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 俺達は外出用の服装に着替え、護衛にアッシュさんを連れてやってきた。


 高級なお店ということで、美味しいものと有名な所だ。アッシュさんからの情報だが、裕福層に好評なお店らしい。


 俺としては高そうなお店は入りにくいという考えが真っ先に浮かぶが、こういう所にも慣れていかなければならない。まあ、気晴らしも兼ねて美味しい物を食べに来ただけだけど。


 王都の飲食系列で貴族様に有名な人気店だ。味は保証されているもんだろ。予約とかしなくて大丈夫なのかとアッシュさんに聞くと、席数は多く、貴族様に人気なため予約はなくてもいいらしい。


 貴族は気まぐれで店に行ったり、要望が通らないと癇癪を起こす輩も多いらしく、そのお店はそういったことも対応しているそうだ。ただ、その店は服装や身嗜みが駄目だったり、他のお客様に迷惑が掛かると判断すると入店拒否することで有名で、どんなに階級が高くても店にそぐわないと店長が判断するとお断りらしい。


 お客様だとしても節度を持って来店しろ、というわけだ。


 良い店だと思う。たまに宿や酒場で高ランクの冒険者だか知らないが、我が儘顔でケチつける奴がいる。あれを見るたび後ろから蹴り飛ばしたくなるんだ。不快にさせないって大事。


 まあ、俺達は入店拒否はされないはず。ティナの選んだ服があるし、マナーとかも大丈夫だ。ディナーにおけるマナーは音を立てないで食べればいいとか聞いたが、実際無音で食べるなんて無理だろ。要は他人に迷惑を掛けなければいいのだ。




「なんでオレ達が入れねえんだよ。オレが誰だか分かってんのか!? アアッ?」


 目の前にいるこういう人になっちゃいけない。店前で店員さんに掴みかかる勢いで啖呵を切る金髪のイケメン。ていうか、どこかで見たことがある。ああ、俺がティナに変なことを口走ったときだ。


 さて、何がどうなっているやら。成行も知らない俺とティナは店の入口で立ち往生してしまう。目的の店に着いたはいいが、入口には金髪と燕尾服を着た店員さんが塞いでいる。


 入口は木製の両扉が開いており、入ろうと思えば入れるが、争う二人を無視していいものか悩んでしまう。同じように立ち往生している四人の女性もいて、俺達も様子を見てみることにした。


 粗暴な言葉を使う金髪のイケメンは丈夫そうな皮製の服に、肘や胸当てには金属製のものを着ている。腰には装飾過多な両手剣を差しているから冒険者か。


 対応している店員さんは白髪を後ろに全て流している四十代ぐらいの人で、燕尾服を着た姿は貫禄がある。ぱっと見、この人は店のオーナーか店長さんか。


 言い争う二人の後ろ、四人の見目麗しい女性組は金髪イケメンの連れだと思われる。話の流れ的にイケメンの同行者らしいことが分かった。そして、理由が分からないが、どうやらこっちの女性組が入店拒否らしく、金髪イケメンが抗議しているようだ。


 そうこう観察を続けていると木製の両扉から見かねた店員さんがやってきた。


「ああっと、ごめんなさい。お客様は三名様かな?」


 綺麗な赤髪の店員さんが店前で争う二人をちらっと見て、奥にいる俺達の前に着くと客かと確認する。


「私は護衛ですので、二名でお願いします。外で待っていますので、お二人で楽しんできてください」


 すかさず後ろにいたアッシュさんが俺達と店員さんに言って、中へと促してきた。


「じゃあ、お言葉に甘えて。すぐ戻ります」


「いえ、気にせず。待つのは職務柄慣れてますので」


 と、アッシュさんは店の横、邪魔にならない場所で待機の構えを取った。騎士だからその構えは様になっているのだが、待つのは辛くないのだろうか。気にせずと気遣いを貰ったが、早めに戻ることにする。


