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「ダクトが悪いよ」


 フォークを片手に麺と呼ばれている細長い食べ物を巻きながら、彼女は対面に座る俺を全面的に非難した。


「……すまん」


 美味しいものを食べているのに空気が悪い。なんでこうなったんだろう。


 ティナを夕食に誘い、豪勢な食事でもして英気を養おうとしていたのだが、金髪のイケメンに絡まれて一悶着にあった。俺を冴えないだとか不細工だとかはまあ、俺も言い返せないところなので良いとしよう。


 だけど、ティナのことを馬鹿にされたとなっては話が別だ。


 ティナは可愛いと思う。金髪の連れの奴隷に比べれば垢抜けてないが、ティナは顔もよければ中身も良い。


 目の前でむくれてぐるぐるとフォークを回し、不満をぶつけてくるティナ。子供らしく可愛い妹のような存在だが、ずっと前から俺の心の支えでもあったのだ。


 五年前、両親が死に村へ取り残された俺。自立して畑を耕し、生活費を捻出していくのは辛いものがある。どうみても十歳の子供では一人で生きていけず、俺終わったなと頭の片隅に最悪の想像をしていたらティナの両親が引き取ってくれたのだ。


 俺はティナの家に居候となり、俺は村の人達に支えられ、ティナの両親に甘やかされて育った。


 経済的に一人の食扶持が増えるだけで厳しいのにティナの両親は良くしてくれた。


 俺も当時は孤独感があって反抗やらしていたが、何だかんだと上手くやってこれたから今がある。でも、一番の拠り所はお節介なティナが隣に居てくれたから、俺は頑張れた。


 だから、ティナを蔑まされ、馬鹿にされたからカッとなったんだ。もちろん、ティナを守りたいというのもあった。ティナに格好いいとこを見せようともした。


 でも結局は、俺もユニークスキル所持者という立場になり、有頂天になっていたんだろう。


 調子に乗った結果がこれだ。笑えない。


 ティナの文句に俺が頷くという行為が続き、ひたすら謝り通して許してもらったのだが、楽しいはずの時間を無為に過ごしてしまった。




 屋敷に二人して戻ると玄関には従者のカトレアさんが出迎えてくれた。俺達に一礼すると来客室――ただ、使っていない部屋――に手を広げ。


「おかえりなさいませ。ダクト様、お客様がおいでになっております」


 カトレアさんは俺の従者補助係という微妙な立場である。ティナの教育係といったほうがいいか。


 お偉いさんから預かった従者の方で、二十代後半の年齢らしいが見た目は十代で通用するぐらい若い。王宮勤めの経験もあって、従者としての所作は堂が入っている。


 腰まで届きそうな髪を編んで纏めた髪型はとても雰囲気と合っていて、従者用の服と相まって女性としての魅力を出している。


 一言でカトレアさんを表すなら見目麗しい従者、である。そんなカトレアさんはお客様と言った。


「カトレアさん、ただいまです。えっと、こんな時間にですか?」


 夕食が終わった時間帯だ。既に陽は落ち、街灯が道を照らしている。夜中と言ってもいい時間に屋敷へ訪れたお客さん。もちろん、心当たりはない。


「はい、公爵家からの使者の方がお見えです。お手紙を預かるだけなのですが、本人にとのことでお待ちいただいてます」


「公爵家の方ですか……?」


「はい、ご案内致します」


 先導するカトレアさんの後に俺とティナは着いていき、来客室にたどり着く。そこで待っていたのは知らないおっさんだった。


 使者なのだから顔を会わせたことがないのは当然として、公爵家ってだいぶ上の役職だったはずだ。ええと、王様の次ぐらいだったか。


 教会で鉢合わせたお偉いさんが公爵とか名乗っていた気がする。村長を自己紹介で平身低頭までにさせたお偉いさんだ。俺達に屋敷とか与えてくれた方でもある。


「ダクト君で間違いないか?」


 使者の方が立ち上り、俺の身元を確認する。といっても、本人を証明するには教会か冒険者ギルドにしかない水晶玉でステータス鑑定するしかないのだが。


「はあ、まあ俺がダクトですけど」


 俺が名乗ると外見的特徴は聞いていたのか納得して、慇懃な仕草で懐から紙を取り出した。


「夜分遅くに申し訳ないが、ルノワール様からお手紙を預かっている。拝見して頂きたい」


「えと、はい……」


 使者の方から貰った手紙。封は蝋で固めてあり、分厚いことから透けて見ようとは思わない。


 受け取った俺は少し躊躇してしまう。ここで破いて見なきゃ使者は帰っていかなそうな雰囲気だが。


 どうしても読まなきゃいけないのだろうか。俺、文字読めないんだけども。


「ダクト様、よければ私が拝読致しましょう」


 封筒を握って迷っていたら救いの手。カトレアさんが気を遣ってくれた。さすが出来る従者。


「……ありがとうございます。では、お願いします」


 俺は是非と手紙を渡し、椅子に腰を下ろして聞く体勢に入った。


「では、失礼します」


 カトレアさんが手紙を受けとり、封を開けて中身を取り出す。二枚の紙が折り畳まれていて、サッと目を通してからまた初めからゆっくりと読んでいく。


「ダクト様。公爵家当主ルノワール様からのお言葉で、四日後に国王様との謁見がある旨が書かれています。ダクト様とティナ様お二人で来られるようにとのこと。そして、女神の加護を承った英雄が、此度この国に集結したと。勇者様、賢者様とのご挨拶も謁見後にあるそうです」


「……謁見、ですか?」


 ついに王様と対面か。なんだろう、この現実味の無さは。そんなに驚いていない自分もいる。お偉いさんから王様と会うことは事前に聞いていた。だからだろうが、緊張に汗ばんできたりはしていない。国のお偉いさん達が決めた取り決めに従うだけ。ただ、相手が相手でもある。


 村人の俺にとって国王様は手に届かない人物だ。名前を聞いたりするだけで、見ることも話をすることも許されない雲の上にいる存在。


 王様と謁見があるからといってどういった心向きで行けばいいのか。


 それに、勇者とか賢者が国に着ているとのこと。いくらなんでも早くないか。他国から急いで駆け付けたのだろうか。聖女様はこの国出身だが、巡礼とかで出回っているのが常だ。たまたま運良く重なってくれたのか。


「はい、このお手紙には四日後と記されています。馬車の準備も公爵様から出すようなので、準備だけ万全にとのことです」


 四日後の謁見に勇者や賢者、聖女様と対面。巷で有名な三人に俺が加わる。


 俺が返事をすると手紙の旨を理解したことに満足すると使者の方は帰っていった。


 椅子に座って一息つき、謁見の件に思いを馳せようとして失念していることを思い出した。


「そういえば、王様とかと会うときの服ない」


「あ……」


 ティナも忘れていたらしい。さすがに私服じゃまずいだろう。街でいくら上等の物を買ったところで、王様との謁見で着る服じゃない。


 結構、不味いことじゃないだろうか。


「今から採寸してだと時間がぎりぎりでしょう。私がご用意致します。古着になってしまいますが、私がサイズを直します。これでも裁縫スキルのレベルが4あるので、間に合わせですが問題ないと思われます」


 有り難いことにカトレアさんが引き受けてくれるらしい。俺とティナはお言葉に甘えることにした。


 カトレアさんには従者として屋敷の管理やらティナの教育やらで負担が掛かってしまうはずなのだが、本人はやる事が増えたと少しばかり喜んでいた。

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