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陽射しの照り付けに不快な寝起きとなって目覚める。
瞬きを数度し、口の中に異物が入っていることに気付いて唾とともに吐き出す。
「ぺっ……」
吐いたものは茶色いもの。小さな土の塊だった。なんでそんなものが入っているのか。
俺は無防備にも地べたで寝ていたらしいことを確認する。間違って口に含んでしまったのか、そんなことを思いながら緩慢な動作で起き上がった。そうすると、目が点になって時が止まったかのように固まってしまう。
目先には荒れた土。
そこで、明らかな物理的によって引き起こされた現象により、陥没した地面があった。
脳裏を過るのは黒いゴブリンに殺された瞬間。
「これ……」
俺は、死んだ。
間違いでも冗談でもなく、痛みを感じる前にあのゴブリンに殴られ、真っ二つにされたことだけが頭を過る。
半々にされた体のまま、分離した下半身を眺めるなんて機会は中々ないだろう。夢であっても普通は見ないはずだ。
「なのに、なんで俺は、生きてる……?」
体はくっついている。上半身と下半身はちゃんとある。
だが、あれが夢だとは思えない。この地面がそうだ。不自然に荒れているし、這いつくばって歩けばゴブリンが踏み込んだ足あとだって確認できた。
しかし、そこにあった俺の下半身はどこにも見当たらない。いや、俺の体にくっついているけど。
腹部を触れば不自然に破かれた革の服。
「……」
口の中が乾いていく。なにか、実際にあったことなのに、幻を見せられた気分。暑いのに冷や汗をかき、悪寒が全身を巡ってくる。
もう嫌だ。帰りたい。意味、わかんねえよ……。
俺はよろめきながらも立ちあがる。ただ意味もなく進み、脳裏を延々と流れる答えを探す。
思考を埋め尽くすのは、どうして俺は生きてるんだっていうこと。
死んだはずだ。
間違いなく死んだはず。
俺は死んだ。
死んだ、よな?
どうして生きてるんだ。
「わけ、わかんねえ……」
目眩がする。陽射しが強いせいか。熱中症になって、幻覚でも見てしまったのか。
そう思ってみたら、なんだか笑えてきた。
「はは……」
出てくるのは空笑い。
「そんなバカなことあるわけねえだろッ!?」
分かっている。あれは現実だ。俺が致命傷を与えられ、死に瀕していたのは紛れもない真実。
捻れた木に八つ当たりをしてみたが、殴った拳は痛かった。
もう、いい。考えるのは止める。
俺は不可解なことを解明するのを放棄した。俺が死んでるか生きてるかなんてどっちでもいい。生きてさえいればいいのだ。
そもそも、そんなこと考え続けていたら精神が壊れそうである。
出口を目指そう。ダンジョンから出るんだ。
脱出するための出口は上にある。
しかし、あそこまでたどり着くには空を飛ぶか、アルラウネが真上に蔓を伸ばしたときにでも這いつくばって駆け上がるかの二択になる。
前者は都合よく魔法を覚えるしかなく、そんな期待は最初から抱いていない。
もう一つのアルラウネが伸ばす蔓を利用する方法。これはいつになるか分からない点と、駆け上がったところで落とされそうなのが目に見えているため不可能だろう。
どちらも難しいとなると、下へ行くしかないような気がする。
出口があるのか知らないが、ダンジョンを攻略すれば地上に戻れるのではないだろうか。このダンジョンは前情報からすると四階になっているらしいし、俺が今居るところは三階層にあたる。
ここを抜けて下の階層でラストだ。そこを抜ければダンジョン制覇となる。
……出来るのか、俺に。
不安はある。だが、やるしかないだろう。
俺はこの階層を突破するためにも螺旋階段を探すという名目をはっきりとさせ、探索に励むためにも重たい足を動かした。
この階層は自然に覆われた場所だ。
陽射しがやけに強く、湿気が多い。草は茂っており、不自然に捻れた木々が乱立している。木々を繋ぐように至るところで正体不明の植物が蔓を巻いていて、木に食い込んでいたりしている。
そんな階層をくまなく探し、分かったことがある。
この階層には四種類の魔物しか居ないこと。その内、二種類の魔物が縄張りを形成し、互いに牽制し合っている。
探索をした成果として知れた魔物は合計四種類。状況を打破するためにも順に並べていく。
まず初めに目にした階層中央、そこに鎮座する巨大な図体のアルラウネ。
足元から複数伸びている巨大な蔓は気味の悪い女型魔物が操っており、勇者や賢者の攻撃が一切効かなかったため、俺には倒すのが不可能と断言できる。
次に、階層を一匹で徘徊している黒いゴブリンだ。普通のゴブリンとは色違いで、俺は瞬殺されている。そのことから、並みのゴブリンとは桁違いの強さなのが窺えるだろう。
残り二種類の魔物はオークとウルフである。
森林で縄張りを作っていた灰色のオーク。上の階でもオークを見たが、この階層の魔物はやはり色違いであり、巨体に大きな棍棒を武装していた。
対して、群れで行動していた銀色のウルフは人よりも少しだけ大きいぐらいの魔物で、涎を常に撒き散らしていて鋭い牙を遠目からでも視認できた。
この四種類の魔物は俺が上の階で相手にしていたゴブリンの数十倍の強さがある。
見ただけで勝てないと察することができ、相対したら直ぐに殺されるだろう。
予想に過ぎないが、レベルに大幅な開きがあるのだ。
賢者が上の螺旋階段で火炎魔法をぶっ放し、無傷だったときに驚いた表情で言っていた。
『……嘘、ですわ。全く効いてませんわ。アルラウネの弱点属性のはずなのに、これは……明らかなレベルの隔たり……?』
――と。
俺のレベルは勇者や賢者よりも遥かに低く、この階層ではまともに生きられないだろう。
なら、極力は魔物と遭遇せずに螺旋階段を見つけるしかないが、探索しても下に続く道はどこにも見付けられなかった。
怪しいところはある。俺が訪れていない箇所が一つ。
アルラウネの目の前、崩れた瓦礫。
もう、行くしかないだろうか。本音は行きたくないが。
アルラウネに一番見つかりやすい上に、瓦礫を退かす作業をしなければならない。
ため息を吐く。
腹も減ってきたし、喉も渇いた。こんなクソみたいなダンジョンから早く抜け出したい。




