45、賢者リゼレッタ。
襲撃にやってきた賢者リゼレッタは真っ昼間に部下を引き連れ、俺の屋敷に正面からやってきた。
その、あまりにも堂々とした立ち振る舞いは奇妙だった。これから殺し合いをするかもしれないっていうのに、賢者リゼレッタには緊張の欠片もないのだ。
まるで、小さな用事を済ませに来たと思えるぐらい自然体。
襲撃するにしても、闇討ちとか人質を想像していたのだが。
俺の屋敷を警護している騎士達も戸惑っている様子だった。
これだけ大勢の賢者陣営が、突然許可なく来訪だ。間に入るわけでもなく、数人の騎士は距離を置いて静観している。
しかし、その中で比較的に俺の近くにいたアッシュさんは焦っていた。
賢者が発言した襲撃に来たという単語を聞き取れたのだろう。
ユニークスキル所持者二人が争うかもしれないという場面。額から汗を垂らし、俺の判断を仰ぐように視線を寄越している。
そういえば、俺が賢者陣営の人間を殺したことを伝えていなかった。中々、機会が訪れなかったのもあるが、どう切り出せばいいか悩んで結局言っていなかったのだ。
もちろん、人殺しについてはカトレアさんやティナにも伏せている。言ったのは聖女様だけだ。
「……賢者殿、これはいったいどういうことなのでしょうか?」
アッシュさんが意を決し、俺と賢者の間に入ってきた。
「あなたは? 護衛騎士ですこと?」
「はい、王立騎士所属第二中隊長を務めているアッシュと申します。現在はダクト・ファーム君の護衛隊長をやっております。以後、お見知りおきを」
「護衛隊長ですのね。では、この平民が何をやったかご存じで?」
「……賢者様が女児を誘拐していたこと、ダクト君の従者と聖女様を助け出した旨は聞いております」
「そうですか。なら、わたくしの大事な部下が殺されたことは?」
「いえ……」
アッシュさんが俺のほうをちらりと視線を向けてくる。
事実なので、とりあえず一回頷いておいた。
すると、こいつマジかよっていう感じでアッシュさんが目を大きく開く。
言わなかったのもあれだけど、アッシュさんには悪いことをしたな。一先ず、言い訳しよう。
「アッシュさん、すみません。賢者の従者たちは俺を殺そうとしてきて、無抵抗だったら俺が殺されていました。どう伝えるか悩んで言ってませんでした」
正直に話す。
あいつらは口封じに襲いかかってきたのだ。無抵抗でもステータス差で傷一つ負わないだろうが、腹が立って殺してしまった。
俺はそのことを悪いとは少しも思っていない。
「まあ、そんな感じですわね。それで、わたくしたちに手を出したことを後悔させに来ましたの。護衛騎士だろうと止めようとするならば殺しますわ。これは魔導国家の代表として、ユニークスキル所持者の一員としての制裁ですの」
「ダクト君、今すぐ謝罪を。世界の命運を救うために選ばれたのに、争いなんてしてはいけない」
仲裁してこようとするアッシュさんだが、賢者が切って捨てる。
「――謝ったところで許しませんわ」
俺も同じ気持ちだ。
「アッシュさん、本当にすいません。謝る気なんて一切ないです。……ティナに手を出したこと許せないので」
賢者を殺そう。
聖女様と約束していたが、こうなったら流れに身を任せるしかないだろう。
正面から賢者がやってきたんだ。聖女様は足を失ってこの場には来れないし、俺が直接殺すしかない。
俺も賢者もやる気を漲らせていると、アッシュさんが歯噛みした。
「……増援を呼んでくる。この争いはあってはならない」
アッシュさんが部下の騎士に命令を飛ばし、屋敷から走って出ていった。騎士団本部に行くのだろう。
部下の騎士達は俺と賢者を止めるべく、近くに寄ってくる。
「――邪魔されるのも癪ですわ。ファイア・ウォール」
しかし、賢者が呟くと火の壁が騎士達を囲む。
何もないところからいきなり現れた火壁は花壇に植えられていた花を燃やし、騎士の背丈の三倍ほどに膨れ上がった。
「さて、これで殺し合いを出来ますわ。ふふ、といっても蹂躙になるのでしょうけど」
「……俺はあんたが正面から来るとは思わなかったよ。誘拐なんてクソみたいなことしてたんだ。闇討ちとか警戒してた」
「逃げも隠れもしませんわよ。火遊びが過ぎたとはいえ、オモチャをみすみすと盗られ、部下も殺されましたの。腹心のジョセフが負けるとは思いませんでしたが……誰に手を出したのか身を持って教えて差し上げますわ」
「……オモチャって、ティナや聖女様のことかよ」
「そうですが、何か? 平民なんて貴族のオモチャでしょう?」
「は?」
何を言っているのだろう。賢者リゼレッタの思考が読めない。平民がオモチャなんて初めて聞いたし、言われたのも初だ。
「貴方はやり過ぎましたの。――ジョセフ、ルラン、クーネ、シェイル、エルサム、ロイ。殺された部下は全員が貴族でしたの」
「……殺そうとしてきたのはそいつらが先だぞ」
反論したら賢者が額に手を置き、やれやれと頭を振った。
「はあ、わたくしの配下は全員が貴族の一員でしたのよ?」
「……だから、なんだよ」
「平民が貴族を亡き者にするなど言語道断。平民は貴族のために生き、貴族のために死ぬのが定めでしょう。どこの国でも常識ですのよ」
当然のように言ってきた賢者にそうなのかと納得しそうになったが、思いとどまる。いや、違うよな?
