村人33
結論を言う。
黒ゴブリンに挑んだが、勝つことはできなかった。
レベルが500を超えているというのに、何も出来ずに死んだ。
力も早さも、何もかも足りない。
もちろん固有技は使わなかったのだが、総合力で負けていた。
ステータスで新たに手に入れた魔眼の効果も分かったが、戦闘には関係ないものだった。
心臓の位置が見える。それだけだ。黒ゴブリンに限らず、生物ならどんなものでも急所が見えるやつなんだろう。
胸付近に赤く輝き、明滅を繰り返しているのだ。
だからなんだよ、という魔眼である。こんなものを手に入れても役に立たない。
今の段階では黒ゴブリンとレベルの差がありすぎる気がする。灰色のオークもそうだが、俺の攻撃が一切通らないのだ。
やはり、遠回りだろうと地道に狩ってレベルを上げるしかない。せめて、俺の攻撃が普通に効くぐらいまで。
死んで暗転した視界を取り戻した俺はオークが居る森に移動し、はぐれている奴に殺し合いを挑む。
この階層で一番弱いのはオークだ。
アルラウネは論外として、黒ゴブリンはめちゃくちゃ強い。次点のウルフはオークを殺しているところを散見している。
オークを複数相手にして、殺せるぐらいにならないとウルフにはまず勝てそうにない。
俺は時間をかけてでも、オークを殺してレベルを上げるのだ。
森の中を散策して一体だけのオークを探す。
居た。
灰色の巨体は森の中で良く目立つ。
俺は素手で殴り殺すつもりである。剣は折れるし、効かないことは前の戦闘で身をもって知った。
固有技は使わないことを意識しつつ、掴まれないことを念頭に置きながら回避主体で戦うのだ。
――後ろからの奇襲を行う。
俺もレベルが上がり、ステータスが大幅に更新したこともあって速さを実感する。
視界の端を流れる木々はいくつもあって、空気を切り裂くほどの勢いで走っているのだ。
地面を水平に跳んでいる。起点にした足を踏み抜くと地面が窪む。
それほどの速さをもってオークの頭に飛びかかった俺は拳を振りかぶり、勢いのままぶん殴った。
ゴツンという鈍い音が響き、空気が振動する。
辺りに余波となった風圧が木の葉を散らし、オークがこちらを振り向いた。
「ブヒュ?」
首を傾げ、頭に何か当たったとばかりにポリポリかいている。
真っ黒の瞳は俺を視認するや口を歪め、嗤い声を上げるように鳴く。お互いに伝わらない言葉だったが、俺は同じような意味だろう言葉を返す。
「――ぶっ殺してやるよ」
気合いを入れて拳を構えた。
オークは主に俺を掴もうと両手を伸ばしてくるが、回避に専念していることもあって避けまくる。
隙を見つけては殴り、距離を取るのを徹底しているとオークは動きを変えた。
突進、噛みつき、腕を払うなど。
しかし、俺は全てを避けながら殴っていく。
黒ゴブリンと比べれば遅すぎて回避余裕だ。
数十分の死闘を続け、森が荒れ果てた渦中で殴り続ける俺。灰色のオークは倒れる様子もなく、俺の体力が切れそうだった。
「なんで、死なねえんだよ……!」
ぜえぜえと、荒い息を吐きながらオークと真っ正面から向かい合う俺は足がもつれ、滑るように転がってしまった。
オークはそれを見逃さず、俺を両手で包むように握り絞めるとそのまま圧縮して殺すようで、抜け出そうにも逃げれない。
暗闇の中で俺は叫ぶ。
「――ぁぁああああ」
オークに殺された俺は目を覚まし、地面に拳を思いっきり落とした。
盛大な音を鳴らし、地面が割れる。
「勝てない……! くそッ!」
レベル500ですら、非力なのだ。
このダンジョンの魔物の強さがおかしい。最初から分かっていたが、何でこんなダンジョンが騎士団本部の真下にあるんだ。
魔物が地上に出れないのか知らないが、危険すぎるだろう。
この階層よりも上のフロアはゴブリンぐらいで楽勝だったけども。
難易度がいきなり跳ね上がりすぎだ。
どうすればいいってんだよ。
一番弱いのがオークだ。あれに勝てなければ話にならない。
唯一の方法として固有技が浮かぶ。
あれを使えばオークを殺せて楽にレベルが上がるだろうが、だけど食べたくない。あんな思いをしてまでレベル上げなんて嫌だ。
頭を振る。あれは力を得る代わりに、人間を辞めてしまう。
「……他に方法は無いのか」
考える。
「……最初、オークを倒したとき」
俺はいつの間にかレベルが上がっていた。
固有技に頼らず、オークを倒していたのだ。
赤い果実が脳裏に浮かぶ。
魔物を食べるか、魔物に食べられるか。
俺は、悩んで後者を選んだ。
赤い果実を取りにいった。
川を渡り、開けた場所に枝の部分が長い変な木がある。赤い果実はほとんど俺が摘んでいたが、まだまだ実っていて取り放題だ。
辺りにウルフは居ない。
遠慮することもなく、全部もいで俺は拠点としている泉の場所に置いた。
果実を一個持って、オークを探す。
複数の群れが居た。
いつもなら逃げていたが、俺の感覚は麻痺していて果実を持ったままオークの群れに躍り出る。
五体のオークが俺を視認した。
豚の鳴き声をしながら、早い者勝ちだと競うように口を開けながら突進してきた。
「……ははっ」
俺は果実を食べて、待ち受ける。
シャリシャリと音を鳴らして食べると瑞々しくて美味しさが口の中に広がるが、鉄の味もした。
顔から血が吹き出す。
痛みは無くて、血が吹き出している感覚もないのだが、ポツポツと血が垂れている。
怖いという感情は確かにあるが、どこかへ置いておく。一刻も早く、ダンジョンを抜け出したいのだ。
「……これも、レベルのため」
オークが俺を掴み、持ち上げる。
別のオークが俺の腕に噛みつき、腕を引きちぎって飲み込んだ。
また、別のオークが俺の胴体に噛みつく。
あらゆる箇所が、食いちぎられていく。
それを俯瞰するように俺は意識が薄れつつも、異様な光景を眺めていた。
――スキルの粒子再生ってこういうことか。
なんて、別のことを考えながら。
食われた側から粒子と呼ぶべき青色の光が浮かび上がり、再生して元通りになっている。
現実逃避なんだろうか。
全然関係ないことを俺は頭に浮かべながら、意識が閉じた。




