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17、ダンジョン。




 土を踏みしめ、真新しい装備を身に包んだ俺はダンジョンの入り口に立っていた。


 場所は騎士団本部の真下。騎士達が在中する施設の地下にあたる場所で、いくつもの厳重な警固や看守がいた先に円形状の広場があった。


 この闘技場とも呼べる広さの敷地を越えるとダンジョンの扉へと続く道がある。


 本日、ダンジョン攻略に挑む。といっても、初日は軽い感じでダンジョンのあれこれや魔物の種類を把握するために経験を積む一日となっている。


 慣れてきたならば何日かに渡って潜り、攻略出来そうになったら最新部まで行くそうだ。


 俺も初めてのダンジョンなので初日は見学気分で勇者や賢者の戦闘を見るつもりだ。


「準備はよろしいかな?」


 ――公爵様が皆に確認する。その意味はダンジョンの入り口を踏み出す合図。


 周りには見送りの人達や騎士、大勢の人数が居るにも関わらず、歳若い三人に視線が集中した。


 ユニークスキル持ちの三人。世界に四人しか存在せず、魔王を倒す可能性を秘めた者達。


 女神様から恩恵を承り、人の希望を背負った者。


 俺は公爵様に頷きを返す。そこに魔王を倒す気概やダンジョンを制覇する意気込みなんてものはない。


 少なからず俺は、ユニークスキルを手に入れて持ち上げられているだけのそこら辺に居る村人なのだ。覚悟なんてものは最初から備わっていない。


 幼少の頃は英雄に憧れてはいた。強大な敵を前に、立ち向かおうとしているお伽噺の英雄に。


 だが、俺は成人の日をむかえるまでに勇者や賢者、騎士にもなりたいと思ったことはない。


 憧れていたとして、本当に英雄と同じ立場になってそれが出来るかは別だ。


 だけど、俺はダンジョンに入り、レベル上げをこなす。


 そうしなければ、いずれ訪れるだろう未来があるから。


 俺が願うのはただ一つ。死にたくないだけ――。




 俺に続くように、勇者と賢者も公爵様へ首肯を返した。


 ダンジョンの場所が騎士団本部の真下なので、安全を確保されているため見送りが許されている。顔見せに来た人やダンジョン攻略をする者も含めれば百名は超えており、多岐に渡る人達が勢揃いしている広場は人口密度が酷いことになっていた。


 騎士団は王城からそんなに離れていない場所で、公爵様が言っていた通り、国内にダンジョンがあった。


 ダンジョンがあったからこそ騎士団をそこに建て、代々秘匿にしてきたらしい。


 俺が住んでいる屋敷から近い所にダンジョンかあるなんて不安しかないのだが、ダンジョンの入り口には何十にも重なった結界や厳重な騎士達の警固があった。


 これなら心配ないのだろうか。そんなことを考える意味なんてないのだが、これからダンジョンに入る不安から無為な考えを止められない。


 俺は緊張で挙動不審になりながらも広場にいる人を順に見渡していく。


 一番ダンジョンの入り口付近にいるのが勇者と奴隷達。勇者はもちろん冒険者用の装備だが、奴隷達も戦えるのか武装している。シェイラはお留守番らしいので数は四人。


 片や後方に待機している賢者陣営は一番人が多い。賢者を囲む鎧騎士の集団に、杖を持ってローブを羽織った魔法使い。


 総勢二十人はいる。よくよく見てみれば魔法使いの格好をしているのは従者の人達だ。


 従者用の格好にローブを羽織っているから賢者のお世話をしつつ、戦闘面も補助でもするのか。従者が魔法を使えるのか定かだが、ダンジョン攻略の頭数に入っていた。


 残るは俺のほう。俺を守ってくれる騎士の方々に見送りに来てくれた人。


 ティナやカトレアさん。それにアッシュさんだ。


 ちなみに、今回のダンジョン攻略で護衛を勤めてくれる騎士の方々とは全員と初対面である。いつも護衛してくれているアッシュさんはここには含まれておらず、屋敷の警護に回ってもらうことになっている。


「――では、皆様方にご武運を」


「んじゃ、一番乗りしようぜ」


 公爵様が言うと入り口付近にいた勇者が階段を下りていく。


 怖いものがないっていうぐらい気楽にダンジョンの入り口となる階段を下っていき、奴隷達も主人の後を追った。


「わたくしたちも参りましょうか」


 賢者の言葉に大人数が動き出す。先頭を賢者が歩き、全身鎧の騎士が隊列を崩さずに着いていく。その後ろに従者達が続いた。


 ダンジョン攻略に不安しかない俺は最後尾を選択。


 攻略する人数はこの場にいる約四十人。充分な人数と言っていいだろう。俺的にはもっと騎士達を連れていってもいいはずだが、聞いてみればダンジョン内で動きづらくなるとのこと。


