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 あれから半日以上も寝た俺は、事前に早朝に行うアッシュさんとの稽古は休みにしてもらった。


 ゆっくりと体と脳を休めた俺は前向きに考えていこうと思う。


 昨日話されたことは衝撃的だったが、やることには変わりがないという結論に至った。女神様に強制されているにしても、勇者や賢者と一緒に魔王を倒さなきゃこの国の人達がやられる。


 その中にはティナや村の人達も含まれているのだ。


 それだけは防がなければいけない。大陸ごと滅亡だけは何としてもだ。


 そのためにも、まずはレベル上げに専念。勇者までとは言わないが、足手まといにならないレベルまで上げなければいけない。


 まずは目先の目標。ダンジョン攻略で少しはレベルを上げること。


 死にたくはないから、未来のために頑張ろう。



 ダンジョン攻略を控えた俺は今日一日を買い出しに使うことにした。


 ダンジョンに挑む際、必要なものを買っていこうと思う。


 防具や剣はもちろんのこと、回復薬や解毒薬も揃えておきたい。


 寝まくったせいか体が少しダルいが、すっきり冴えた頭で自室を出た。アッシュさんには伝えたから問題はないが、ティナやカトレアさんにはまだ言っていない。


 買い出しはティナに手伝ってもらうつもりでいる。一人で買い物は味気ないし心細い。二人いれば良い装備も整えられるだろうという魂胆だ。


 自室から居間へと移動した俺は調理場にカトレアさんとティナを発見した。


 カトレアさんは長い髪を頭上に纏め、見た目が若いながらも従者姿に貫禄がある。ティナも同様の格好で、紺色の長いワンピースに白のふりふりがあるエプロンを着用していた。


 従者として手慣れてきたのかティナは無駄のない動きでカトレアさんの補助をやっており、見事な包丁捌きの横で必要な素材や調味料を渡している。


「旦那様、おはようございます」


「あ、ダクトっ。……旦那様、おはようございます」


 朝早くから勤しむティナの後ろ姿を眺めているとカトレアさんが気付き、ティナもそれに倣う。


 カトレアさんの前ではティナは従者として振る舞う決まりなので、まだ慣れていないのか堅苦しい言葉に違和感がありすぎて微笑ましい。


「おはようございます、カトレアさん、ティナ。朝食の準備ですか?」


「はい、もう少しで完成致しますのでお待ちください」


「了解です。そういえばなんですけど、午前中からティナ借りてもいいですか? 冒険者用の装備とか買いにいくのに付き添いしてもらいたくて」


「はい、大丈夫ですが、私もお供致しましょうか?」


「ああいえ、適当に回って時間掛かると思うのでカトレアさんは家のことやっていてください」


「承りました」


「そんなわけでティナ、今日は付き添い頼む」


「うん! ……じゃなかった。かしこまりました、旦那様」


 元気よく返事したティナ。従者らしくない返事にカトレアさんの視線が集中し、慌てて礼儀正しくお辞儀したティナ。


 俺もティナもまだ慣れるのは先かなと苦笑しつつ、まずは朝食を待つことにした。




 カトレアさんとティナが作った料理を食べると仕度をした。


 朝食は三人で食べたのだが、カトレアさんが来た当初は従者は別の部屋で食べると固辞していた。だが、俺の切なる願いのおかげか、しつこくお願いした成果が実ってカトレアさんも食卓を囲むことになった。


 カトレアさんは従者だから同じ家で生活している。屋敷の部屋は余りまくっているので問題はないし、同じ屋根の下で寝ているのなら家族みたいなもんだ。


 表向きな場合じゃなければ平等な立場で良いと俺は考えている。まあ、時間は掛かりそうだが、カトレアさんとの仲を縮めていければと思っているのだ。




 屋敷の外で待っていた俺は護衛として着いてくる騎士の方々と会話をして時間を潰しつつ、従者の格好から着替えているティナを待っていた。


 付き添いぐらいなら従者としての格好でも問題ないのだが、これから向かう先は冒険者が多い場所だ。必然、貴族みたいな風貌じゃないやつが従者を連れていると悪目立ちしてしまう。


 護衛の騎士がいるとはいえ、進んで絡まれるのはごめん被りたい。


「準備出来たよー」


「じゃあ、行こうか」


 着替えたティナを連れて貴族街から冒険者が多い区画に移動する。騎士の人達には後方から目立たないようにしてもらい、徒歩で向かった。


 貴族街は名前の通りで、貴婦人達や見栄えの良い格好をした貴族などが多い。俺やティナもそれなりの格好をしているから溶け込めているが、当初王都に来たときは完全に浮いていた。


