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39、勇者アークス。

 異常なステータス値によって行われる跳躍を繰り返す。


 着地するときに爆発するような音を鳴らし、足が折れるのだが、粒子再生によって回復して再び地面を粉砕して跳んでいく。


 そうして、城壁まで空を駆けるように移動していた俺は勇者を見つけた。目立つ金髪が奴隷を連れて門を通っている。


 勇者達は狩りを終え、帰るところのようだった。探す手間が省けた俺は門前の広場に急降下する。


 落下した衝撃は抑えることができず、地面を割って土埃が舞う。足が折れたことで粒子再生の光が浮かび、次第に土埃も晴れていく。


「――なんだっ、敵襲か!? クソだりぃなッ!」


 剣を抜いた勇者が構えていた。後ろには奴隷三人と勇者の妹が居る。


 奴隷達は勇者妹であるシェイラを守りつつ、武器を手に取り出して固まっていた。


「……ティナはどこだ」


 土埃が全て無くなり、勇者と相対する。


 久しぶりに見た勇者は前と変わらず、ぶん殴りたくなるような顔だった。


「ああ? てめえ、魔族か? 王都に侵入とか、大それたことしやがるじゃねえか」


 勇者は騎士と同じく、俺を魔族と勘違いしているらしい。


 髪とか目は変化したが、この顔を忘れたのか。俺は、お前のことを覚えているのに。


 まあ、勇者にとって雑魚すぎる村人は、顔も覚える必要性が無かったのだろう。


 囮にするぐらいだしな。無性に殴りたくなってきたが、それよりも先にやることがある。


「……勇者。ティナはどこだ。返答によっては殺すぞ」


「んなもん、知らねえよ」 


 シラを切る気らしい。


「……そうか。なら話したくなるように、ぶん殴ってやるよ」


「はっ、調子こくんじゃねえよ。たかが魔族ごときが、勇者のオレ様に勝てると思ってんのか?」


 そう、舐めたことを言いながら勇者は滑るように俺の斜め前方から先制してきた。


 早くはない。黒ゴブリンよりも遥かに遅すぎる。


 剣を振る軌道を目で追い、攻撃に合わせようとするが、勇者は勢い良く後ろに下がった。


 何してんだ、こいつ。フェイントか?