 ティナもアッシュさんに気を遣うだろうし。


「じゃ、二名様ご案内でー」


 店員さんに案内されながら店の中に入ろうとする俺とティナ。服装が決まっているからか、場違い感はない。貴族御用達の店でも上手く溶け込めてると思う。


 堂々と俺達は燕尾服の老いた店員さんと金髪イケメンの横を通り過ぎようとして――金髪イケメンが俺達を指差した。


「おい、オレ達が駄目で、この冴えねえやつがいいってのはどういうことだ!?」


 ほとんど店員さんとキスする勢いで至近距離で喚く金髪イケメン。顔はいいのに勿体ないな。このイケメンに冴えないって罵倒されても言い返せないのが辛いところ。


「で、ですから奴隷の方は他のお客様が良く思いませんので」


 このお店は奴隷が駄目らしい。まあ、奴隷と言えば首輪をしていることで有名だ。食事中に鉄製の首輪をした人間が居れば気になってしまうだろう。


 でも、個室とかあるよな。トイレとか行くときに遭遇するとかの配慮か。知らんけど。


「アア!? この下級貴族みてえなカスがオレ達より上だってか?」


「ち、違います。この国では奴隷制度は禁止されており、他国の奴隷は珍しく……」


 何でも突っかかってくるイケメンに四苦八苦している店員さん。なるほど、イケメンの連れの内三人は首に鉄製の首輪をしている。あの三人は奴隷なのか。それにしては哀愁とか悲壮感がないが。前に見たときもイチャイチャしていたしな。けしからんし、羨ましい。


 俺達はイケメンと店員さんのやり取りを仲裁するわけにもいかず、無視を決め込み素通りする。


「この連れの女もブスで男もカスだ。オレ達が駄目ならこいつらも駄目だろうがッ」


 通ろうとしたら聞捨てならんこと聞いた。俺はいいとして、誰がブスだって。


「おいおい、イケメンさんよ。お前、今の誰に言ったの? まさか、俺たちにか? あ?」


 振り向いて長髪の金髪を睨む俺。


 ティナは超絶美少女だ。俺が保証する。そんなティナをブスだとか有り得ない。もし本当にそう思うなら目が節穴だ。両目切り抜いて義眼でも入れたほうがマシだろう。


 イケメンだろうと言って良いことと悪いことがあるんだ。矛先が俺に向き、安堵したような顔でひと息つく店員さん。おい、無関係な俺達に絡んできたんだから何か言ってくれ。


 店員さんから厄介者のような扱いを受けるイケメンは美形な顔立ちを歪めて俺へと睨み返し、怒りをぶつけるかのように接近してきた。


 まさか、俺にもキスする勢いで顔を近付けようってのか。結構だ、止めてくれ。


「あ? てめえ、誰にモノ言ってんのか分かってんのか?」


 目前で、ガンをつけるというのだろうか。首を上下に振り、威圧してくるイケメン。


 ふむ、このイケメンは誰なんだろうか。夕食に来た店で偶然遭遇したイケメン。まさか貴族か。良いとこの坊っちゃんなのか。チンピラにしか見えないのだが。


 俺がヘタなことしたら処罰されるのだろうか。


「ちょいと失礼」


 分からないことは知っている人に聞くのが一番だ。というわけで、そこら辺を詳しそうなアッシュさんに聞いてみる。


「すみません、あの人って誰か分かります? あと、貴族相手に俺が変なこと口走って罪になったりするんですかね?」


 俺は一応、女神様の加護のお陰で貴族と同じぐらいの階級になる。どのぐらいの階級なのかも把握してないが、貴族相手の争いだ。罪に問われるのだろうか。


「ダクト君には国王様ぐらいしか罰を与えることは出来ないけど、今後のためにもあまり事を大きくしないほうがいい。それに、見間違いじゃなければ彼は――」


 良いこと聞いた。俺は無敵らしい。


「あざっす。――すまん、待たせたな。で、お前誰なの? 逆に聞くけど、俺が誰か分かってんの?」


 俺に怖いものなんて無くなった。ティナの前でもあるし、少しは見栄を張らせてもらおう。


「ちょっと、ダクト。止めとこう、ね?」


 ティナが腕の裾をちょんちょんと引っ張り、俺を止めようとするが男には引いちゃならない時があるんだ。


「あん? ただの下級貴族だろ?」


 金髪のイケメンには俺が貴族に見えるらしい。光栄なことだな。


「違う。俺はただの村人だが」


 俺はユニークスキル所持者だが、まだ伏せられている。そのため、公で御披露目するまでは俺はただの村人だ。口止めされているし、こんな口喧嘩に名乗るほどでもない。


「ただの村人なら失せろ。調子こいてオレ様に口聞いてんじゃねえぞ、クズ」


 イケメンは村人だと分かると、あからさまなほど下に見て舌打ちしてきた。金髪イケメンの後ろにいる女性組がおろおろしている。先頭の小さな女の子が慌てているが、隣のティナも慌てている。両方可愛い。


