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村人52

 謁見当日。


 小綺麗な衣類に身を包んだ俺は暗澹たる気分のまま、王城へ出向く馬車に押し込められた。


 気が重い。


 家畜が出荷されていく気持ちってこんな感じなのではないかと、そう思ってしまえるぐらいに酷く鬱々した気分に陥っていた。


 謁見の内容はユニークスキル所持者の仲間割れについて。


 ダンジョンから生還した俺が発端となっている。勇者や賢者と敵対したことだ。前者は仲直りではないが、既に和解した。しかし、後者は現在進行形だ。


 賢者リゼレッタが起こした聖女監禁事件も大問題である。


 謁見の内容は気が滅入るが、それよりもティナと離れるのが心配だった。ティナも従者として着いてきて来られたら良かったが、今回の謁見はユニークスキル所持者のみ。


 四人だけの招待である。


 閉じられた扉の外には頭を下げたままのカトレアさんと、瞳を潤ませたティナが居た。


 二人に見送られると馬車が動き、僅かに揺れる。


 屋敷から徐々に離れていき、俺は馬車の座席に膝立ちになってティナと顔を逸らすことが出来ずにいた。


 不安が膨らんでいく。俺が離れた瞬間に屋敷が襲撃されないかと。


 どうしようもないってのに悪い意味でソワソワしてきた。


「……そんなに心配されなくても大丈夫ですよ。何度も申しましたが、屋敷には結界魔法を張っています。侵入者が来たら直ぐに察知できますから」


「でも、侵入者が来てから気付いても遅いじゃないですか……」


 一緒に馬車に乗った聖女様が落ち着きのない俺を宥めてくる。


「謁見の最中に侵入者が現れても、ダクトなら数秒で屋敷に戻れるでしょう?」


「いや、まあ……全力を出せばいけますけど」


 ステータスによって向上した脚力は異常だ。自分自身が自覚している。全力で地面を踏み抜けば、王都の端から端まで数十秒でたどり着くのだ。


 王城から屋敷までの距離なら数秒だろう。


 後のことを一切考慮に入れなければの話だが。もしそうなった場合、謁見の広間は滅茶苦茶になって崩壊している。


 その場に居る者達は風圧で壁にぶつかり、呆気なく死ぬ可能性も高い。


「なら、落ち着きなさい。ダクトは心配性です。そもそも、リゼレッタが襲撃してくるのはずっと先のことなのですよ」


「なんで分かるんですか。あいつが襲撃してくるかどうかなんて俺たちには分からないじゃないですか……」


 聖女様のことを疑っているわけではないが、全てを信じきれるほど俺はこの人を信用していない。


 聖女様って言動がおかしいときがあるし。


「幼少の頃から魔導国には何度も訪れたことがあります。歳の近いリゼレッタとは小さい頃から見知っています。彼女は変わりましたよ。ユニークスキルを与えられたせいで。感情も行動すらも、読みやすくなって悪い方向へ……」


