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 勇者、賢者、聖女様が勢揃いしている部屋に着いた。謁見からそう遠くない場所にあった部屋に案内された俺とティナ。


「ダクト、前みたく喧嘩はダメだからね?」


 食事に行った際のときか。あれは相手が悪かったのだ。普通の人だったらああはならないはずだ。


 まあでも、ティナも言っているように愛想良く。一応、ユニークスキルを所持した先輩になるのだから敬う気持ちを持っていこうか。


「ああ、分かってる。そんな心配するなって、あれはタチの悪い輩だったわけだし。勇者と賢者に聖女だ、悪い人じゃないはず」


「うん、そうだけど……」


 ティナは不安そうに見詰めてくるが、大丈夫なはずだ。ユニークスキルを所持した者はお互いに対等な立場。これから仲間になるのだから争いは起きない。


「準備はできたかね?」


 扉の前での話し合いが終わり、お偉いさんがそう言うと開けてもいいかと確認を取ってくる。俺とティナが頷きを返すとやたらと装飾されている閉まっていた扉が押されて――。


 開いていく扉の向こう側に居るユニークスキル所持者に俺は気負うことなく、まずは深呼吸。


 自己紹介は最初が肝心だと心の中で復唱する。勇者とか賢者がどんなやつか知らないが、仲間となる以上は友好的にいきたい。もう一人のスキル所持者である聖女様には以前村に来てくれたお礼でもしたいところ。


 笑顔が大事。最初に好印象を掴めば後は流れで上手くいくはずだ。


 俺は簡単な心構えをして踏み出して。


「失礼します」


 と、無難な言葉で入る。


 そして、扉の一歩前で立ち止まってしまった。ティナが「え、え?」と止まった俺にぶつかってきたが、俺は疑問符で一杯である。


 出鼻を挫かれた気分だ。


 なんか大勢いた。部屋に所狭しと人が居るのだ。


 あれ、三人だけじゃないのと、そんな疑問が脳裏を過る。勇者、賢者、聖女の三人と聞いていたのに俺の視界には二十人は居た。


 部屋、間違えたんじゃねえか。


「勇者殿、賢者殿、お待たせ致しました。こちらにいるのが新たなユニークスキルを持つダクト君と言います。隣に居るのが彼の従者であるティナ君です。彼はまだ、ユニークスキルを開花しておりません。ですが、国が総出で支援致しますのでどうかご了承を」


 公爵様が俺達を紹介する。どうやら部屋は合っていたらしい。この中に勇者と賢者が居るのか。部屋全体を流し見して探してみる。


 部屋はとにかく広く、中規模ぐらいのパーティーならできそうなぐらい。扉の目の前、壁際には騎士が十人ぐらい待機しており、従者と思わしき格好の女性達と燕尾服を着た老人がソファに群がっている。


 少しずれて覗いてみたら座っている少女を甲斐甲斐しくお世話していた様子。優雅に紅茶を飲んでいる。


 この人が勇者か賢者か? 初めて見る金髪縦ロールだ。奇抜な髪型は貴族様のお洒落というやつか。


「あら、貴方がユニークスキルを?」


 不躾に覗いたせいか目が合った。凄い綺麗な人だ。肌が陶器のように真っ白で、ぱっちりとした青色の瞳。気品がありすぎてこれぞ貴族様という見た目の人だった。


「あ、はい。どもです。よろしくお願いします」


「よろしくお願いしますわ。わたくしの名はリゼレッタ。リゼレッタ・リライズ・ラ・リィーファルですのよ。一応、賢者のユニークスキルを持っていますわ。ところで、貴方はどこの名家なのでしょう?」


「め、名家ですか?」


 名家って何だ。どこ出身か聞いてるって意味なのか。答えに窮した俺を見て賢者様は当然のように言ってきた。


「ユニークスキルを持つのだから貴族なのでしょう?」


 そうなのか。普通は貴族が持つのか。いやでも、一番最初にユニークスキルを発現した聖女様は貴族の生まれじゃなかったはず。


 見栄をはって適当な家名を名乗って偽ってもいいが、後々面倒になりそうだ。正直に出路を話す。


「俺、ただの村人なんですけど」


 そしたらリゼレッタこと賢者様は手を口許に当てた。大袈裟なぐらい驚いている。


「あらまあ、平民でしたの。てっきり貴族の産まれだと思って……ごめんなさいね。ですが、地位は違くても立場は同じ者。どうぞ、よろしくお願いしますわ。……ええと、お名前は何でしたっけ?」