 二人の少女に和ませられ、俺は寛大な心で接してみることにした。


「やれやれ、お前が誰だか知らんけど、大層なご身分なんだろうな。ならさ、こんなところで迷惑掛けるなよ」


 どうみても歳上のイケメンに呆れてしまうが、ここで手打ちにするっていうなら俺は何も言わないぞ。


 イケメンの連れもどうしていいのか困っている様子。ここは俺が収めるべきなのだろう。収集がつかなくなって居心地悪そうにしている店員さん二人も仲裁に入る気はなさそうだし。


「あ? オレより下のクズが何言ってんだ。ぶち殺すぞ、テメェ」


 俺の宥めようとした発言が気に触ったのか、イケメンが腰に差している両手剣を抜いた。


 嘘だろ、こんなことで剣を抜くのか。短気すぎる。やれやれ系が癪に触ってしまったのか。つうか、お前それ、牢屋行きなの分かってるのか。


 王都では街中で剣を抜くのはご法度だ。自衛の際には罪にはならないが、直ぐに治安維持の騎士が跳んでくる。わざわざ捕まりたくないのは皆一緒で、どんな荒くね者でも大衆の目前では抜剣しないのだが。


「お、おう。まじでやる気か。受けて立つわけねえだろ」


 俺は無手である。いや、剣を持っていたところで受けたりしないけど。


「あん、やんねえのか? なんだ、口だけ野郎か?」


 いや、口だけとかの問題じゃないんだけど。仕方ない、ここは本職に任せるとしますか。


「ちょ、ちょっと、兄さま! それはダメなのですっ」


「ダクト、お願いだから止めよう。ダクトも悪いからさ、謝って、ね?」


 アッシュさんに助けを借りようとしたところで、お互いの陣営から制止の声。ティナのお願いだ。ここで引くのは不本意だが、引いてやってもいい。ティナを貶したんだし、絶対に謝らないがな。


「シェイラ、こいつが喧嘩売ってきたんだ」


 イケメンの連れで唯一首輪をしていない小柄な女の子へ言い訳する。だが、それは違うと思うんだ。お前が喧嘩売ってきたんだろ。


「兄さまは喧嘩腰なのがダメなのです。こんなことで捕まったら笑われてしまいますよ。この国に来た目的を思い出してください。皆さんも他のお店でいいって言ってますし、他の所に行きましょう?」


 小柄な女の子の他女性組も頷いて同意している。それを見たイケメンが舌打ちして俺に振り向いた。


「チッ、分かったよ。……命拾いしたな、クソみてえな村人さんよ」


 捨て台詞を吐くイケメン。どうやら引いてくれるらしいが、その態度が気に食わない。俺も皮肉を返すとしよう。


「結局、お前の正体は分からず終いだったが、その言葉をそのまま返すわ。命拾いしたな、金髪」


「アア!? やっぱ、ぶっ殺すぞ、てめえッ」


 沸点が低すぎる金髪イケメン。再度、剣を抜こうとしたところでティナが庇うように前に出た。


「ちょ、ダクトっ! ご、ごめんなさい。この人、口悪くて……その、悪気はないんです!」


 イケメンの傍らにいる少女も剣を抜こうとした腕を抱き締め、そのまま引っ張っていく。


「兄さま! こちらこそなのです。兄さまは本当は優しいのです! その、ご迷惑おかけしました! 兄さま、ほら、早く行きましょうっ」


「ちょ、シェイラ。そんな引っ張るんじゃねえ!」


 去っていった金髪イケメン達。それを眺めた俺は笑みを浮かべ。


「……ふ、俺の勝ちだな」


「ダクト、怒るよ?」


 勝ち誇った俺に、ティナはぷんすかしていた。

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