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 草原を歩けば木々が密集している森地帯となる。


 そこでも出会うのはゴブリンやオークといった魔物だけで、勇者と賢者は苦戦というものをしなかった。


 道行く先に魔物を見つけたら競争でもしているかのように勇者のパーティがいち速く接敵し、剣を振るって倒していく。


 隊列の中央を陣取る賢者組は従者や騎士を引き連れ、横から奇襲を仕掛けようと接近するゴブリンを魔法で察知し、消し炭に変えていた。


 後方の殿をしている俺はそんな二人の武勇を間近で見学し、たまに野良のゴブリン一匹と戦いながら着いていく。


 暫くして、森の中心地には開けた場所があり、そこで下りの螺旋階段を発見した。


 次階層へと続く道だ。


 俺達は周囲の安全を確保したのちに代表者同士が集まり、次の階層に行くかどうかの話し合いが行われた。


 代表者というのはユニークスキル所持者だ。つまり、勇者、賢者、俺の三人である。


 ここまで来るのに歴然とした格の差を見せつけられた俺は居心地悪く顔を合わせるが、まず勇者と賢者は俺のほうを見向きもしなかった。


 まあ、いいさ。足を引っ張るとまではいかないが、ゴブリンでレベル上げをしている俺のせいで、ダンジョン探索の進行を遅らせているのは事実だ。


「雑魚しかいねえし、行けるとこまでいこうぜ。なあ、いいだろ?」


 勇者が気だるげに発言する。隣の賢者へ向けて。


 本来なら今回の遠征は、ダンジョン探索にあたっての雰囲気を掴むためのもの。聞いた話では数度に渡ってダンジョンへと潜る予定だ。


 しかし、勇者の言葉によって覆され、賢者は頷きを返した。


「そうですわね。何度もダンジョンに入るのは時間の無駄ですし」


 同意している賢者を横目に、俺には発言権が一切ないのか一言すら話を振られなかったわけだが。


 本当に行くしかないのだろうか。


 さっさと帰って、ティナにお土産話とかしたかったんだけど。


 初めて魔物を倒したこととか、ダンジョンに太陽があることとか。


「というわけで、オレ等は次の階層も攻略していく! この中で異論があるやつがいるならオレ様に言え!」


 大声を張り上げ、勇者が三陣営の者達に聞こえるように言うが、それは決定事項みたいなものだった。


 空気を読めば誰一人として声を上げないのは決まりきっている。代表者の話し合いで決められたものなのだ。下っ端である者が異論を挟める隙はない。


 と、思っていたら。


「勇者様、お待ちください」


 そしたら、騎士の方が空気を読まずに手を上げた。やっぱり居たわ。俺の陣営である騎士様だ。


「あ?」


「次の第二階層はここよりも遥かに危険です。過去の報告書には魔物の亜種と呼ぶべきものや、植物の胞子によって眩惑や体調不良を誘発するものがあったりと苦戦は免れません。ここは一度戻り、入念に準備を整えた上で攻略していくべきと提案致します」


 騎士の隊長が勇者に詰め寄り、次階層の攻略は難しいと言っている。


 俺はそんなのを聞きながら、この人は絶対に良い人だと思った。俺が代表者の話し合いで一言も口を開いていないことを察してくれたのだろう。


「危険、ねえ。どれぐらいだ。冒険者の指名ランクSよりも危険なのかよ?」


 勇者が騎士に口を挟まれたのが不服なのか、苛立たしげに眉をひそめる。攻める口調だ。


「……Sクラスのものは国の滅亡までも視野に入るものだったでしょうか。そこまでとは言いませんが、以前に第二階層を攻略していた騎士の中隊が半壊しております。疲れも見えている方もございますゆえ、どうか考慮を」


「はっ、疲れてんのは使えねえ村人風情だけだろうが。それに、騎士の中隊が半壊してるのは実力不足が原因だ。オレを含めてレベル40が二人、ざっと見てレベル30代が十人。他はあいつ以外は二十後半だろ。この戦力ですごすご帰るってか?」