「ダクトです。改めまして、こちらこそよろしくお願いします」


「よろしくお願いしますわ、平民さん。あとそこの可愛い平民さんも仲良くしてくださいまし」


「はい。よ、よろしくお願いします」


 後ろに引っ付くように着いてきていたティナも挨拶を交わした。


 今後、賢者様とはユニークスキルを持った者として一緒に居ることが多くなるはずだから、今のうちに交友を深めたい。なのだが……。


「この紅茶、とても美味しいですわね。爺や、お茶菓子も欲しいわ」


 と、賢者様はもう話は終わりだというように紅茶を飲み始め、こちらと視線を合わせようとしない。もう少し話でもして友好を示そうとしたが、流れ的に断念することに。


 仕方ない。相手は貴族様。高貴な人間はお茶の時間が戦争よりも大事だと誰かに聞いた。至福の時なのだから邪魔しちゃ悪いか。


 一旦、賢者様とはお別れして次はまだ見ぬ勇者を探しに行く。


 部屋を歩くと直ぐに勇者らしい人物を発見した。部屋が広くても賢者様の取巻きと護衛がいて、他には五人で固まっている勇者陣営しかいないため見つけるのは簡単だ。


 だが、俺は勇者へ歩み寄るのを止めて戸惑ってしまった。


 数メートル先にソファに四人の女性を侍らした男が居る。多分、あれが勇者で間違いない。


 その顔を拝見して俺は踵を返すことにした。


「どうしたの、ダクト。勇者様に挨拶は?」


 勇者が居る所と反対側を向いた俺。後ろを着いてきていたティナが不審になって見上げてくる。


「ああ、止めておこう。あれが勇者とか有り得ないから」


「ん?」


 いや、本当。あれが勇者とか嘘だろ。挨拶はまた今度にしよう。うん、そうしよう、先伸ばして有耶無耶にしたい。


「アークス様。女神様に選ばれた人、来てますよ?」


 そしたら背後から報せるお声。勇者の傍にいる女性組からのものだ。なんてタイミングだ。空気を読んでくれ。


 その声に後押しされてかティナが俺の手を握り、勇者側に振り向けさせられる。勇者も振り向いていて、見たくなかった顔が視界に映り込んだ。


 対面した勇者。


「テメェ……」


 数日前に遭遇した金髪イケメンだった。


「……久しぶりだな。お互い、ユニークスキル持ちだったなんて奇遇だよな」


 出だしが最悪な場合からの挨拶ってどう言えばいいのか。


 ユニークスキル所持者の新参者として取り繕うか。ダメだ、こいつにだけは媚びを売るなんてごめんだ。


「村人風情がユニークスキル? ハ、冗談は顔だけにしとけよ」


 勇者の口が悪すぎる件。


 こんなに口が悪いやつが勇者なんて幻滅もいいとこだろう。なんでこんなのが勇者やってんだ。


 勇者に憧れ持ってる子供たちに全面的に謝った方がいい。


「兄さま! 折角、またお会いできたのだから喧嘩腰はやめるのですっ。あの時は本当に申し訳ございませんでした」


 勇者にお茶を出したりしていた子が何度も頭を下げてこちらに謝ってくる。勇者のことを兄と呼んでいた子で、本当に妹かどうかは分からないが、とても行儀が良くて好感が持てる。


 勇者と正反対な小柄な子に隣のティナも頭を下げた。


「いえ、こちらこそダクトがすみません。勇者様、どうか寛容に見てやってください。何分、村から出て間もなく、礼儀作法も習っておりませんでしたので」


「だろうな。こんなクズがユニークスキルか。世も末ってやつだな。皆もそう思うだろう、なあ?」


 勇者が笑い、周りに侍らした奴隷達に賛同を求める。


「うんっ、なんか村人っぽい! すっごく弱そう」


「ほんと、アークス様と同じスキル持ちだなんて思えないよね」


 とか、取り巻きの奴隷が俺を貶してくる。散々な言われようだが、ここは我慢か。以前の二の舞になったらティナに嫌われてしまう。


 盛大な深呼吸。息を吸って、吐き出して。溜まった苛々を外に出す。


 ふう、と一息ついた俺は平和にいこうと思う。


 ぶっ殺すぞ、てめえら。と、言いたいところだが、それでは勇者と同じくなってしまう。こめかみに青筋を浮かべるだけに留めておいた。


「皆さん! そんなこと言わないでください。これから一緒に行動する仲間なのですよ!?」


 ああ、この子だけが勇者陣営での味方だ。


 この子が言うように俺や勇者は仲間になる。魔王とやらを倒すために俺達は集まったのだが、正直仲良くやれる自信がない。

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