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37、帰還。

 魔方陣に乗った俺は視界が明滅し、次の瞬間に映ったものは地面だった。


 魔方陣から吐き出されるようにして投げ出された俺は咄嗟のことで受け身を取れず、顔面から地面に着地した。


 痛みはないので直ぐに立ち上がり、辺りを見渡すと円形状の広場だった。


 前に見たことのある景色。


 俺が、勇者や賢者と一緒になって挑んだダンジョンの入り口だ。


 ここは、騎士団本部の真下に位置する広場である。


「……やった。本当に戻れたんだ」


 胸が透き通るような気持ちで、俺は拳を握る。


 俺は地上へ生還した。





 記憶が朧気だが、一度は来た道だ。


 逆の道を辿ればいい。


 この広場を出れば騎士達が在中している騎士団本部に出る。まあ、騎士達と出会っても説明をすれば納得してもらえるだろう。


 全部、勇者のせいなんだ。


 そんなことを思いつつ、早く屋敷に帰ってティナに会うため、俺は厳重に封鎖されている扉を開けようとした。


 やたらと鎖が巻き付いており、札みたいなものが貼られているやつだ。


 手をかけて、少し力を込めて押し開ける。


 ――直後、警報が鳴った。


 ジリジリジリという爆音である。その直ぐにカンカンと鐘が鳴り響き、辺りが騒がしくなる。


 鎧を擦れさせた足音が何個も聴こえてきた。


「……もしかして、俺のせいか」


 独り言は周りの騒音にかき消える。


 多分、扉を内側から開けると警報が鳴る仕組みなのだろう。そうやって、騎士達が来るのを待ちながら分析してみた。


 俺が無理に出ていくよりは待ったほうが賢明だ。あらぬ疑いをかけられたくないからな。


 あと、道がうろ覚えなので騎士に案内してもらいたい。


 そのまま保護して詳細を聞くっていう流れになるなら、ティナとかアッシュさんやカトレアさんに俺が生還したことを伝言してもらう方向でいく。


 方針はそんな感じで。


 そんなことを鳴り止まない警報の中で考えていると、扉が外側から開いていく。


 それなりに広い通路が覗き、総勢三十人の騎士達が居た。誰も歓迎している様子はなく、全員が剣を構えている。


「前列、構え! 突撃せよ! 騎士の誇りにかけて、この道を進ませるな!」


「え……?」


 隊長クラスの声に従い、複数の騎士が突撃してくる。


 ステータス差もあり、俺にとってあまりにも遅い攻撃。振るわれた剣を屈んで避け、両横からの突きには後ろに下がって対応する。


 距離が空いたところで騎士が広場の中に入り込み、横へ広がって隊列を組んでいく。


「ちょっと、待ってください! 何で攻撃してくるんですか!?」


「人型だと思ったが、話せる魔物か。いや、知性が宿っている目をしているな。まさか、魔族なのか……? 総員、気を引き締めよ!」


「いやいや、おかしいでしょ! ちょっとは話を聞いてください! 俺はユニークスキル所持者のダクト・ファームです!」


 まさか、ダンジョンから出てきた魔物とかと勘違いしてるのか。


 どうみても、俺の外見は人間なのに。


 くそ、騎士と争う意味がない。俺は一刻も早く帰りたいだけなんだ。


「女神様に選ばれた者を騙るとは……。到底、許せることではないぞ!」


 憤る騎士達。何人か本気で怒っているのか、睨んできた。


「ちゃんと鑑定石で証明しますから!」


 懐から簡易鑑定石を出そうとする。


 騎士は警戒をしながら俺の動作を見守りつつ、少しずつ距離を近付けていた。


「あれ……無い」


 ズタズタになっているズボンのポケットには無い。上半身は裸なので、鑑定石を失くしたことになる。


 アルラウネのときか、ドラゴンのときか。黒ゴブリンのときにはあったはず。まじかよ。


「隙を見せたぞ! 突撃せよ!」


「話を聞いてくださいよッ!」


 騎士の攻撃を避けつつ、後ろに跳ぶ。


「ちっ、素早いな。総員、包囲網を組め!」


「だから、話を聞いてくださいって。俺に攻撃する意思はないし、話し合いをしたいだけなんですって!」


「ハっ。魔族の言葉に騙されるなよ!」


 騎士に鼻で笑われた。


 そもそも、魔族って何だよ。俺は人間だろうよ。


 騎士が考える暇を与えず、一斉に剣を振りかざしてくる。


 全員の騎士が俺に敵意を持ち、話を聞こうともしない。


 さすがに苛々してくる。


 敵として認定してくる騎士に四方から迫られた俺は、怒りをぶつけるようにして足を思いっきり踏み下ろした。


 轟音が鳴り、地面が浮き上がった瓦礫の石が騎士に命中する。吹き飛ばされた騎士が数名転がり、今の一撃で肩が外れた者もいて苦悶の表情をしていた。


「ぐっ……!」


「ちがッ……今のは攻撃しようとしたわけじゃなくて……!」


「負傷した者は下がれ!」


「だから、話を……! 俺はユニークスキル保持者のダクトなんですよ!?」


「戯れ言を!」


 騎士が全く聞き耳を持たない。なんでだよ。


「早くティナに会いたいってのに……もういいや」


 騎士なんて無視しよう。俺は攻撃されたところで痛くないし、頭だけ守れば歩くのも止められることはない。


「何かする気だぞ! 奴の攻撃に備えよ!」


 そんなことを言っているが、俺は素通りするだけだ。


 騎士に囲まれている状況で、突っ切るように歩いていく。


 もちろん、騎士が剣を振って攻撃してくる。胴体を狙ったものだったので、そのまま受けた。


 ――硬質な音が響く。


 カランと落ちた剣の先端。


 騎士の剣が折れた。


 たまたま折れたとかではなく、振り切った剣が硬いものに直撃して折れたものだった。


「あ、れ……?」


 剣を振った張本人たる騎士の一人が驚愕している。俺も同じ顔をしているはずだ。


 剣ってこんな簡単に折れるんだな。ステータスのおかげなんだろうけど、ナマクラの剣だと錯覚してしまう。


「おい、ボーっとするな! 殺されるぞ!?」


 別の騎士が、剣を折られたことで隙丸出しの者の首を引いて下がらせる。


 体勢を崩した騎士は尻餅を着いて地面に転がり、俺を見上げていた。


「化け物……」


 呟いた言葉に俺は大袈裟すぎだと否定しようとしたが、騎士と目が合う。


 彼は震えていた。後退りしようと必死に手を動かし、尻を着いた不格好なままで距離を取ろうとしている。


 瞳の中に映る俺は――白髪に赤眼だった。


「……この髪と目が悪いのか」


 前髪をいじる。


 ストレスで白くなった髪の毛だ。真っ赤になった魔眼は固有スキルのものだが、俺は格好良くなったと軽く考えていた。


 見ようによっては魔族に見えなくもない。


 魔族なんて見たこともないが、人間でこんな髪や目をしている者は居ないのだ。

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