村人2
頷いた俺は訳が分からないままでも理解しようと専念し、脳内を必死に巡らせる。
いや、ほらさ。世の中には順序っていうものがあるじゃん。
いきなりユニークスキル所持者に選ばれて「あ、はいそうですか。やらせていただきます」なんてならないだろ。
現実は「……え、ふーん。え?」だろ。
開いた口は塞がらないし、俺はいきなりすぎて心の準備ってもんが出来ていない。どうすりゃいいの。
あれよあれよと成り上がっていく英雄譚ではないが、目まぐるしく変わる状況に俺は置いてきぼりにされている。
今は教会の奥にある来客用の部屋に一人だけ通され、神父様と二人きりにされた。
さっきまでステータス鑑定していた神父様の代わりは他の神官さんがやるようで、俺が連行されるのを遠巻きに見ていた同年代の者はひそひそと喋りながら見送ってくれたわけだが。
個室でステータス鑑定をしていたのだが、扱いが特別すぎて噂されているっぽい。
ユニークスキル所持者になれば、一躍有名人の一人だ。
参っちゃうな、俺も有名人になっちゃったかー。
なんて、くっそどうでもよく浮かれていると数十分待たされた上に、部屋にむさ苦しいオッサン達が三人増えた。
来客室に新しく加わったのは三人のおっさん。その内、二人は顔合わせが初めてであり、どうやら国のお偉いさんらしい。
同様に、部屋へ入ってきたもう一人は知っている顔である。隣に座るおっさんは村長である。俺の村のお偉いさんだ。
地域を取りまとめる者同士が対面に座っているのだが、格の差というものが如実に表れている。おっさん同士でもこうも違うもんなんだと俺は感心した。
隣に座った村長がビクビクしていて頼りないというより、なんだか情けない。
いや、気持ちは分かるけども。相手は国の中でのお偉いさんだ。過疎区の村を仕切る村長とは雲泥の差である。
さて、話を切り出すための頃合いを見計らっていた神父様が咳払いをする。神父様は横に立っており、司会役を務めるようだった。
まず始めに、ユニークスキル所持者が現れたことをお偉いさんに告げ、ものの数十分しか経っていないのに話を聞いていたのか、そう驚かないおっさん二人は頷く。
代わりに、隣に座る村長は初めて聞いたのか驚いた顔で神父様をハッと見、俺のほうへ振り向いて真偽を聞いてきた。
「……本当、かの?」
「はい、そうらしいですね」
肯定するや、ハンカチを取り出して額をしきりに拭っている村長。
「さて、本題になりますが――」
そう話を切り出していく進行役の神父様の言葉に耳を傾けるお偉いさん二人と俺と村長。
この場が儲けられたのは俺の今後についてらしい。
これからのことについて――俺の未来についての対談する運びとなったわけだが。
とりあえず、俺には夢か何かの延長線ぐらいの感覚しかなく、整理しようと深呼吸。俺の将来についてだ。真面目に聞く前に現状をささっとまとめよう。
まず、俺は十五歳の誕生日を向かえ、村の決まりであるステータス鑑定という行事に参加させられた。ステータス鑑定とは自分自身も分かっていないことを数値化してくれるものだ。
教会にある魔導具――青色の水晶玉で鑑定すると得意不得意が数値として知らせてくれる。この行事は十五歳になれば誰しも通るもので、いくら金のない村でも俺を王都まで送ってくれた。
まあ、有能な人材がいれば国から村へお金が貰えるため、渋るところもそうないだろう。
外も内装も見栄えが良い教会は王都でも良く目立つ上、俺は一人で来たわけでもなく無事に教会へたどり着く。
付き添いの村長と勝手に着いてきた年下の幼馴染は観光に行くと別れ、俺は何十人と群がったステータス鑑定を待つ同年代の列に加わった。
俺より先に来ていたのは何人ぐらいか。中には親と一緒に来ていた貴族様もおり、やたらと時間がかかった覚えがある。
教会には長椅子が百人以上座れるぐらい置いてあり、各々が椅子に腰掛けたりしていた。
俺もその一人だが、時間だけが過ぎていって退屈だった。特に見ていて楽しい物もなく、俺も早く観光行きたいなぐらいの暇をもて余していたのだ。
一番目立つ所には女神様を模した彫像なんてものがあるのだが、一度見れば十分だったわけで。
周りには教会に属している神官様が囲んでいて神に祈っている風に両手を合わせている。中には手持ち無沙汰の集団を見かねてか、信仰についての布教をしていたりもした。
もちろん、欠伸を噛み殺していた俺の所にも来たのだが、女神様がどうたらと世界の神秘がなんたらとちんぷんかんぷんな事を教えて頂いた。
神官様には悪いが、俺の耳には合わなかったね。
眠りたくなる欲求を周囲の目があるがゆえに堪え、やっと俺の出番が回ってくる。ステータス鑑定をするため一人で奥の部屋まで案内され、流されるまま着いていく。
ステータス鑑定という誰しもが楽しみな行事なのだが、気持ち的には待たされた時間が長かったせいか、早く済ませたい欲のほうが強かった。
終わったら観光、屋台盛りだと俺は脳裏を巡らせていたのだが……。
正直、俺は大してステータスには期待していなかったこともある。ぶっちゃけ、このままでも畑仕事は出来そうだし、狩りも問題なく出来ている。強いて言えば、農業系のスキルか魔法があれば勝ち組だろうなと思っていたわけだが。
――ユニークスキル。女神の加護である。
お、おう。としか言えない。
ユニークスキルの話は聞いていたのだ。同じユニークスキルを持つ三人は村にいても商人や冒険者経由で話は届いてくる。
ここ数年で隣の国では賢者が現れ、少し離れた所では勇者が現れており、数々の偉業を成し遂げているっていう話だ。もう一人の聖女様はここの国で現れ、四年前に村へと訪ねてくれたこともある。
聖女様は凄い美人だったなあぐらいで、俺には無関係だった人達が持つスキルである。なんで俺がと思わなくはない。
いや、むしろなんで俺なんだろうか……?
俺は村人である。平凡かどうかは俺が見てきた世界が狭すぎて断定は出来ないが、聞いて驚くような経験もなければ卓越した技能も持っていない。
だから、俺はこう考えるしかなかった。
――こ、この俺にも隠されていた力が目覚めたってか。
要は現実逃避ってやつだ。




