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村人35



「うっ……お、えぇ」


 意識が戻ると真っ先に吐いた。


 気持ち悪いという不快感しかない。


 俺は荒れ果てた地面に両手を着き、動悸が収まるまで堪えた。


「カギ……探さないと」


 再び吐きそうだったが、階層を突破する唯一のカギを手に入れなくてはならない。


 死に絶えたゴブリンの死骸は無造作に寝転がっている。俺はふらふらと寄り、腰に巻かれている灰色の布からぶら下がるカギを抜き取った。


 無骨な白いカギだ。アルラウネの真下付近、遺跡の扉にある鍵穴と完全に形状が一致している。


「やっと、次の階層に行ける……」


 この階層に落とされてから、長いようで短い時間をここで過ごした。殆んどを最悪のレベル上げに費やしていたが、正確な時間がどれほど経っているのか分からない。


 青空が広がるフロアには夜が来ず、昼のまま。


 ティナのことも心配だし、早くダンジョンを抜け出したい。


 俺は泉に戻って顔を洗ったりして血を流すと、アルラウネが近くに鎮座している遺跡を目指す。





 森林地帯から熱帯地帯へ。


 細い木が点々と存在し、小さな蔓が巻き付いている。中にはアルラウネ本体の蔓や花も混ざり、極太の緑色の物体が川に浸っていた。


 それらを無視して進み、残骸だらけの遺跡に到着する。


 前に来たとき掘り起こした階段。そこを下れば扉があり、次の階層へ繋がっている。


 瓦礫が散らばった遺跡を踏み歩いていると階段へ向かう途中、けたましい嗤い声が鳴り響いて顔を上げた。


 アルラウネがこちらを見ていた。


 巨大魔物とでも呼称するべき大きさ。全長で何百メートルあるのか。この階層に地上と同じように雲があるのならば、届きそうなほど高い。


 アルラウネは全身緑色の女型魔物だ。


 巨大な四枚の葉の中央に感情豊かな魔物の上半身だけが付いており、周りに浮かぶ巨大な蔓や花を操っている。


 無数の巨大な蔓には蕾があり、紫色の赤い斑点模様で毒花を連想してしまう色合いだ。


 それが、アルラウネの手と足となって動いており、俺のほうへ向けていた。


 巨大な蔓と花が迫ってきていたが、ちらりと視線を移しただけで俺は無視する。


 アルラウネと戦うつもりはない。


 カギは手にいれた。もう、この階層に用はないのだ。


「――ッ」


 しかし、アルラウネがそれを良しとしなかった。


 俺を殺すよりも先に、階段のところを蔓と花で埋めたのだ。


 アルラウネを見上げる。進路を塞ぐのを意図してやっているらしく、歪なほど割けた笑みを浮かべていた。


 無意識に唇を噛む。


 結果的に、アルラウネが寝るまで待ったほうが良かったのかもしれない。悔やんでも遅かったのだが、俺は思考を迷わせた。


 一時退散して、こいつが睡眠中にまた来るべきか。


 瞬時に思案すると、俺は巨大な生物を正面から見上げた。


 ――アルラウネを倒すか。


 早くダンジョンから出たかったが、次の階層がどれだけの強敵が居るのか不明だ。次階層を楽に進むためにもレベル上げは必須となる。


 こいつがどれほど強いのか。黒ゴブリンと同等なのは間違いない。


 巨大な蔓の押し潰しなど、枝分かれした細い蔓の鋭利な刺突は脅威。大きさからして、どこを攻撃すれば倒れるというのか。


 蔓を全て分断すれば殺せるのか。それとも、本体のような女型魔物を殺せば良いのか。


 普通の者なら検討もつかない。


 しかし、俺の魔眼によってアルラウネの急所は視えていた。


 いくら蔓や花を壊してもダメージは微々たるものだろう。


 俺は女型魔物の本体へ跳んだ。


 近付くのを阻止しようと蔓が進行方向に阻んでくる。太い蔓から枝分かれした細蔓が鋭利な針となって俺の体を貫いていく。


 腕が串刺しにされ、足を貫通する。


 痛みはなく、穴だらけとなった俺はそれでも止まらなかった。


 頭を破壊されなければ、意識を失うこともない。これを知ったことにより、俺は無謀な突撃が出来ている。


 黒ゴブリンを倒したおかげでステータスも向上し、貫通したままの蔓を引きちぎる勢いで接近していく。


 ついに、四枚の巨大な葉っぱの上に着地した。


 急所近くに迫られたアルラウネは動揺しているように見えた。


 嗤い声も上げず、引きつった顔をしている。


 太い蔓が俊敏な速度を持って俺を退かそうとするが、あまりにも遅くて片手を使って全力で弾いた。


 蔓が爆発するような音を立てながら、あらぬ方向へ直進していく。


 同時に片手が今の動作で千切れて破裂したが、すぐに粒子再生が始まる。


「――ィィィィァァァアッ!?」


 アルラウネが甲高い叫びを上げると、至近距離の俺へ全方位から細い蔓が串刺しにするように飛んでくる。


 俺は避けることもできずに全て食らった。


 葉っぱの上に膨大な量の血を流しながらも、着実に足を進めてアルラウネの目の前にやってくる。


 胸元に抜き手を放ち、動いている心臓があった。


 掴み取り、引き抜く。


 生暖かい感触の物を手に持ち、萎れていくアルラウネに最後の言葉を吐き捨てる。


「――悪いな。俺は死なないんだ」


 持ち上がっていた蔓や花が地面に落ちていく。


 盛大な音と共に地震を発生させ、アルラウネが倒れた。

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