者が片膝立ちで頭を下げていて、それに倣って聖女様を定位置にやると俺も横に腰を下ろした。
左から賢者、勇者、聖女、俺の順番だ。
「本当に魔族のような外見なのだな……」
国王様の呟きが俺に届く。頭を下げたままなので表情は分からないが、横の宰相が咳払いした。
「国王、役者が揃いました。始めましょう」
「ああ、そうだな。此度はよくぞ参られた。ユニークスキル所持者の者は顔を上げ、好きに発言をすることを許そう。聖女殿もこうして再び顔を合わせることとなって嬉しいぞ」
「ええ、国王様。わたしもこうして再び会える日が来るとは思ってませんでした。この日がこうして訪れたことを感謝します」
「ふむ、何よりだ。足についても報告は聞いている。ユニークスキル所持者の仲違いについてもな。粗方報告を聞いているが、当事者達から話を聞きたい。まずはダクト・ファーム。ダンジョン生還したことは喜ばしいことだが、後に勇者殿を襲ってから賢者殿の同胞を殺害した。何か言い分はあるか?」
やはり、俺のことを糾弾する流れなのか。
先に賢者に話を振るべきなんだろうと思わなくもないが、俺は加害者という形になっている。
納得がいかないが、言い訳を連ねていく。
「はい、賢者がこちらの従者を浚い、監禁して拷問をかけていました。最初に賢者リゼレッタの屋敷に行くと当の本人は不在で、部下たちへ尋ねると俺を殺そうとしてきたのです」
「ふむ。賢者殿、これは本当か?」
「まあ、そうですわね。人の屋敷に無断で入ってくる賊は殺せと言っていましたから」
「誘拐についてもそうなのだな?」
「ええ、少し火遊びが過ぎましたわ。でも、拐っていたのは平民だけでしてよ?」
開き直っている賢者を殺したくなる。何が平民だけだよ。平民でも拷問にかけるなど良いわけあるか。
「まあ、そうであるな。貴族なら問題に発展するが、平民だけなら小さな問題だろう。宰相よ、本当に被害に合った者は平民だけなのだろう?」
「ええ、間違いありません」
「なら、問題にはならんな」
「ちょっと待ってください。平民だけなら小さな問題って……?」
国王と宰相が顔を見合せ、本当に些事な出来事だと言わんばかりだった。
「ダクト・ファームは平民出身だったな。この国の中核となっているのは貴族たちだ。平民なんていくらでも替えが効く」
「は……? なら、聖女様は?」
「聖女殿とは不幸な行き違いの結果だと聞いておる。ユニークスキル所持者の当人同士の問題であろう」
国王様は聖女様の前であっても、悪びれもなく口にした。
平民は貴族の玩具。平民に人権はないと。
国のトップにいる人間が、当たり前のように言ってきたのだ。
「ダクト、これがこの世界です。力のある者だけが平和と呼ぶべき仮初を手に入れられるのですよ」
隣の聖女様が俺を諭すように言ってくるが、耳を通り抜ける。
呆然と国王を見ることしか出来ない。
「賢者殿にも暴動が起きるから頻繁にやってもらいたくはないがな。そんなに平民が欲しいのなら、こちらで用意するぞ?」
「いいえ、そこに居るダクト・ファームの従者がいいのですわ。反応が可愛いんですもの」
「なら、仕方ない。ダクトよ。すまないが、その従者を賢者殿へ明け渡してくれないか? 替えは用意する。何だったら、貴族の娘を寄越そう。そうすれば賢者殿の仲間を殺害した罪も不問とする」
「ちょっと待てよ……何なんだよ。おかしいだろ……」
頭を抱えてしまいたい。
国王がティナを賢者に渡せと言っている。替えを寄越すなんて馬鹿な話があるものか。
ティナはティナだ。一人だけで替えなんてない。
「どうした? 器用の良い貴族の娘だぞ。不満か?」
「いやー、本当に腐ってんな。この国も、このクソみてぇな文化もよ」
勇者が唾を吐き、汚い言葉を放つ。
「勇者殿は何に怒っている? 何かあるのなら、申してみるがいい」
「お言葉ですが、陛下。オレは貴族とか平民とか区別するものではないと思うんですよ」
勇者と同意見だ。勇者にしてはらしくない台詞だったが。
「はは、勇者殿は冗談も上手いな。貴族が居なくては国が纏まらん。貴族あっての国だ」
「……平民も居なくちゃ国は回んねえよ。オレは別にいいけどよ。こんなクソみてえな話をしに来たわけじゃねえ。武道国家リシュバーグが魔族の攻撃を受けている。次は迷宮都市リーベルか王国が標的にされる。どうお考えなんだ、陛下は」
「ふむ。その件については大丈夫だろう。この国には四人の選ばれし者が居る。迷宮都市も冒険者が多いからな」
「そうっすか。ならオレは勝手に動きますよ。なあ、村人。お前はどうすんだ? 王国に留まって仲良く防衛か? リゼレッタと一緒に魔族を殺し、平民をゴミとしか思ってねえ貴族を守るのか?」
「俺は……」
こんな国だと思わなかった。俺はユニークスキル所持者に選ばれたから、貴族達は優しくしているだけなのだ。
ユニークスキルに選ばれなかったら、貴族達に言われるがまま使われる人生。そうなっていたはずだ。
どうして俺はこの国のために戦わなくちゃいけないんだ。こんな国王のために。選ばれたから? この国に生まれたから?