 通り過ぎる人達が振り返って侮蔑のような視線をやってくるのだ。俺はあまり気にしていなかったが、ティナがそわそわしていた。


 隣を歩いているティナが、今は堂々としているからここの生活も慣れてきたのだろうか。良い傾向である。


「どこに向かうの?」


「冒険者いるとこかな。防具と剣と回復薬とか買う予定。ティナも欲しいやつあったら言ってくれ」


「んー、わたしは大丈夫かな」


 そんなお喋りをしつつ、ほどなくして冒険者のいる区画にたどり着く。


 ここはギルド区画と言われており、冒険者が在籍するギルドが管理している場所だ。この区画は貴族街とは別にルールというものがあり、冒険者達はそれに従って生活している。


 冒険者が住む区画では、まず目に入るものは大通りの両脇に並ぶ露店だ。食べ物やアクセサリー類が売られている出店があり、冒険者の格好をした人達が買い物をしている。


 やはり、王都ということもあって冒険者が多い。すれ違う人がみんな武器を携帯していて話し掛けづらい雰囲気がある。


 こんなだったらアッシュさんに聞いてくればよかったか。


 お店の場所が分からない。適当に探すつもりであった。


 あの人ならお店に詳しいから教えてくれたはずだ。今日は非番でお休みで、護衛の騎士にも加わっていないのだが。


 後方を着いてきている騎士の人に聞いてもいいが、人混みの中を探すのが手間だ。仕方ない、露店を開いている人に聞こうか。


「ティナ、ちょっと場所聞いてくる」


「調べてなかったの?」


 仰る通り、行き当たりばったりでいけるかなと。お店なんて現地に行けば見つかりそうな感じあるだろ。


 露店とかあってこんなに賑わっているとは思わなかったのだ。


 背中に突き刺さるティナの視線を無視して露店に行き、情報を聞くことにする。


「すみません、ここら辺で冒険者用の装備とか売ってるところありますか?」


「ああ、そこの角曲がったところにあるよ」


「ありがとうございます」


 親切なおじさんに教えてもらう。串ものを売っていた店なので、ついでに二本だけ購入する。さきほど朝食を食べたばかりだが、情報料として買っておくのが筋だろう。


「まいど!」


 熱々の串肉を抱えてティナの元に戻り、そこの角曲がると店があるとのことを伝える。


「はいこれ。お店そこだってさ」


「ありがと。結構近かったね」


「だな」


 何の肉か分からないが、一かじりしてみると思いのほか美味しい。即平らげるとティナも先ほど食べたばかりというのに完食していた。


 軽い間食を挟んでお店に着いた俺達は、まず店前に防具がずらりと並んでいる商品を鑑賞する。


 全身を覆う鎧や革製のものとかで、冒険者ならば身に纏うものがたくさん展示されていた。


 店内には武器や消耗品が取り揃えられているらしく、早速入ってみる。


 そしたら昨日会った人にばったりと出くわしてしまった。


「あら、あなたもお買い物に?」


「……奇遇ですね。リゼレッタさん」


 金髪の縦に巻いた髪が印象的な賢者。ダンジョン攻略が近いこともあって消耗品等を買いに来たのだろう。


 賢者が棚に置かれている回復薬を摘まんでふらふらと揺らしている。


 こんな場所で会うとは予想外だ。


 俺はあまりこの人を好きじゃない。勇者と同じような考え方を持っていて、聖女様には自害しろと言った人間だ。


 魔王を倒すことに熱心なのはいいが、味方までをも利用できるなら利用するような印象がある。あまりお近づきにはなりたくない。


「ダンジョン攻略が近いものですね。ポーションでも買いに来たのかしら?」


 隣にお供している老年の執事に手元の回復薬を渡すとこちらにやってくる。


 俺達のところに来た賢者を蔑ろにしては不味いので、無視して逃げ出したい気持ちを抑えながら正面を向いた。


 巻き髪を手ですいているお嬢様が不敵な笑みを浮かべている。毅然とした立ち振舞いも堂が入っており、そんな貴族っぽさが身分の差を歴然と感じてしまう。


 昨日のこともあったせいか、俺はこの人が苦手というよりは関わりを持ちたくない部類である。


 話してみれば良い人なのかもしれないが、言い様のない底知れなさがあってあんまり会話をしたくない。


「……そんなところです」


「わたくしもですわよ。そちらの平民さんもダンジョンに潜るのかしら?」


 無難な返事をすると賢者が顔を横にずらし、後ろにいるティナに頬笑む。


 急に話されてびっくりしているティナ。代わって俺が賢者に言う。


「ティナは俺の付き添いです。ダンジョンには行かないです」


「あら、そう」


「お、おはようございます、賢者さま」


 立ち直ったティナが従者としての礼をする。突然のことで、ぎこちない仕草になっている。


「ふふ、おはようございますですわ。とても可愛いですわね。爺や、わたくしこの子のこと気に入りましたわ」


 ティナのことは可愛いのに同意するが、何を気に入ったんだろう。


「そうでございますか。しかし、彼女は彼の従者でございます」


「そうですわねえ、ティナと言ったかしら。ねえ、あなた、わたくしの従者になりませんこと?」


 なんか賢者が言っている。なに勧誘してるんだ、俺の従者だぞ。


 差し伸べられた手に困惑し、ティナは俺の後ろに隠れた。背後のティナが俺の裾を引っ張っていることから、何とかしてほしいと助けを求めている。


 まあ、一応だが、ティナの主でもある俺は全力で拒否しておこう。


「すみませんが、ティナは俺の従者です。勧誘は有り難いことかもしれませんが、彼女は俺のものです」


 いくら貴族だからって人様の従者を奪おうとするのは駄目だろう。ティナは俺の支えなので渡す気なんて更々ないが。


「あら、怒ってらっしゃる? 冗談ですわよ。わたくしの買い物は終わりですから、お二人でごゆっくりと。爺や、それを買ってきてくださいな。外で待ってますわよ」


 笑みを強めて隣の老人に買い物を頼んだ賢者が店を出ていく。


 とても冗談には聞こえなかったのだが、賢者は意味深に笑うと俺達を見向きもせず立ち去っていった。


「畏まりました」


 従者として見事な礼をした老年の執事も、手持ちのポーションを精算していくと店を出ていく。


 颯爽と立ち去っていく姿に俺達はその様をただ眺めているだけだった。


 何だったのだろうか。よく分からない人だ。


「わたしたちも買い物、しようか?」


「……だな」


 お互いに見合せると動きを再開させた。


 店内をうろつき、防具やら消耗品やらを選んでいく。


「ダクト、これなんてどう?」


「そうだな……」


 ティナに選んでもらいつつ、品定めをしていく時間。


 あっという間に時間は過ぎ去り、必要な物が揃う。


 冒険者装備一式を揃えるのに時間は掛かったが、良い買い物をしたと思う。

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