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村人36

 アルラウネを倒した俺は悠々と次の階層に繋がる遺跡の階段を進み、見たこともない紋章が描かれている扉の前までやってきた。


 行く手を阻む扉。懐から取り出したカギを鍵穴に差し込み、回すとカチャリと音が鳴る。


 カギは差すと抜けない仕組みなのかビクともせず、俺は素直に従ってカギが刺さったままの扉を押し開く。


 覗いた先には一面だけのフロアだった。足を踏み入れると両端から明かりが灯り、全容が浮き彫りとなる。


 障害物など何もない広い空間だが、際奥には山のような骨が積まれ、真っ白い長細いものがいくつも重なっていた。


 床は青色と緑色が混ざった不思議な色合いの石畳。四角形の同じ大きさのものが均等に並べられ、平坦な足場となっている。


 明かりは魔導具なのだろう鑑定石と同じような石だ。何個もずらりと飾られている。


 俺は最後の階層ということで、警戒心を露にしながら一歩二歩と進む。


 そしたら、後ろの扉が閉じた。静まり返った空間に響くカチャリという音。鍵が自動で掛けられた。


 振り向くが、鍵穴は無い。そもそも、カギは表側に差したままだ。


 ――閉じ込められた。


 数歩戻り、扉をガンガンと叩いてみる。


 上の階層に戻りたいわけではないが、このフロアに今の俺でも勝てない強敵が出るようならレベル上げをしたほうがいい。


 しかし、俺のステータスですら壊すのは不可能なのか、手応えがない。硬すぎる。


 そんなことを試していると俺は違和感に気付いた。何か、掠れたような音が響いている。


 振り返り、原因を突き止めた。中央で積まれていた骨だ。どうしてか、動いている。


 折り重なった骨が広がっていき、両翼のように開いた。細長い骨が鞭のようにしなり、尻尾と呼んでもいい部分が地面を強く打つ。


 尖った顎が動き、関節が音を鳴らすと空洞の部分に紫色の炎が灯った。


 紫色の炎は二つあり、どこからどう見ても眼球だ。


「――――」


 鼓膜が破れたと錯覚するほどの咆哮が放たれる。


 どこからそれだけの音を出したのか知らないが、俺は思わず後退りしまって扉へ背中を預けてしまった。


 このダンジョンの守護者なのだろう。禍々しい雰囲気があり、存在感を主張している。ただの骨だと思ったものは魔物だったのだ。


 アルラウネよりも小さいが、俺よりも遥かに大きい。


 巨大な骨の塊は何枚もの骨が折り重なって、生物としての姿を保っている。


 俺は、この魔物を見たことがあった。記憶を探って思い出すが、村長の家に置かれている本の内容に書いてあったはずだ。


 英雄譚のお話で、敵として登場していた。ティナがよく母親に読んでほしいとせがんでいたやつだ。


「……ドラゴンなのか?」


 肉を全て削ぎ落とせば、こんな見た目になるはず。そんな呟きに呼応したのか、骨の翼が羽ばたくように開いた。


 同時に、細長い顎を引くと上を向き、喉の部分に黒色の光が迸る。


 まるで、ドラゴンが炎を吐き出すような姿勢だ。


「……ッ!」


 直後、そのまさかであった。


 骨だけのドラゴンが黒い物質を吐き出すと、地面が真っ黒に侵食されていく。見た目は黒炎のようだが、全く違う何かだ。


 押し寄せる黒いものを確認しつつ、俺は全力で横に跳ぶ。あれは避けなければいけないという危機感を脳が伝えてくる。


 一旦、体勢を整えたい。


 一刻と迫る黒色の物質に、地面を抉るほど力を込めて逃れようとして、左の壁まで一息で駆ける。勢い余って壁に激突するが、痛みもなく振り返った。


 黒色の侵食がもう間近だと認識したら、右手が触れていた。


「――は?」


 ボロボロと右手の指が崩れていく。黒く変色し、指だったものが硬化したように地面へ落ちた。


 侵食は止まらず、右腕から肩へ、胴体から喉まで侵食していき、剥がれ落ちるように崩れていった。


 絶え間なく、青色の光が浮かび上がる。スキルの粒子再生が始まっているが、黒い侵食は止まらない。


 顔の部分も侵食され、視界が暗転した。





 眼を開く。


 黒色の侵食は無くなっており、ドラゴンはこちらを様子見するように眺めていた。


「今ので死んだのか……」


 俺は顔に手を触れ、意識が無くなった事実を呆然と受け入れる。


 ユニークスキルのおかげで体は復活したが、触れただけで死ぬような攻撃。未知のもので対処法もなく、女神の加護が不死者でなければどれだけ強くても死んでいた。


 ダンジョンの最後になる魔物に相応しい強さだ。


 というか、本当にこの階層でダンジョンが最後なのか謎だが、これだけ強ければラスボスだろう。そうであってほしい。


 これを倒して、ダンジョン制覇だ。


 俺はドラゴンを観察し、脆いところや急所を探す。


