25
深い闇の中にいた。一切の明かりがなく、土の中に埋まったような感覚。手足にまとわりつく枷が身動きを邪魔をする。
暗い。ここがどこなのか、知るすべが俺にはない。
――明かりが欲しいと俺は思った。
そう願った直後に小さな明かりが前方に灯る。思った通りの現象に戸惑う。だが、太陽のような温もりを感じられる光は心地よく、全てがどうでもよくなった。
温かい。でも、遠い。
光が灯ったのはずっと奥で、手を伸ばそうにも動かない。
温もりを近くで感じたくて重い足を動かそうとするが、一歩も前に進んではくれない。
どうして。あの灯りを身近に。そう、言葉を発することもできず、ただ茫然と眺める。
次第に光は朧気となって消えそうだった。しかし、奥に女性の影が現れ、両手を添えると光は保たれた。
誰だ。ここからじゃ、輪郭しか分からない。その女性は俺に問い掛けるように口を開くが、何を言っているのか不明だ。言葉は届かず、唇を読もうにも多分言語が違う。
何を喋っているのかさっぱりだ。
女性の方も伝わっていないことに気付いたのか、首を傾げると手を広げる仕草をした。すると、光の中で映像が映し出され、切り替わっていく。
どうやって、と思ったが、まあいい。
俺に何を見せようというのか。
映されたのは上空だった。雲一つない青空。
太陽がないのに陽光が照らされており、下に広がるのは密林地帯。
俺がそこで死にそうになっていた。何を言ってるのか俺にも分からないが、俺が映像の中に居た。
というか、死んでないか俺。
蔓に串刺しにされたまま、血が固まってこべりついている。俺が青白い肌になっていて、ぴくりともせずに呼吸すらしていないようだった。
まんま俺だ。何が、どうなってんだ。
まさか、ここ死後の世界……?
そして、死んでる様子を見せて自覚させようってか。
――嘘だろ。
俺自身もその映像を見ながら、顔面蒼白になっているだろう顔で混乱する。
死んでる? じゃあ、今の俺は?
どういう状況なのかも不明瞭で、訳も分からず言葉にならない叫びを上げる。しかし、虚しくも音にすらなっていない。
言葉が出ないことによって逆に冷静さも戻ってきた。
噛み締めるように無理やり理解していく。
……ティナに絶対帰ってくるって約束したのに。
俺は、死んだんだ。
内心で自嘲気味に呟くと、また映像が切り替わった。死体となった俺自身の周りも映し出されていき、食い入るように眺めていく。
そして、吐き気を催した。
騎士や数人の従者も蔓に貫かれているのだ。
無惨な死体だらけだった。
なにより、残酷なのは死体を玩ぶ魔物だ。何本もの大きな蔓が地面に横たわっていて、中央には巨大な花をいくつも咲かせている人型魔物が居る。
そいつが死体で遊んでいるのだ。
手元で操っている細い蔓で従者の死体を口元の頭上に持っていき、両手と両足を細い蔓で拘束すると大の字にさせ、天高く掲げて引き裂いたりしていた。
大量の血が飛び散り、それを大きな口を開けて浴びている魔物。嗤っている様に嫌悪感や恐怖を覚える。
いずれ死んでいる俺も、ああなるのだろう。
そんな光景、見たくない。
というか、俺は既に死んでいるってのに、こんな光景を見せてどうしろってんだ。死んだことは理解したぞ。解りたくもないけどな。
女性の影の心意が汲み取れず、俺は唯一できる精一杯の睨みを向ける。
死にたくなかった。ただ、生きていたかった。
無力さを嫌というほど痛感している。
――俺に、強さがあれば。と、思っても既に遅すぎるが。
でも、そう思わずにはいられない。変わっていたのかもしれないのだ。
こんなことにはならなかったし、救えた命もあった。騎士達は俺が弱かったから死んだ。自分がひ弱なことは分かっていたし、ただの村人、俺はどこにでもいる雑魚に変わりないことは自覚していた。
だけど、変わりたいと願った。
もしも、次があるのならば。
絶対的な力を――と。
女性の影が大きく頷くと微かに笑ったような、そんな気がした。
明滅する光が瞼を揺する。瞬きを数度し、意識が半覚醒の状態で辺りを見渡す。
全面緑色だ。肌触りはザラザラしている。
なんだこれ。ぺたぺたと手で触れ、気付く。ああ、これ、蔓か。俺は蔓の上で寝そべっているようだった。
起き上がろうとしたが体が重く、うまく動かせない。それに、酷く怠い。
顔を動かすのすら億劫だったが、横に向けてみる。
でかい蔓が転がっていた。何本も折り重なって無造作に横たわっている。奥に見えるのは密林か。今まで見たことのないような木が密集していた。
真横に巨大な蔓があるのに、なんでそんなものが見えるのかというと、俺が寝ている位置が高い。
顔だけを動かして辺りを見渡すと俺が動けない理由が解り、ため息を吐く。
真下にも蔓が重なっており、それなりに見渡せる位置にいるのだが、そこで俺は細い蔓に拘束されているようで、身動きが一切取れないのだ。
力を込めれば抜け出せそうな拘束だが、今は気だるくて無理だ。
動けないので、とりあえず現状把握に努めよう。
……いや、つうか、なんで俺、生きているんだ?
俺、死んだんじゃなかったのか。
五体満足でいるし、蔓に貫かれた体には穴なんてない。でも、服は破かれた跡が残っている。手足が拘束されて寝そべっているから確証はないが、血も出ていない。
痛みもないし、どういうことだ。
というか、起きたばかりだが、眠気があって考えが纏まらない。とりあえず寝て、また考えようか。
疲労もあって安易に考えた俺は、そんな風に一眠りに入ってしまった。




