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――力任せに振った剣。
小柄なゴブリンよりも俺のほうが大きいという差もあって、攻撃が当たるのはこちらが早かった。
剣がゴブリンの脳天に直撃し、刃がねじ込んで止まる。
それだけであっさりと勝敗は決し、深い息を吐く。
勇者のように綺麗に分断とまではいかなかったが、ステータスが低いこともあってこんなものだろうか。
嫌にあっさりと終わり、思いのほか簡単だった。
痙攣したゴブリンが生き絶えるまで見詰めていたが、中途半端に挟まった剣刃をしまうためにも足を使って引き抜く。
「――」
ゴブリンのうめき声が耳を通りすぎていく。
ぴちゃりと剣に滴った血。地面に付着し、草原の緑に赤を彩る。
何か込み上げてくるものがあった。
高揚感ではない。これは、吐き気か。
両手で握った剣は震えている。
「はは……」
自然に漏れた空笑いは自分を奮い立たせようと自然と出たものだ。
こべりついた血。肉を切った感触、断末魔のような雄叫び。いまなお、脳裏に焼き付いている。
魔物とはいえ、一つの生命を自ら奪った。
獣なら狩ったことがある。食うため、生きるためという理由から。
しかし、このゴブリンは何のために殺した。
俺のステータスを上げるためだ。対魔物の戦闘訓練を兼ねて倒したものだ。
「……はあ」
ふと思う。俺は前まで村人としてつつがなく生活していたが、今はなんでこんなことしているんだろうという疑問が過る。
その答えは明確で、女神様の加護を受けたから仕方ないことなのだが。
「ダクト君、お見事でした」
「いえ……」
騎士が称賛してきたが、素直に受け取るほど嬉しくはなかった。
「下級の魔物といっても、初めて討伐なさったのです。もう少し喜んでください」
そんなに酷い顔でもしていたのだろうか。気を遣ってきた騎士は朗らかな笑みを浮かべ話しかけている。
「きっと慣れますよ。誰もが通ってきた道ですから」
「ですかね。まあ、慣れないといけない立場なんですけど……」
剣の束から離れなかった手を無理やり引き剥がし、剣を腰に戻す。
「そうです。その意気です。魔物討伐ですし、ステータスの確認でもしましょうか」
そういって騎士が懐から取り出したのは小さな水晶だ。教会で見たものよりずいぶん小さく、勇者が持っていた鑑定石と同じ物だった。
「……ええ、レベルが上がったか見てみますね」
「ええ、どうぞ」
片手ぐらいの小さな水晶を握り、ステータスを表示させる。
「……上がってないですね」
「まあ、気を落とさずに。ゴブリン一匹ですからね。これからどんどん倒していくと思うのでレベルは上がっていきますよ」
「はは、そうですね……」
騎士の励ましに応え、俺は笑顔を作って頷く。
これからどんどん魔物を倒すのか。気が滅入りそう。
そんなこんなでダンジョン攻略は順調に進み、勇者や賢者がいるため滞りなく中層までたどり着いた。
今まではゴブリンやオークといった魔物が現れていたのだが、こちらには二人のユニークスキル持ちに加え、騎士や魔法が扱える従者もいる。
それはもう過剰戦力に等しく、楽勝な雰囲気が漂っていた。
気が抜けていると言ってもいい。
俺ですら感覚が麻痺してきたのか、魔物と会ってもそこまで気を張ることはなくなっていた。まあ、遠巻きに眺めるぐらいの余裕は持っている。
見つけたら勇者が速攻で殺すからな。
たまに弱そうな魔物がいれば騎士のフォローの元で、俺が相手をした。
レベルは順調と言えるほど上がってはいないが、少しだけ上昇している。何度も何度もそれをやっていくうちに、いつしか殺すことに躊躇いはなくなっていた。
魔物は俺達の糧だ。ステータスを上げ、生き残るためにも必要なこと。
そんな風に俺もユニークスキル所持者としての心構えが芽生え始めた頃、一層の草原地帯から次の階層へと下る道にたどり着いた。




