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 団欒の時間。しばらくの時間、ティナとシェイラが仲良くしている様を眺めていた俺だが、後ろから掛けられた言葉に振り向いた。


「ダクト君、仲良くやっているようだな。勇者殿も元気なようで何よりです」


 そう言ってやってきたのは公爵様。賢者とのお話は終わったのかこちらにやってきた。


 公爵様には仲良くやっているように見えるらしい。勇者と俺の間に会話はないのだが。横でティナとシェイラが打ち解けていて、その会話に相槌を打つぐらいだ。


「どうも、公爵様。お変わりがないようで」


 勇者が公爵様に挨拶を交わした。俺のときとは変わって不遜な態度は鳴りを潜めている。公爵様相手に言葉使いそのままだが、外面はしっかりしていた。


 勇者の上から目線なのは相変わらずで透けて見えるが、公爵様も勇者らしい態度を分かっているのか苦笑している。


「はは、勇者殿もご健啖なようですな。半年ぶりでしたか、夜会以来でございますな。話はしていると思いますが、彼が女神様の加護を宿した者でございます。ユニークスキルの開花は我々が全力をもってサポートしていくので、どうか勇者殿には彼と共にダンジョンへ行って頂きたいのです」


「ダンジョン? ここからだと近いのが迷宮都市リーベルか? 馬車で移動しても一月は掛かるはずだ」


 勇者もダンジョンに行くつもりがなかったらしく首を傾げている。俺も普通に森とかでレベル上げのつもりだった。


 迷宮都市とやらがどこにあるのか定かだが、そんなに時間がかかるとこに行かなきゃならないのか。道中の馬車酔いが心配になる。


「いえいえ、リーベルに行ってもらうのもいいですが、それだと支援も難しくなります。これは内密にして頂きたいのですが、この国にもダンジョンは存在するのですよ。公には知らされていないので勇者殿には他言無用にして欲しいのですが」


 どうやら杞憂だったらしい。この国にダンジョンがあるなら馬車に乗らずに済むだろう。初っぱなからみっともないことなんて見せたくないしな。


「へえ、この国にダンジョン、ねえ。公にされてないってんなら冒険者も行ってないんだろう。未攻略なのか?」


「はい、二層の半ばまでは我が国の騎士団が攻略しましたが、それ以上は危険として放置されています。そのあとに、ダンジョンを研究している者を連れていきましたが、魔力核の成長具合からして推定四層の小規模ダンジョンとのことです」


「……四層の未攻略か。肩慣らしには調度良いな。いいぜ、行ってやる。もちろん、ダンジョンの報酬は手に入れた者ってことでいいんだよな?」


「ええ、それについては賢者様も了承しておりますゆえ。ダクト君もレベル上げしてもらうからそのつもりでいてほしい。最初は様子見も兼ねてだから危険なことにはならないがね」


「了解です」


 危険どうこうの前に勇者と賢者もいるんだから大丈夫だろ。勇者もノリノリだし、あのステータスからして楽勝なんだろう。


 俺は邪魔にならないように立ち回り、上手いことレベルを上げるだけ。


「ダンジョン攻略には何人で行くんだ?」


「勇者殿たちと賢者殿たち。それにダクト君とこの国の騎士団の中隊規模でしょうか」


「多くて四十人ってところか。妥当だな」


 四十人で妥当なのか。もっと大人数のほうが攻略も捗りそうだが、食糧とかの問題で無理なのだろうか。


 って、あれ。公爵様、聖女様は?


「えっと、聖女様は来ないんですか?」


 俺の何気ない一言。公爵様の言葉に聖女様が含まれていない疑問を口にする。そしたら俺に視線が集中した。


 え、なに。何か不味いこと言っちまったのか。


「聞いてねえのか、お前」


「……申し訳ない、勇者殿。ダクト君には何れか話そうと思っていました。聖女様はパーティに含まれてない。そもそも、どこに居るか分からないのだ。一年前から行方不明で消息が掴めていない」


「行方不明? ……誘拐とかですか?」


「それも分かってはいない。一年前に魔導国へ立ち寄ってから消息が消えたのだよ。現在も騎士団の半数を使って聖女様を探してはいるのだが、芳しくはない」


 聖女様が消えた?


 あの優しそうで女神様の生き写しのような聖女様が?