「……?」


「ちっ、この速さに着いてくるなんてな。やるじゃねえか」


 なるほど。目で追ってたのが悪いのか。そんな速くもなかったけどな。


「アークス様! 加勢します!」


「ダメだ、下がってろ! こいつはオレ様じゃねえと手に負えねえ!」


 勇者の仲間である奴隷達が加勢に来ようとしたが、勇者の一喝によって止められている。


「……昔だったら、勇者にそう言ってもらえて光栄だったかもな。今の俺とは差があるらしいけど」


「はっ、挑発に乗るわけねえだろ。オレ様は勇者だ。ユニークスキルってもんがあるんだよ」


「それで俺よりも上になるのか?」


「当たり前だろ? オレ様の固有技は全ステータスが五倍になる。分かるか? 勇者の固有スキルも合わさって最強だ」


「五倍か……」


 前に勇者のステータスを見たときは150ぐらいだったか。あれからレベルが上がったとしても、俺よりは低いはず。


 まあ、どれだけやられたところで、俺は死なないんだけど。


「恐れを成しても遅えんだよなっ! ……聖剣よ、この手に宿れ! ――ソード・アストレア!」


 勇者が高らかに叫ぶと、それに呼応して剣が輝いた。刀身が青い燐光を灯し、輝きが徐々に増していく。


 青い剣を水平に掲げた勇者が、笑みを浮かべたまま腕を振るった。


「――一閃」


 斬撃の形をしている青い粒子が飛んでくる。


「遅いな」


 俺は呟きながら片手で弾く。斬撃は勇者の後ろにある壁に当たり、一部分が割れたように砕けた。


 前に見たときは速くて視認出来ないほどだったが、俺のステータスでは余裕らしい。弾いた右手も傷一つない。


「――ちっ、やっべえな。魔族の中でも上位種か?」


 舌打ちして、焦りようを隠せていない勇者。俺は攻守交代ということで地面を抉って接近する。


「次は俺からな。ティナの居場所を話せば許してやるよ」


 一瞬で勇者の懐に入ると拳を握り、隙だらけの腹に打撃を与える。


「――ぐっ、はッ!?」


 吐血し、九の字に折れ曲がった勇者。


 俺はそのまま顔面を鷲掴みにして、城壁にぶち当てた。


 高い壁の中央に勇者が背中から打ち付け、全面に亀裂が走る。


 地面に落ちた勇者が壁に背中を預け、剣を握ったまま尻を着いた。


 足は伸ばしたままで、今の攻撃だけで立ち上がる気力も尽きたというのか。勇者は反撃をしようとせず、俺を見上げるだけだった。


「ティナの場所を言う気になったか?」


「だから、んなもん知らねえって言ってんだろッ!」


 それでも、威勢の良い勇者がむかつく。


 早く吐けよ。ティナを拐ったのはお前だろ。


「まだ言わないってんなら、何度でも殴って吐かせてやるよ」


 勇者の首を左手で掴み、持ち上げる。


 右手の拳を振るい、殴打していく。


 鼻が折れ、歯が砕けた。口から血を流し、目元が腫れて真っ赤になった勇者。口だけで呼吸するようになり、いつしか横暴な態度は鳴りを潜めた。


 俺も本気で殴ってはいないが、それなりの力を込めている。これだけのステータス差があるのに、死なない勇者の耐久力が凄まじい。


 固有技やスキルのおかげなのだろうが、感心してしまう。


「も、もう止めてくださいです! 兄さまが死んでしまうのですっ!」


 一般人も含めた大衆が遠巻きに見守っていたのだが、一人が駆けつけてくる。


 勇者の妹であるシェイラだ。


 泣きそうな顔で俺の左手を両手で掴み、勇者を下ろそうとしている。


 この子はティナと仲が良かった。俺がダンジョンに幽閉されているときも遊んだりしていたのだろうか。


「なあ、ティナの場所は知らないか? こいつだろ、拐ったの」


「……ちょっと待ってくださいです。ティナって、ティナちゃんのことです?」


「……そうだよ」


「ティナちゃんが拐われた……? あと、違ったらすみません。あなたはダクトさんなのですか?」


 勇者陣営の中で、唯一シェイラだけは信用できると思っている。ティナと仲良くしてくれているだけで俺は全幅の信頼を送るのだ。


 しかし、ティナが誘拐されていることをシェイラは知らなかった。


 嘘をついているような顔もしていないし、これが演技だったら俺は何も信じられなくなる。


「ああ。俺はダクトだ。ティナが拐われた。勇者がやったわけじゃないのか……?」


「ダ、クト? お前、まさか、村人か……?」


 血を吐きながら勇者が目を見開いた。


「やっと思い出したか。俺はお前がダンジョンで囮にした村人だよ」


「……はは、そうか。攻略でも、したか。良かったじゃねえか、雑魚な村人でも攻略できてよ」


「……あ?」


「低レベルでも、攻略できるギミックがあったんだろ? お前を囮にしたこと、オレ様は間違ってねえ。生き残るために、最善だった」


「低レベルで攻略できただと……?」


 俺は勇者の髪の毛を掴み、壁に叩きつけた。


 城壁が割れ、崩れ落ちる。


「――ぐっ!?」


「俺は! お前に殺されたんだぞっ!? 何度も、何度も、何度も死んだ! どれだけ、死んだと思ってる!? ふざけんなよ!」


 勇者の顔を掴んで、何回も打ち下ろす。


 城壁の一部が完全に崩壊し、地面も陥没して小さな穴が出来ていた。


 勇者の後頭部が割れたのか、血を夥しいほど流している。


 この状態のままだと死ぬだろう。


 でも、構うものか。こんなやつ殺したっていいじゃないか。


「や、止めてくださいです!! 兄さま!? 兄さま!」


「アークス様っ!」


「アークス様、死んじゃう!」


「こやつを止めなければ!」


「うるっせえよ……何なんだよ、お前ら。全員、殺してやろうか?」


 勇者の頭を離して、こちらに向かってきた奴隷とシェイラを睨む。


 彼女達は俺に睨まれたことで、ぴたりと足を止めて勢い余って地面に転んでいる。


 どうしてか、震えていた。涙目で俺を見上げ、懇願するように勇者へ手を出さないでくれと頼んでいる。


 一時の感情に流されて言い過ぎたかもしれないが、そんなに怯えるほどなのか。殺気が漏れ出ていても、自分では分からない。


 ふと、周りを見てみれば、遠巻きに眺める民衆も、奴隷も、勇者の妹も、俺を見詰める目は同じようなものだった。


 瞳に映るのは恐怖。この場に集う者達は俺を恐れていた。


 全員が俺を化け物のように見ている。


 ……なんでそんな目で見るんだ。俺はただ、ティナに会いたいだけなんだよ。

修正は切りの良いところでやります。

評価ありがとうございます。

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