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毎朝から始まる訓練をこなし、カトレアさんに体を弄られたりして採寸された日々を送り、優秀な彼女は一人で服を完璧に仕上げてみせた。お礼に何か用意しないとなと思っていたら謁見の日がやってきて――。
「では、こちらに」
と、俺とティナが案内されて来たのは王城の中核。謁見の間と呼ばれている広間の手前である。
これから国王様と謁見する。もう王様は目前に居るのだ。
っていうのに、そこまで緊張はしていない。隣にいるティナがめちゃくちゃ緊張していてるせいか、それを見て自然と落ち着いていた。
俺としては王様と何を話すんだろうぐらいの気持ちである。俺から話すことなんて不敬も良いとこだし、受け身に徹すればつつがなく終わるはず。
「ダ、ダクトっ、どうしよ、ほんとにお城だよ!?」
「まあ、国王様との謁見だし」
ティナがテンパっている。慌ただしく前髪を弄ったり、ドレスに皺がないかとチェックしている。その様子は微笑ましいが、そこまで緊張しなくてもいいのだ。
外見に至ってはカトレアさんから似合っていると太鼓判を押してもらえたのだし、礼儀作法に関してもティナは従者として顔見せなので発言することはないだろう。
俺から見てもいつにもましてティナは可愛くなった。服装や髪型が変わったせいもあるだろう。ティナが着ているドレスは肩口から膝上までを覆うもので、しっかりと魅力を引き出している。
髪はいつも軽く結ったものを後ろで纏めているのだが、今回はドレスに合わせて横で流している。いつもと違う出立ちだから余計に魅力的で視線が向かってしまう。
「な、なんで、そんな落ち着いてられるのっ」
「ティナが慌ててるから?」
「い、意味分かんないし!」
刻一刻と迫る謁見に焦っているティナと喋っていると、貴族と思われる方がやってきた。続いて門番の騎士に指示を出す。
門番の騎士達が敬礼し、壮観な装飾をされている両扉を開き。
「ダクト様、どうぞこちらへお進みください」
貴族が頭を垂れながら前へと指し示された道。開いた道の先には王座が鎮座し、国王様が待っている。脇には何人もの貴族に、道の両脇には騎士が等間隔に並んでいた。
緊張はない。これだけの面子と場を整えられ、普通だったら畏縮してしまうはずだが、俺の思考は冴えている。
「ティナ、行こうか」
「う、うん……」
緊張に強張った顔のティナへ俺は手を差し伸べる。頷いたティナはぎこちなく手を取った。
ドレスに着飾ったティナを引き連れ、貴族の正装を纏った俺は歩み出す。この道は英雄への第一歩。
ここから始まる。ユニークスキルを所持した者が進む道、俺は同じものを歩んでいく。
「顔を上げよ。そなたがユニークスキルを宿した者で間違いないか?」
片膝で敬意を示す俺とティナへ、玉座に座る王が俺に問うた。顔を上げ、間近で拝見する国王様のお顔は四十代ぐらいに老けた顔でありながら、その目は王に相応しい鋭さを持ち合わせていた。
俺よりも遥か上の存在。言葉一つ、気分で俺を殺せるお方。命令を下せば俺の命なんて直ぐに消し飛ぶ。
言葉を間違ってはいけない。丁寧に、相手の勘に触らないように。
「はい。ユニークスキル、女神の加護を承ったダクト・ファームでございます」
「ほう、この場でそれを証明して見せよ」
王の言葉で玉座の真横に居た文官が水晶玉を持ってくる。教会でやったステータス鑑定をするやつだ。目の前にあてがわれた水晶に手を翳し、起動させる。
「では、失礼します。――ステータスオープン」
水晶玉が発光し、文字を表していく。俺の名前から細かな数値まで浮かび上がる。
「うむ」
国王様が頷き、俺はその反応に満足する。特におかしなことはないし、国王様の顔には笑みが浮かんでいる。これならば謁見は上手く事を運びそうだ。
と、思っていたら国王様が訳分かんないこと言ってきた。
「ダクトとやらよ。褒美をやろう。何か望む物はないか?」
「へ? 褒美、ですか?」
褒美とは功績に対して支払われる対価のようなもの。
俺、何もしてないけど。ユニークスキルを取得したことでというなら充分すぎるほど頂いているのだが。
「欲しい物はないのか? 我が与えられる範囲であれば、望みを叶えようぞ」
褒美か。何に対してのものなのだろう。
「……国王様、誠に嬉しいお言葉なのですが、何の褒美なんでしょう?」
「ふむ、そうかキミは知らなかったか。褒美をやる理由としてはユニークスキルを発現したのが、我が国の住人というのもある。これで聖女に次いで二人目となるが、一番大事なのが四人目――最後のユニークスキル所持者の枠をキミが埋めたからだな」
「は、はあ?」
確かに、勇者、賢者、聖女に次いで俺だが、それに何の意味があるのか。
首を傾げてしまった俺に国王様は話を続けた。
「国同士で条約を結んでいたのだよ。最後のユニークスキルを持った者が発見された国で他所持者が集り、魔王を倒すために修練していくとな」
「ええと……?」
だから何なのだろう。勇者とか賢者がこの国に来ていることは知っている。
「要約するとだな。キミのおかげで、かの勇者や賢者が我が国に滞在することが決まったのだ。他国からの支援もある上、商人や観光客の増加で裏で金が回る。これにより国の国庫も潤沢になるだろう。それに対しての褒美だな、何かあるなら申せ。我が叶えようぞ」
なるほど。ユニークスキル所持者という四人目の枠を俺が埋めたことから条約に基づき、勇者とかがこの国に居座る。それに乗じた商人の動きや、観光客の増加が予想されてお金が回ると。
なら、褒美とやらを貰えるもんなら貰いたいが、欲しい物か。考えてみても無いような。金は毎月貰えるし、屋敷もある。
今現在、これといって欲しいやつはない。必要な物も毎月貰える額で余るくらい買えるし。
将来には欲しい物はあるにはあるが、ここで要求することではない。
ユニークスキルを持った者の役目を終えたらの話だ。村に戻って小さな家と自分の畑を持ちたいぐらいだし。あと何年先になるか分からない上に、その頃にはお金も貯まっているはず。
ああでも、奴隷は欲しいな。労働奴隷。だけど、その願いは国王様に願う類のものじゃない。内心、唸ってみたものの答えはなく。
「……国王様、自分は既にお金や屋敷を頂いております。これ以上の物となっては特に浮かびません」
「これといっては無いか。……確か村人の出路だったか、女や貴族の名でもいいぞ。貴族になるなら一代限りの名誉貴族になるがな」
どうにかして褒美を与えようとする国王様は二つのものを提示するが、俺には魅力に感じない。
「どちらもいらないですかね……。自分は村で過ごしてきたのであまり欲しい物がないと言いますか、今の環境を継続してもらえるのならそれだけで充分です」
「うむ、無欲なものだな。分かった、今後欲しい物があったら我に申せよ。そなたをユニークスキルを所持した者として我が国は歓迎しよう」
「有り難きお言葉」
「既に聞いていると思うが、勇者殿と賢者殿がいらっしゃっている。歳も近いことだ、仲良くやってくれたまえ」
こんな感じで俺が頭を下げて謁見は無事終了した。ティナも後ろでホッと息を吐き出している。
謁見が終わると国王様の横にいた文官――既に何回か会っている公爵様が俺達を別の部屋へと案内する。
これから勇者とかと対面だ。
少し端折って書いてます。早くあらすじに追い付きたい。