 聖女様はそれだけ言って口を閉ざし、俯いてしまった。


 俺も口出す雰囲気になれず、無言の時間が訪れた。


 時折、ガタゴトと揺れた音だけが響く。高級馬車なのか外と遮断されており、周りの音は拾っていない。


 静かすぎて、聖女様の吐息が大きく聞こえるぐらいだ。


 対面に居る聖女様は車椅子で乗車し、膝の上に両手を重ねて行儀良く座っている。


 俺も背筋を伸ばしつつ、無言になった馬車内で視線をさ迷わせた。


 居心地悪い。何か話せばいいのだろうか。


 切り出しは天気が良いですねが無難か。それとも、聖女様に服が似合ってますねとか言うべきか。


 パッと浮かんだものだが、すぐに俺は止めておくことにした。そんな雰囲気でもない。無言に耐えよう。


 一言も喋らなくなった聖女様と俺。


 時間の流れが遅く感じる。


 耐え難い居心地悪さに、緩やかに流れる景色。


 暇だ。


 聖女様が見えないことを良いように不躾に眺めてみる。閉ざした唇はふっくらで目元が黒い布で隠されていても美人だと分かる。


 というか、聖女様が化粧をしているのに気付いた。


 良く見ないと分からないほど薄い口紅を塗っている。肌もいつもより白い。


 服装は正装である法衣を着用し、真っ白を基調とした神官の制服そのものだ。めちゃくちゃ似合っている。


 聖女様が特別なのか普通の神官にはない装飾も施され、慎ましい飾り付けが美しさを際立たせていた。


 この服は謁見のために教会から用意してもらった物らしい。


 服に着られてる感がある俺とは違い、聖女様は着こなしている。当然と言えば当然なのだが、神秘的な美しさであった。


 そんな風に観察していると聖女様が微笑んでくる。


「そんなに眺められると気恥ずかしいのですが、どうされました?」


「あ、いえ。聖女様がいつにも増して綺麗だなって思って……」


 挙動不審になりつつ、率直な感想を口走ってしまう。


「あら、お世辞がお上手です。ふふ、ダクトに褒められるとは思っていませんでしたね。そちらも上等な服を着ているのでしょう? 雰囲気でしか分かりませんが、似合っていると思います。この目で見れないのが残念でなりません」


「はは、貴族っぽいの着てますけど似合ってはいないですかね……」


 謙遜とかではない。鏡で確認したが、着られてる感が酷かった。


「そんなことありません。ティナさんが格好良いと仰ってましたから」


 初耳だ。俺が居ないところでってなると聖女様の着付けのときか。ティナが言ってくれてんなら間違いはないだろう。


 そっか。ティナが影で言っていたか。こんなこと言われると顔がニヤニヤしてしまう。


 俺は良くも悪くも見た目は変わった。ティナが格好良いと言ってくれてたことは純粋に嬉しい。


 ティナのためにもウダウダ悩まず、シャキッとしようか。よし。


「――到着致しました」


 俺は頬を緩ませながらも背筋を伸ばしていたのだが、御者に気持ち悪い笑顔を直視された。


 一瞬固まった御者と目が合い、直ぐに何でもないように視線を逸らしていたのを見逃していない。


「じゃ、じゃあ、行きましょうか」


 タイミング悪すぎたのを咳払いで誤魔化し、気を取りなして馬車を降りていった。


 目の前に広がるのは王城の一角。開かれた門だ。


 ここから徒歩になるため、俺は聖女様が乗る車椅子を押していく。


 応接間などを経由せずに向かい、城に入ると騎士に案内された。謁見の間である場所の手前までやってくる。


 扉の左右に佇む騎士に引き継ぎ、いつでも入れるとのこと。


「ダクト、顔色が良くないですね」


 車椅子に乗った聖女様が首を曲げ、俺の顔を見向く。目は見えないはずなのに、俺の顔を覗き込むように見上げている。


「そうですか……?」


「ええ、深呼吸でもされたほうがいいのでは?」


「そうしますかね」


 言われた通りにすぅはぁと息を吸い込んで直ぐに吐き出していく。


 謁見は二回目。前回はユニークスキルの証明をしたり、褒美をやるとかの話になった。


 しかし、今回の謁見の内容は主にユニークスキル所持者の確執。ダンジョンから生還したことについても触れるかもしれない。


 門前では勇者をぶん殴った。民衆に囲まれ、目撃していた住民達からも噂が広がっている。


 屋敷前では賢者を殺そうとした。多くの騎士と近隣の貴族に見られている。


 俺が考えているよりも明らかに分が悪い。俺だけやけに突っ込まれる話が予想できるから顔色も悪くなるのだろう。


 ぶっちゃけると謁見なんて気が進まない。


「では、参りましょうか。ダクト、あなたが誰に何を言われようと気にすることはありませんからね」


 聖女様は俺に振り向いていたのをやめ、前を向いた。子供をあやすような優しげな声だ。


「……はい」


「貴族だろうと国王だろうと、気に食わなければ与えられし力を振るえばいいのです。貴方はユニークスキル所持者、女神エクリアトに選ばれた使徒なのですから」


 女神様に選ばれたのはステータス鑑定で解ったが、使徒になったつもりはない。というか、使徒ってなんのことだよ。初耳だぞ。


「使徒って何の――」


 ことですか、と聖女様へ聞こうとしたら扉が開いていた。


 赤い絨毯が奥まで続いている。


 際奥の椅子には国王が居て、宰相や文官も勢揃い。横には騎士が等間隔に並んでおり、勇者と賢者も既に到着していたようだった。


 聖女様に聞こうにも音を出したら叱られそうで黙り込む。無言でキリッとした顔を張り付け、聖女様が乗る車椅子を押して進んだ。


「――この世界は力が全て。強い者のみが主張を通すことが出来る単純で分かりやすい世界なのですよ」


 聖女様の独り言。それは俺だけが聞こえる声量に抑えられていた。

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