「しかし……!」


「おい、村人! てめえは行くのか行かねえのか?」


 急に話を振られた俺。


 戸惑いつつも数秒の時間を思案に費やす。


 選択肢を委ねられているが、ここで行かないってのは有りなのか。本音は行きたくない。ぶっちゃけ帰りたい。


 いや、だってほら、魔物を倒して感覚が麻痺してるのが異常に感じてしまうのだ。このダンジョンの空気そのものが、人としての何かを変えているというか……。


 ここは俺にとって非日常。


 スキル所持者になってというものの非日常の出来事ばかりだが、魔物を殺すのまで慣れたくはない。感覚がおかしくなって挑んでいたら、いずれ死ぬかもしれないし。


 ダンジョンから出ればティナとご飯に行ったり、アッシュさんに剣の稽古をつけてもらえたり、カトレアさんに編み物を教えてもらえたりと、まだそちらのほうが日常的だ。


 だけど、思案に耽っていた俺がちらりと前を向いたら、凄い剣幕の勇者が苛々していた。


 うん、ここで帰りたいなんて言えねえわ……。


「……行く」


「ダクト君! 本気ですか!?」


 俺を案じてくれる騎士に軽く頭を下げる。謝るようで肯定するようにも取れる会釈だったが、本当に申し訳ないと思っている。


「あんたの主もああ言ってんだ。二階層に行くのは決定な」


 それでも、俺は案じてくれた騎士を無下にしたくないため、勇者へ俺の意思を伝える。


「……なあ、もしも攻略が厳しいようなら俺たちだけでも引き返すからな」


「はっ、当たり前だろ。お前よりは引き際ぐらい分かってるわ」


 その返しに勇者の顔面を殴りたくなる衝動をグッと堪え、奴隷達の元へと引き返す勇者の背中を見送った。


 勇者って普段から上から目線でむかつくが、なんで女神様はこいつを勇者にしたんだろうって疑問に思った一瞬だった。


 そんなわけで攻略を再開していく手筈となり、第二層へ続く螺旋階段を下りていく。


 長くも短くもない階段を下りると扉だ。先頭をいく勇者が扉を開け、次階層に踏みいっていく。


 岩で作られた道。不思議なことに明かりは何もない天井から灯っており、視界に困ることはない。道の脇には植物だろうか。詳細不明の植物が所々で小さな蕾を咲かせている。


 この階層はどうやら迷路になっているようで、枝分かれするように道が左右に別れていた。


「……拍子抜けだな。第二層ってのに、魔物の気配がねえぞ」


「ですが、強い魔力の残り香は漂っておりますわ」


 そんな二人の会話を皮切りに進んでいくのだが、俺は勇者と賢者が歩いている後方で騎士に聞いてみた。


「あの、ここって騎士の方々が壊滅したっていう話ですけど、どんな魔物にやられたんですか?」


 気になるというよりは心の準備である。


 騎士を倒すような魔物と出会わないことを祈りたいが、出会ったら真っ先に逃げようと思っている。


「……分かりません」


 俺の質問の答えは騎士も知らなかったようだ。


「分かりませんってどうしてですか?」


「報告には中隊規模の騎士が二手に別れていたのですが、片方が全滅したのです」


「……その片方の隊で生きている人は居ないってことですか?」


「そうなります」


 いくら二手に別れていたからといって、騎士を全滅させた魔物の正体も分からないとかヤバくないか。


 騎士は全員がそれなりの高レベルだ。ダンジョン攻略に来ていた者も亡くなってしまったが、俺よりも遥かに強い人だっただろう。それなのに全滅。


「……すみません。あのとき、戻るって言うべきでした」


 勇者の目を気にして、空気を読んで選んだ俺だが、後悔が出てくる。


 攻略が難しそうなら直ちに戻ると勇者へ言ってみたものの、あまりにもヤバそうな魔物らしいし、出会ったら死に直結とか普通に有りそう。


「遅れてんじゃねえぞ! 村人!」


 とろとろ歩いていた俺を勇者が叱咤してくるが、あえて無視する。賢者はそんな俺を見て煩わしいそうにため息を吐いていた。


 一緒にダンジョンを攻略するってのに、パーティの空気が最悪すぎる。


 聖女様が欠けているとはいえ、糞すぎなのではないだろうか。シェイラもティナも居なくて緩衝材が何もないのが辛い。


 少しへこたれながらも最後尾を着いて回り、石の通路を右や左と勇者と賢者の判断で曲がったり直進したりと道行くまま歩き、十五分は経過したぐらいだろうか。


 大きな扉の前まで辿り着いた。


 扉の下部分には紫色と赤色の毒々しい花が大量に咲き誇っていて、異常な雰囲気を醸し出している。


 これを綺麗な花と呼ぶには如何にも禍々しい色合い。触れれば毒が移りそうで怖い。


「ボス部屋じゃねえか、これ」


「そのようですわね。扉で塞がれているのに漂っている魔力量が尋常じゃありませんわ」


 勇者と賢者が禍々しく咲いている花に触れないように、巨大な扉を確かめながら話している。


 ボスってヤバいんじゃないのか。さすがに行かないよな。


 そんなことを思っていたら勇者が扉に肩を密着させ、力ずくで押し開いていた。


 賢者は魔法の詠唱を開始しており、賢者陣営の騎士が半円形に広がっている。従者達も杖を掲げ、詠唱に入っていた。


 扉を開く合図なんてもんは無かった。


 俺だけ除け者か。


 くそ、こうなれば二人に任せるしかない。


「扉が開きますっ。騎士の方々は下がってください!」


 俺は騎士に命令するように指示し、俺も勿論の如く急いで距離をとった。安全圏とまでは言い切れないが、突発的な事故は防げる距離だ。


 勇者と賢者から随分と距離を取り、結構な距離を保ちながら扉が開いていくのを見守る。


「開くぞ! 構えろ!」


 勇者の一言によって、軋んだ音を響かせながら扉が開いていく。


 勇者陣営の奴隷達が本格的な戦闘体勢に移ったのが後方からもわかった。息を飲んでしまうようなヒリヒリとした緊迫感。その中央に位置する勇者は勢いよく肩でぶつかり、扉を開くと腰に差している剣を抜いた。


 そして、困惑する。


「なんだこれは……」


「ボスが居ないですの……?」


 扉の先となる全容が明かされ、戸惑った勇者と賢者の声。


 そこには大広間が存在し、大量の花で埋め尽くされている部屋だった。


 花に囲まれるように中央に宝箱が鎮座しているのが困惑するのに拍車をかけていた。

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