村人47
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「俺にはあんたの魔法は効かないし、もう二度と詠唱させるつもりもない。俺の周りに手を出したこと、後悔して死んでくれ」
宣告してみたものの、驚愕している賢者リゼレッタは口元を手で覆い隠し、俺の声が届かずにぶつぶつと呟いていた。
「魔法耐性が高い……それとも、何かしらの結界魔法。ドーピングにしても無傷はありえない。あの青い光は……」
そんな顔色が悪い賢者に構わず、俺は特攻する。
地面を踏み砕き、水平に跳躍。暴風となって接近した俺はいつものように殴り殺すために右腕を振った。
「リゼレッタ様ッ!」
「お逃げください!」
二人の従者が間に入り、俺と賢者の中間に飛び込んできた。若い女の従者二人だ。
だが、割り込んだぐらいでは俺は止まらない。
そのまま殴って従者の胸を貫通させ、もう片方は足を軸にして回し蹴りで殺した。更に、宙を舞った死体を掴み、地面に叩きつける。
地面を跳ね、飛沫を撒き散らす。
力を込めすぎたせいか、路上のほうへ吹き飛んでいる。
賢者がモロに血を浴びていたが、ざまあみろ。
門付近が真っ赤に染まり、賢者は殺された従者二人の様を見て、怒り狂っている。
「ぁ、ぁぁぁあ……シェイネ、ルーファン。なんて、なんて惨いことをッ!」
目の前で部下を殺された賢者が至近距離で激情して俺を睨み付けてくる。
「……あんたがそれを言うなよ。ティナや聖女様にやったこと、忘れたなんて言わせないぞ」
「……」
唇を噛んだ賢者は俺を睨み続け、一歩も引こうとしない。
「あんたは俺の敵だ。お前を殺して、他の仲間と誘拐に加わった関係者も全員殺す。俺を敵に回したことを後悔して死んでほしい」
「わたくしが死ぬ……? そんなバカなことがあると……?」
「ああ」
「わたくしは賢者ですのよ!? 平民ごときに殺される謂れはありませんわ!」
「……平民だからって関係ないだろ。ティナに手を出したんだ。もう二度とそんなことが起こらないように、あんたを殺すだけさ」
「……平民は平民らしく! 貴族の命令に逆らわず、天命を全うすればいいんですの!」
「だから、平民なんて関係ねえって言ってるだろッ」
甲高い声でわめき散らした賢者が煩くて、怒鳴りながら顔面を殴打しようとした。
しかし、違和感が走る。
――直後、半透明の代物が現れたのだ。
俺の拳とぶつかり、硝子の破片が舞ったようにキラキラと残滓が空中に停滞する。
いきなりのことで、びっくりした俺は手を引っ込めてしまった。
賢者も瞳孔を開き、驚いているようだった。
何だこれ、魔法か?
誰がやったんだろうか。賢者の部下は惨い死体を前に戦意を喪失しているし、魔法を唱えた形跡がない。
「――リシアッ! また、わたくしのことを見下しますの!?」
賢者リゼレッタが俺を無視し、屋敷へ向けて金切り声を上げる。叫んだ方向は聖女様が休んでいる部屋だった。
魔法を探知して、特定したのだろうか。
「……聖女様がやったのか、これ」
何で、どうして、というものしか出ない。あと少しで賢者を殺せそうだったのに。
まさか、自分の手で殺したいから殺すなってことか。
ここまで来て、そんなこと言ってられないだろ。ここで殺さないなら、いつ殺すんだよ。
取り逃がして、俺の周りが被害に合うかもしれない。それは二度とごめんだ。
屋敷の方向をちらりと見て、賢者に見向く。
動揺しているリゼレッタが屋敷へ向かって罵詈雑言を口走っている。
内容は偽善を振り撒くなとか、平民は平民同士で仲良くしてろとか、施しをして下に見てるつもりかとか。そんなことを口汚く罵っている。
どれも賢者が言っていることは有り難迷惑みたいな類いだ。