 固有スキルで手に入れた魔眼には、ドラゴンの急所が映っていない。心臓を止めれば楽に倒せる魔物ではないのだ。


 俺はどうしようかと迷いつつ、肉弾戦を挑むことにした。


 このまま距離を取ったところで黒いものを吐き出され、触れたら死んで意識を失う。その繰り返しとなるだろう。


 何より、俺の攻撃手段は拳だけだ。


 ドラゴンの骨を全部砕いてやる。どれだけ殺されようと俺は死なないのだ。


「……ティナに会うために、お前をぶん殴って倒してやるよ」


 啖呵を切って駆け出す。


 俺は早くダンジョンから抜け出したいし、ティナに会いたい。普通の日常に戻りたいのだ。


 こんなところで足踏みしているわけにはいかない。


 俺はティナの顔を見たいだけなんだ。不安だし、勇者に何かされていないか。


 どうか、無事であってほしい。


 何よりも、こんなところ懲り懲りだし、面白くない普通の日常でいいから戻りたいと思っている。


 そうして、心意気を新たにした俺はドラゴンの懐に入り込み、体の重心を使って本気で殴った。


 フロア全体に空気が爆ぜる音が鳴り、骨と俺の拳がぶつかる。


 俺の右手は潰れて血を流していたが、粒子再生で復活して更に殴った。


 殴ってみても効いている感じはしない。だけど、めげずに同じ箇所を何度も叩いていく。


 その間、ドラゴンが爪を振りかざし、俺の体が切り裂かれたり、足の骨で潰そうとしてくる。


 頭だけは守って、攻撃を受けた。


 半身が潰されようと、胴体を真っ二つにされようと俺は殴り続ける。




 時間が経った。体感で五日ほど。


 飲まず食わずでドラゴンと戦っている。


 腹が減ったし、喉も渇く。睡眠の欲求には勝てず、床に転がって眠ったりはしていた。


 その間に何度死んでいるのか考えたくはないが、目が覚めたら黒色の物質に侵食されていて、起きたら秒で死んだこともあった。


 しかし、ついにドラゴンの骨を砕くことに成功し、そこからは早かった。


 一枚の大きな中核部分を砕くとドラゴンの動きが極端に鈍くなり、俺は好機と捉えて拳を振るいまくった。


 ――打撃を与え続け、ドラゴン全体の骨が崩れ落ちる。


 原型を保っていない骨がフロアに散らばり、元に戻る気配はない。


「……はぁ、はぁ。倒した、のか?」


 半信半疑で呟き、骨を足でつついてみた。動きはない。


 やっと倒したんだ。


 倒したことを噛み締め、俺は奥へ進む。


 三段ぐらいの高さに壇上があった。何かを奉るような黒い四角形の台座だ。


 そこに三つの箱が置かれていた。


 二階層にあった宝箱と形が同じやつだ。俺はそれを開けようとしたら、薄い長方形のものが現れた。


 ステータス画面と似たようなもので、文字が書かれていた。俺は村人出身で勉学なんてしたこともなく文字も読めないのだが、ステータスの文字は読める。


 それと、同じような感覚で文字の意味を目線で追い、意味を理解する。


 どうやら、どれか一つだけを獲得できる代物らしい。宝箱の内容が書かれている。




・蘇生の雫。

 一人分用。死んだ者へ飲ませると蘇生することができる。


・無効化の首輪。

 身に付けている場合、あらゆる状態異常を防ぐことができる。


・最苦の短剣。

 刺した者に絶望を与え、苦しませて殺すことが出来る。




 俺は消去法で真ん中に置かれている『無効化の首輪』を取り出した。


 ユニークスキルで不死となった俺に蘇生の雫は不要だ。短剣も勇者に刺してみたいが、それだけで選ぶよりも有用そうな物を選んだ。


 箱から手に持ってみたが、黒い変哲のない首輪だ。サイズが大きく、普通に頭から通せるほどである。見た目としては、お洒落に気を使っていない俺ですら装飾品にもならないと断言できるやつ。


 頭から首へすっぽりと被ってみるが、やはり大きい。これ首輪なのかよと疑問に思っていると縮んでいく。


 すぼめられ、首に密着するように形状が変化した。


「おおっ」


 と声を上げて、はしゃぐ俺。魔導具の一種なのだろう。違和感もなく首に巻き付いている。


 そんなふうに首輪に浮かれていると新しいが画面が映った。


 ――地上への入口。魔方陣へ。


 読み終わると、青色の光がフロアに全体を明るく照らした。


 地面へ青に輝く線が走り、不思議な紋様を描いていく。


「――地上へ出られるっ!」


 俺は紋様が書き終わったと見るや、そこへ飛び込んだ。罠という可能性については一切考慮しなかった。


 わざわざこんな画面を出してまで、罠に嵌めようとするのは悪質すぎるし、警戒して魔方陣が無くなったら本末転倒である。


 俺はクソみたいな地獄から抜け出せると信じ、魔方陣へ乗った。

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