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 アルラウネの前にある崩れた瓦礫。正体は遺跡だった。


 草と苔が茂っており原型を保っていないが、四つの大きな柱が倒壊している。


 変な紋様とかあるから遺跡だろう。多分。


 遺跡全体の広さは四方で二十メートルぐらい。そこまで広くはなく、倒壊している瓦礫には草や苔が生えていて細い蔓が巻き付いていた。


 俺は下に続く道を見付けるためにもあそこへ赴き、アルラウネの動向を注意深く観察し、息を殺して忍び足で赴く。


 巨大蔓に身を潜め、蔓から蔓へと移動を繰り返し、瓦礫の山に近付いていった。


 どうにか目標地点にたどり着き、俺は巨大蔓から顔だけを出してそっーとアルラウネを見上げてみる。


 アルラウネが身動き一つしていない。


 というか。


「寝てる……のか?」


 俺に気付いていないというより寝ていた。とぐろを巻いた蔓を枕にして、片肘を付きながら優雅に睡眠をしている。


 ……魔物も寝るのか。


 無防備なアルラウネに何とも言えない気持ちになりながらも、これを好機と捉えた俺。


 足早に遺跡へ行き、息詰まりのような感覚を味わいながらも急いで瓦礫を掻き分けて道を探す。


 いつ、アルラウネにバレるかもしれない状況。否が応にも心拍数は上がっていく。


 大きな石を退かし、蔓を押しやる。


 苔で覆われた石屑に手が滑りそうになるが、慎重に音を立てずに退かしていく。


 アルラウネに見つかれば俺なんか即座に殺される。音を立てたら死に直結するだろう。


 そうならないためにも。迅速かつ、静かに崩れた瓦礫の山を掘り出した。


 大きな柱は無視し、俺だけが通れるような小さな瓦礫を選んで退かす。アルラウネが起きないように大小さまざまな石ころを脇に置き、無心になって瓦礫の山を掘っていく。


 幾分は掘り進め、人一人は穴に隠れる隙間ができた。


 アルラウネが起きてもバレないぐらいの深さだ。まだ寝ているアルラウネを確認しながら、穴に身を潜めて数分の休憩を挟んだ後に再開。


 手が土色に染まって痛くなっていくが、我慢して岩を退かしていくと、ついに見つけ出した。


 ――螺旋階段の入り口。


 やった。そう、心の中で小躍りしそうになった。


 見つけた出口。迷わず階段を駆け下り、途中で俺は立ち止まる。


 愕然としてしまう。


「……嘘だろ」


 そう言葉を漏らした俺は階段に座り込み、脱力する。


 目の前には扉があった。見たこともない紋章が描かれ、頑丈な扉が。


 だが、開かない。鍵が掛けられていたのだ。


 ここまでの階層で今まで無かった扉。


 自力でこじ開けられるような代物じゃないことは一目で明白。一応、試してみるが、やはりビクともしない。


 扉の片側には小さな鍵穴がある。鍵が無ければ開かない仕組みだった。


 こんな小さな鍵を見つけなければ次の階層には行けないことが明らかとなったわけだが、鍵はどこにあるってんだ。


 ヒントはない。


 まさか階層のどこかにあるから探せってか。こんな小さな鍵を。


「……クソっ」


 階段に拳を下ろす。


 瓦礫を退かす作業をして、やっと見つけたと思ったのにこれだ。


 せめて、ヒントぐらい寄越してくれよ。


 俺は一呼吸落ち着けて、考える。


 カギがありそうな場所だ。


 目ぼしいところと言えば階層のボスっぽいアルラウネが持っていそうだが、あの巨体だ。小さな鍵なんて見つけるのが不可能だろう。


 もう、げんなりしてきた。どうすんだ、これ。


 階段で項垂れた俺はここに居ても何も変わらないということに気付きながらも時間を潰し、どうにか気持ちを切り替えようと立ち上がる。


「……探すか」


 扉で拒まれた階段から出て、遺跡から頭だけ出す。


 見上げる位置にいるアルラウネは未だに寝ている。


 花びらを模した緑色の物体の中央に本体となる女の魔物。薄気味悪い笑い声が印象的で異様なほど大きい。


 あれのどこかに鍵があるのかもしれないが、見つけるのは困難だとチャレンジしなくても予想できる。


 しかし、探すなら今しかない。起きたアルラウネに対抗できるわけもないので、俺は腹をくくるしかないのだ。


 あんな小さな鍵をアルラウネがどこに隠しているかは検討が全く付かないが、くまなく地道に探していく作業を開始する。


 アルラウネが起きたら速攻で離れるつもりで、死角となる巨大蔓に隠れながら行う。


 ――数十分が経過。


 無い。どこにも無い。


 どこにあるんだ。焦燥が募る。


 ――一時間が経過。


 どこだよ。もっと分かりやすいところに置いてくれよ。


 探しても探しても見付からない。


 焦りながら探していると、騎士や従者のバラバラとなった遺体を発見する。悲惨な死体に俺は顔を背けたくなった。


 ご冥福を祈るしかない。本来なら、あんな場所で寝かせるわけにはいかないが、俺に火葬はできない。人数分の穴を掘ることも難しいため、諦めるしかない。


 だが、遺品となる物は持ち帰ったほうがいいだろう。それに、役立つものがあるかもしれない。死体に近づき、何かないかと探す。


 腐臭が凄い。えずきそうだ。


 騎士の体は原形を保っていて、目を開けたまま死んでいる。


 従者は二人がバラバラになっていて、一人は串刺しにされた跡だけが残っていた。


 まさぐって遺品を探す。


 どの死体も血は固まっていて黒くて臭い。


「うっ……」


 吐いた。嘔吐を止められなかった。


 声だけは出さないように必死に抑える。


 俺は鍵を探すことを諦めた。


 吐き気が治まらなくて、えずいていた。




 気分を落ち着けて。


 やっぱり、騎士と従者の遺体があのままだと気になって仕方なかった。


 俺が悪いわけではないが、あのまま残していたら呪われそうな気がする。


 ちゃんと弔うことにした。


 埋めるための穴は用意できないので、川に流していく。蔓を編んで、花っぽく作ったものも一緒に流す。


 綺麗な川とは言えないぐらい濁っていたが、まあいいだろう。そこら辺は多目に見てもらいたい。


 遺体を運ぶのは大変だったが、汗だくになりながらも時間をかけて完了した。


 有用になりそうなものは拝借している。


 血に汚れていたものの、回収した物は以下のやつ。


 ・騎士が使用していた剣を数本。

 ・騎士が持っていた簡易用の鑑定石。

 ・従者が持っていた一日分の非常食。


 非常食はすぐに食べてしまった。腹が減っていたので我慢できなかったのだ。


 鑑定石はポケットに入れておく。


 剣を複数持っていても俺には使い道がないので、墓のように地面に刺した。しかし、今持っている剣が折れたら取りに来る予定である。




 そんなことを色々していると、アルラウネが遂に起きた。


 蔓がバタンバタンと地面に鞭打ちながらアルラウネは両腕を回して伸びをしている。


 近くにいる俺は地震のような揺れに堪えた。


 アルラウネからカギを探すのは断念しよう。また寝たときに行動するしかない。


 というか、そんなことより。


 ――暑い。


 喉が渇いたし、保存食だけでは腹も満たされない。


 俺はアルラウネから距離を取り、密林地帯を歩いて食べ物と飲めそうな水を探しにいく。

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