まるで、聖女様が情けをかけているような口ぶり。賢者を殺す気満々なことは微塵も勘づかれていないようで、聖女様が直々に殺そうとするときどんな顔をするのだろうか。
その表情を見てみたい気もするが、今なら俺は簡単に賢者を殺せる。
この場で、俺の手でやるべきだろう。
「――ダクト? なんかすごい音が鳴ってたけど……?」
決心すると玄関からティナが出てきた。隣にはカトレアさんも居る。
心配になって見に来たらしいが、奥の部屋に引っ込んでいてもらいたかった。
「……あら、可愛い平民さん。この人殺しの平民にとって、大事な方でしたわよね。――ファイア・ランスッ!」
俺が背中を向けたのを好機と見たのか、ティナ目掛けて賢者が魔法を短文で放つ。
小さな槍の形をした火炎が玄関へ飛んでいくが、俺が全力の跳躍で先回りして叩き落とす。
「――てめぇ!」
「ぅぁ!? びっくりした!? ど、どういう状況?」
「ティナ、後ろに下がって」
「う、うん。って、ダクト、血が……!? 大丈夫なの!?」
ティナが俺の体にこべりついた血を見て、青ざめていた。これは俺の血ではなく、全て返り血によるものである。
「俺のじゃないから大丈夫だよ」
「……こんにちわ、平民さん。あなたとの生活はとてもとても楽しかったですわ」
「賢者様……?」
「ええ、賢者リゼレッタですわ。お元気そうで、体は元通りになったのかしら? あなたで色々試めせなかったのは心残りでしたのよ。あのときは泣き叫んで、とても可哀想と同情してしまいましたもの」
「待って、どういう意味……? あれって夢だったんじゃ、ないの……?」
ティナがふらふらとよろめき、一歩二歩と後ろに下がる。両手で口元を押さえ、体を丸めて踞った。
「――ティナ、大丈夫ですか?」
「うっ……う」
カトレアさんが背中を擦るが、ティナが嘔吐した。
「ふふ、やっぱり反応が可愛いですわね。また聞かせてもらいたいものですわ。ダクト、ダクトって……。そういえば、あなたの名前でしたわよね? 痛くて痛くて、苦しいときに叫ぶなんて愛されてますのね」
「――いや、いやだ。ダクト、助けてっ!」
ティナがペタンと座り込み、両耳を押さえて取り乱している。辛い記憶を思い出してしまったのか。
「……っ。お前、ふざけんなよ」
「あら、気に障ってしまったのなら謝りますわ。でも、本当に可愛かったのですよ。聖女とは違って、反応が愉しくって」
「……もうお前の声、聞きたくない」
疾駆する。
こいつは生かしてはおけない。平民だからといって玩具にするなんて間違っているし、相容れない存在だ。
拳を強く握る。青い粒子が飛び出た。
賢者は動かない。俺をキツく睨んでいるだけ。
取り巻きの従者達が動こうとしたが、恐れをなしているのか緩慢な動きで間に合わない。
視界の奥にはアッシュさんが呼んできた騎士達が門から雪崩れ込んできたのも見えたが、俺はあえてスルーして殺すことにした。
――賢者リゼレッタの前で地面を突き刺して止まり、腕を振るう。
「――ダクト君、ダメだ! やめてくれ!」
制止の声に、動きが僅かに躊躇ってしまう。
アッシュさんの声だった。悲痛にも似た叫び声で、思わず止めてしまったが、殺さないとダメなんだと自分に言い聞かせてぶん殴る。
だが、俺の攻撃の矛先となった賢者リゼレッタは風圧によって流れた前髪から額を晒しつつ、言葉を紡いでいた。
「焦土と化せ――第六層最上級魔法エインシェント・フレアバーン」
呟いたものは既に完成された魔法であった。
詠唱なんてしていなかったのに、どうして――。
拳を突き出した先に白色の花が現れた。胸元付近で空中に浮かぶ六枚の花びら。
発光し、空間が歪んだ。
六枚の花びらが俺の拳とぶつかると粒子再生が異常なほど迸り、俺の右手から青い光が溢れ出る。
青い粒子に視界を埋め尽くされ、次に真っ白の光が目を焼いた。