「なあ、どうするよ。村人のお前が決めろ」
勇者は立ち上がり、俺の前にやってきた。
金髪のイケメンは俺の瞳を真っ向から見て、鋭い眼光で見下ろしている。
「ダクト、あなたが決めなさい。この国を守るのか。それとも、自分の周りを確実に守るのか。さあ、力のある者だけが許される決断を――」
聖女様も凛とした声を響かせ、俺に選択肢を委ねてきた。
「……俺はこんな国を守れない。平民をただの道具のように扱う国を」
俺は腰を上げた。赤い瞳を国王へ向ける。
「……各国で決められた定めを破るというのか? ユニークスキル所持者は四人目の国で過ごし、魔族を倒すのだぞ」
「……俺は村に帰ります。そして、手の届く範囲を守りますよ。こんな国を守るなんてごめんだ」
「それは条約違反だ。大罪人として処刑も考えなくてはいけない。そうすれば、新たな四人目のユニークスキル所持者が現れるからな」
椅子に座ったままの国王が片肘を着いて強気な発言をする。
「……やってみろよ。あんたらに出来るのなら」
「ほう、上から出たな。平民出身だから分からないかもしれないが、お前の大事な者まで処刑するぞ。本当に良いのか?」
「俺の周りに手を出すって……?」
「ああ、そうだ」
国王は鷹揚に頷く。俺を見下しながら発言したものは戯れ言ではないようだ。
何で俺はこんなに弱く見られているのだろう。今の俺はティナを守るための力がある。
立ち上がり、堂々と国王へ正面切って睨み返した。
「――出来るんなら、やれよ。そのときは俺がこの国を滅ぼしてやる」
「ふはは、村人は言うことがちげえわ」
「ふふ、さすがダクトです。その調子ですよ」
勇者と聖女様が笑い声を上げる。
今のやり取りにおかしな部分があったのか分からない。
「騎士たちよ。ダクト・ファームを捕らえよ。牢に入れ、考えを改めさせねばならん」
国王が命令を飛ばし、左右に等間隔に居た騎士達が剣を抜いた。
「おいおい、やめとけって。勇者のオレ様をボコしたやつだぞ? こんな人数で勝てねえよ。謁見の間を血に染めたくなかったら、こいつを見逃せ」
「勇者殿は何を言っているのだ? ここに居る騎士二十名はレベル30を超えているのだぞ?」
「村人のレベルは四桁だぞ。瞬殺される未来しか見えねえ。つうか、オレ様でもこの騎士たちに負ける気はしねえよ」
「……四桁? そんな馬鹿な数値があるわけありませんわ」
「リゼレッタ、お前は盲目してんのか? てめえも負けたんだろ? こいつのレベルは異常だ。突っかかると死ぬぞ」
「有り得ませんわ……いくら魔物を倒そうとそんなレベルが上がるはずがない」
「事実だ。死にたくねえなら、受け入れろ」
「さ、ダクト。わたしたちは帰りましょう。もうここに用はありませんから」
「そうですね……」
聖女様の車椅子を押して出ていこうとする。勇者も俺達の後ろに追従し、このまま帰るようだった。
賢者が国王や宰相、大勢の騎士達が出ていく俺達を見送っている。
「ああ、そうだ。言い忘れていました。リゼレッタ、あなたが悪巧みをするのは結構ですが、才能がないことを自覚なさい。あなたはユニークスキルを持っていても『無能のリゼレッタ』に変わりないのですから」
謁見の間に通じる扉を出る際、聖女様が賢者へ向けて言葉をかけた。
「リシア……ッ。覚えてなさい。必ず、あなたを拷問して殺して差し上げますわ」
後ろを振り向けば、憎しみがこもった目を向けた賢者がこちらを睨んでいた。
ノリで書いてます。謁見は早めに終わらせて数話挟んで村編。やりすぎざまあについて二択なんですが、運営に怒られそう。描写ってどこまでセーフなんですかね……。