 これだけの人数なら安全が確保されていると公爵様は聞いたが、俺は肌を撫でるような不気味な感覚を拭えない。


 嫌な予感というか何というか。


 勇者と賢者が主戦力であり、俺はお荷物だから気負わなくてもいいはずなのだが。


 今日は軽くダンジョンを見る意味合いもあるため、そんなに深いところを行かないらしいしな。


「俺も、行かなきゃだな……」


 そろそろ重い足を動かさないと出遅れる。


 ダンジョンに入っても俺がどうこう出来るわけないのは承知の上だ。勇者や賢者の戦い方を見学するつもりで、余裕があればレベルを少しでも上げるつもりでいる。


 この装備があれば戦える。買ったばかりの真新しいやつだが、重症を負わなければ動けるものだ。


 装備は革製のものばかりで纏めたから動きに支障は出ない。


 動きやすさを重視した革の服。胸元を守るのは鉄製の胸当て。革のグローヴに足へ負担が少ないブーツ。よほど致死性の攻撃を喰らわなければ逃げられるものだろう。


 冒険者の出で立ちになった俺は装備を見下ろして深呼吸をした。


 目の前にある階段には続々と賢者陣営が下りていっている。


 ダンジョンの入り口でもある階段。見た目は石の階段があり、底の見えない洞穴となっている。


 空気の密度が濃いものがこちらにも漂っており、本音を言えばここに入りたくない。だが、俺は女神様に選ばれ、ユニークスキルを持ってしまった。


 死にたくなければ強くなり、魔王を倒さなければいけない。


 ここで立ち止まってしまったら、いずれ死ぬ運命が待っている。


 ごくりと喉を鳴らす。


「ダクト、大丈夫? ……体調悪いなら行かなくてもいいんじゃない、かな?」


 そんなに酷い顔をしていたつもりはないが、ティナが寄ってきて手を握ってきた。


 不安気に上目遣いで覗いてくるティナの瞳の先には、やつれている俺の顔。


「大丈夫だ、多分。勇者と賢者が居るから二人に任せとけば危険はないはず……」


 ティナの小さな手を握り返す。自分にも言い聞かせるように吐いた言葉は尻すぼみになっていて、俺の口から出たものはどうにも頼りないものだった。


 右手の震えから、ティナにもそれが伝わっていて。


「本当に、本当に大丈夫なの……?」


 どうだろう。公爵様は安全を確保していると仰っていたが、ダンジョンに絶対なんてものはないはず。


 最初は浅い層にしか行かないから危険はないと予想されるが、俺は嫌な予感がしてたまらない。


 ダンジョン攻略に行って無事に帰ってこれるだろうか。


「……必ず戻ってくるよ」


 ティナを安心させるために言う。そうなってほしいと出た言葉でもある。


「約束だよ……?」


 ぎゅっと握ってくるティナの手を握り返し、俺は誓う。


「……ああ、絶対に。必ず戻ってくる」


 力強く頷くと不安を拭い去るように手を離し、カトレアさんとアッシュさんに挨拶をしていく。


「――カトレアさん、家のことは頼みます。アッシュさん、ティナのことよろしくお願いします」


「承りました」


「屋敷と彼女のことは任せてくれ。ダクト君はダンジョンを経験して、無事に戻ってきてほしい」


 カトレアさんが綺麗なお辞儀で、アッシュさんが頷いて胸元に握り拳を置いた。


 最後にティナへ見向き。


「ティナ、行ってくるよ」


「うん、絶対に戻ってきてね……?」


「ああ、もちろんだ」


 ティナの不安げな視線に俺は見送られてダンジョンに続く階段へと踏み出していった。




 階段を下り、ダンジョンの扉を潜ると広い一本道だった。明かりは出入口の所にはランタンが灯されているが、その先の道に光源となるものは苔だけだ。


 両脇にある岩肌に生えていて、それが緑色の淡い光を灯している。光る苔の光量自体は大したことないが、壁一面に生えているため視界に影響はない。


 光を発する苔を物珍しそうに賢者が触ったりしていたが、岩肌に虫が走っていくとよろめいて腰を抜かしていた。


 壁沿いを歩いていた賢者が従者と歩く場所を交代していたりと些細なことはあったが、危険なことは何もなさそうだった。


「ここが第一階層か。罠もなさそうだし、魔物もいねえな。ただの道か?」


「そうですわね。強い魔力が充満しているだけで、ここに魔法罠といったものはなさそうですわ」


 先行していた勇者と賢者がダンジョンを視察している。


 魔物の姿は見えず、横に広い平坦な道があるだけでダンジョンの入り口にしては拍子抜けしてしまう。


 魔物がうようよしているのがダンジョンと予想していたが、思っていた以上に呆気ない。

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