貴族のことは良く分からない。
「……そうだとして、聖女様を拐うのはどうなんだ。ユニークスキル所持者だぞ」
本当に平民がそんなのかどうかは僻地の村に居た俺には分からないが、聖女様は女神に選ばれた一人だ。
拐ってまで、いたぶるのはおかしい。
「……聖女リシアは同じユニークスキル所持者だからといって、馴れ馴れしく話しかけてきて虫酸が走りましたわ。当初、わたくしへ姉のように接してきたことを今でも思い出せますの。貴方には分からないでしょう。王族でも、まして貴族でもない者がわたくしと同等の立場で話しかけてきたことを」
賢者が心底嫌そうな顔で聖女様のことを語る。
だが、俺は引っ掛かるものがあった。
「まさか、それだけの理由で拷問したのか……?」
そんな単純な理由なわけないはずだ。
馴れ馴れしく話しかけただけで、あんな拷問はしないだろう。他に、何か逆鱗に触れたものでもあったはずだ。
「ええ、何か問題でも?」
しかし、賢者が首肯した。
「本当にそんな理由で眼と足をやったのかよ……」
「どれだけやろうと説き伏せようしてくる聖女が気味悪くてタガが外れてしまいましたのよ。でも、リシアの忍耐力は素晴らしかったですわ。一切弱音を吐かなかったですもの。そうね、拷問して弱音を吐かせるのが今年の目標にしましょうか。そんなわけでリシアを返してもらいますわ」
「……お前、頭おかしいわ。んなこと、俺が許すわけないだろ」
「貴方、平民のくせにユニークスキルを得たからといって、調子に乗っているのではなくて?」
「知らねえよ、貴族とか平民とか関係ないだろ」
「仕方ありませんわね。元々、交渉に来たという考えはないですわ。ですが、力の差を知らず、無知なままでは些か哀れでしょう。ミレッタ、鑑定石を用意なさい」
「はっ」
後ろで待機していた従者が呼ばれ、小さな簡易鑑定石を賢者リゼレッタに手渡した。
「これを見て、勝てる見込みがないことを知りなさい。そして跪き、頭を垂れて許しを乞えば――貴方を奴隷として使い潰すまで生き長らえることを許可しますわ。ステータスオープン」
リゼレッタ・リライズ・ラ・リィーファル。女
Lv43 クラス、賢者。クラス特性により魔力増強。
攻撃力4
防御力4
素早さ2
技術1244
魔力4300
スキル
火属性魔法Lv2
魔導具製造Lv1
魔力探知Lv3
話術Lv3
解読Lv4
早読Lv7
固有スキル。
火属性魔法(極)、魔力循環、魔力補填、多重詠唱。
固有技。
エインシェント・マジック(階層級魔法)。
ユニークスキル。
女神の加護‐魔導を求めた者。
「極端なステータスだな。これで俺に勝てるのか……?」
戦闘において大事な攻撃力と素早さの値が一桁である。あまりにも弱すぎだろ。戦闘経験のないそこらの住人よりも下だぞ。
魔力の数値は異常だが、放つ前に殺せばいいし。
「……ただの平民が言うようになりましたわね。貴方のユニークスキルがどのようなものなのか分かりませんが、そう言ってられるのも今のうちですわよ?」
賢者は俺のステータスを知らないのに勝てる気でいるらしい。
俺はダンジョンで地獄を経験し、レベルを異常なまで上げている。
生を求めて、死んで生き返るを繰り返して絶対的な力を手にした。
この力は大切なものを守るために使う。
「俺はあんたよりも強くなったよ」
「なら、その強さを証明してみせなさい。――エインシェント・マジック」
賢者が固有技を使い、魔方陣を展開した。