「ま、生きてんだから盗賊辺りに捕まって慰みものにでもされてんじゃねえか。さっさと死んじまえばいいのにな」


 なんでこいつはそんなことを言える。聖女様は勇者みたいに外面が良い人だけじゃない。聖女だからこそユニークスキルを持ったような人なんだ。


 彼女は誰にも平等で村に訪れた際には治療と並行してお話をされてくれた。内容は他愛ないものだったが、村は活気付いたし、ほとんど死にそうなほど弱っていた老人達が元気になった。ティナの父親の傷だって治してくれたし、直にお礼を言いたいぐらいなのだ。


 なのに、行方不明と聞いて俺はショックを受けた。ティナだってそうだ。


 まだ聖女様は生きてる可能性が高いっていうのに、勇者の言葉はない。はっきり言って不快だ。


「……お前」


「兄さま、そんな言い方はないです」


 俺がキレる前にシェイラが代弁してくれた。


「シェイラも分かってんだろ。ユニークスキルは四人居なきゃいけねえってこと。聖女がくたばれば、また誰かがユニークスキルを顕現させる。魔王を倒すためには少しでも頭数が揃わねえと」


「……それはですけど、言って良いこととダメなことがあるのです」


 勇者とシェイラのやりとりで何とも言えない流れになる。


 俺だってユニークスキルを持った者の使命で魔王を倒さなきゃいけないってのは分かるが、死んでいたほうがいいなんてそれはないだろ。


 そう思っている俺だが、ずっと話を聞いていたのだろう賢者も口を挟んできて。


「本当ですこと。あの方はどちらに行ってしまわれたのでしょうね。勇者様のように死ねとは言いませんけど、行方不明になるくらいなら自殺してほしいですわ。わたくしたち四人よりも強い魔王っていう話ですもの、ユニークスキル持ちの自覚を持ってほしいですわ」


 賢者も勇者に同意見らしい。なんでそんなこと言える。なんだよ、自殺しろって。頭おかしいんじゃないか。俺達は仲間のはずなんだが。


「だな。聖女が生きていればそれでいいが、ちゃんとした状態で見つかるとは限らねえ。本音を言えば、聖女が盗賊ごときに遅れを取ったとは思えない。魔物か魔族が濃厚だろうな。あの女にはレベル30台の奴が護衛してたんだろ?」


「……はい、国の中でも優秀な者が護衛してましたが、その者たちの消息も掴めてはおりません。現在も騎士団が極秘裏で捜索しております。芳しくない状況ですが、魔導国のほうにも人手を要請しましたので聖女様が生きていれば発見されるのは時間の問題でしょう」


 俺にはどうすることもできないのが悔しいが、どうか聖女様には無事であってもらいたいと祈るしかない。


「発見されればいいけどな。テメェも気を付けろよ。知恵のある魔物もそうだが、魔族も動いてる。捕まったりしそうになったら自害しろ」


 勇者の親指で首を切る仕種に俺は眉を寄せた。


 ユニークスキルを持つと最終的に魔王を倒すのが使命ってのは分かる。その過程で魔族や魔物とも戦うことになるだろう。


 だが、それを最優先にするばかり、捕まるぐらいなら自殺しろと促す奴を俺は好きになれそうにない。


 そもそも、そこまでして魔王を倒さなきゃならない意味って何なんだ。


「……公爵様、ユニークスキルを持った人からすると初歩的な質問になるんですけど、何で俺たちは魔王を倒さなきゃならないんですか?」


 俺の質問に公爵様は一瞬だけ悩む素振りを見せた。


「……ふむ、それは女神様のお告げであったからだよ。そうしなければ我々が滅ぼされるとな」


 なら、そうするしかないのか?


 共存の道とかもあるはずだが、女神様のお告げが真実なら魔王を倒さないとこちらがやられるわけか。


 まあ、聖女様を拐った奴等なんて倒すべきだと思うが。


 俺が納得していると勇者が公爵様を睨んでいるのが視界に映る。


「なあ、ここは包み隠さず言った方がいいんじゃねえのか?」


 怒気と呼ぶべきか、声は荒らげていないが、勇者からそんなのが漂っている。どうしてか怒っているようだった。


「いや、しかし。ダクト君にはまだ早いと――」


 公爵様が威圧されつつも首を振るが、勇者がそれを遮って話始める。


「オレらユニークスキルは女神の加護を貰った。魔王は邪神の加護だ。オレたちが魔王を討たねえとユニークスキル持ちが一新される。つまり、女神様の手によって殺されて新たなユニークスキル持ちが生まれるわけだ。不慮な事故とかで死んだら補充される。どこまでが線引きされてっか知らねえが、魔族側と戦って死なねえと新しいのが生まれてくるんだろ」


「……だから、聖女様は死んだほうがいいってわけか。って、いやいや色々とおかしいだろ」


 普通に聞き逃しそうになったが、女神様の手によって殺されるってなんだよ。


 魔王とかに滅ぼされるんじゃないのかよ。それだと、女神様も邪神と変わらねえじゃねえか。


「おかしくねえよ。神様はオレたちが戦うことを望んでいる。死にたくなければ魔王を倒せってな。負けた方は国が滅ぶし、大陸そのものが全て消える」


 どうやったら大陸が無くなるんだよ。言っていることが滅茶苦茶だ。女神様は慈愛を司る神様だぞ。


「冗談だろ。女神様がそんなことやるわけ」


「事実だ、前例もある。お前、世界の地図見たことあるか? 東西の大陸が不自然に消えてるとこあるだろ。あそこは今のオレたちのようにスキル持ちと魔王が現れたところだ。文献しか残ってねえけど、共存の道を選んだ両種族が神様に滅ぼされたって場所だな」


 勇者が嘘をついている素振りはない。え、まじなの……?


 信じられないのだが。


「……それが間違っている可能性は?」


「事実だろうな。女神に会えば分かるぜ。スキルが開花して、暫く経てばあっちから会いにくるからな」


「……その話が本当とは思えない。ただの気まぐれでユニークスキルをあげたっていう可能性はないのか?」


「何の理由も無しにこんなスキル与えるわけねえだろ」


 確かに、勇者のステータスを見てこんな強力なものをおいそれと上げるとは思えない。いや、そう考えると本当のことなのか。


「魔大陸では既に魔王が誕生しているとの報も届いている。魔族が首都に現れることは想像できないが、水面下で動いていることだろう。王都には盗賊等の下劣な輩もいるから、身の危険が常にあると思っていてもらいたい」


 公爵様から身を案じられ、素直に頷く。


「……気をつけます」


「危険が迫ったら騎士を頼るか、勇者殿や賢者殿に頼るんだ。もちろん、護衛の者には常々言っておくがね」


 聖女様の誘拐やら今の話で危険なのは身に染みた。騎士が護衛に付くのもやり過ぎな感じであったが、もっと増やしてほしいぐらいだ。


 ああ、せっかくの勝ち組になったと舞い上がってたのに、どうしてこうなるんだ。ユニークスキル持ちを辞退したくなってきた。


「辛気臭え面しやがって。この話はもうやめだ」


「そうですな、この話は終わりとしましょうか」


 勇者と公爵様の一言で話は終わった。


 少し、考えることが多い。


 思っている以上に話が深刻すぎた。こんなことなら、女神様の加護なんていらないんだけど。


「公爵様、お話が一段落したところでわたくし、退室してもよろしいですか?」


「賢者殿。大丈夫です。ダンジョン攻略の日付は使者を送りますので、どうぞお休みになられてください」


「かしこまりましたですの。爺や、行きましょうか。では皆さま、失礼しますわ」


「オレらも帰ろうぜ。んじゃ、公爵様。ダンジョンに行くときは教えてくれ」


「はい。では、後ほど」


 賢者や勇者が退室し、それを皮切りに騎士や従者がぞろぞろと部屋を出ていく。


 取り残された俺は彼等の後ろ姿を見送った。


「アークス様、よければ、この後は観光とかどうですか?」


「あー、そうだな。腹も減ったし、適当に食べにいこうぜ」


 勇者が奴隷を連れて部屋を出ていく。最後にシェイラがティナに手を振り、お辞儀して退室していった。


「ティナちゃん、またです!」


「シェイラちゃん、またね!」


 短時間で仲良くなった二人を横で眺め、俺は憂鬱なため息を吐き出した。


 頭を抱えたくなる。


 勇者が話したことが真実だとして、ユニークスキルを顕現させた者は強制的に戦いの場に用意された駒だ。神様同士の争いを俺達が代わってやるようなもので、逃げることは許されず戦うことを無理強いされる。


 勇者達はそれを納得しているのか。


 俺は不服しか出ない。死ぬかもしれない戦い。無理やりやらされるなんてまっぴらごめんだ。


「ダクト、大丈夫?」


 ティナが覗き込んできて、不安そうな視線を送ってくる。どうやら変な顔でもしていたのか。


「ん、ああ。ちょっと考えることが多くて……。皆も行ったことだし、俺たちも帰ろうか。公爵様、もう帰っても大丈夫ですか?」


「うむ、ダクト君もゆっくり休んでダンジョンに備えるのだぞ」


 公爵様に許可を貰い、部屋を後にする。ティナを連れ、護衛の騎士に囲まれて屋敷に戻る。


 足取りはしっかりしていたが、頭の中がこんがらがって目眩がしてきた。


 勇者は言っていた。魔王を倒さなければスキル持ちが入れ替えられると。


 すなわち、魔王を殺さなければ俺達の命が危うい。


 敗北してしまったら大陸が消え失せ、大勢の人が死ぬ。


 魔王を倒さなければいけない。それも強制的に。そうしなければ死ぬだって、割に合わなすぎだろ。


 俺はただの村人だ。そんなこと言われたって荷が重すぎる。


 胃が痛い。とりあえず今日は帰って寝よう。


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