村人1
注意点、この作品は万人向けに書いていません。タグ参照。
高望みはしなかった。
勇者になりたいなんて思ったことはないし、騎士や賢者にもなりたいなんて思ったことはない。
そりゃ、憧れはあるよ。魔物をぶっ倒して名声や地位を獲得して、あれよあれよと成り上がっていく英雄譚は男なら憧れはする。
でもまあ、俺は農民。貴族でもないし、魔法も使えなければ剣を握ったこともない。鍬持って畑を耕してるのがお似合いな村人なんだ。
だから、将来はそれなりに暮らせて、嫁さんでも貰えれば幸せだなと、そう漠然と思っていた――。
「……うぇ?」
十五歳に行われるステータス鑑定という誰しも通る行事にて、俺の口から変な声が漏れ出る。不意に出た声は、カエルが潰れたものと似ていた。
目の前にいるのは白髪の神父様。髪の毛が多少ハゲていて、顎から伸びる髭は長年蓄えたのか立派なものだった。
そんな神父様はわなわなと唇を震わせ、目の前に置かれた水晶玉を凝視している。
いや、俺も神父様の気持ちは分かるよ。
だって、動揺しまくっている。これ、まじかよって。
「――おお、なんと。神はそなたに加護を与えたもうた。これは――」
「え、これまじ? まじ、だよな? うわぁ……」
教会の神父様が何やら大層な言葉で褒め称えているが、そっちのけで水晶玉に両手を触れ、顔を近付けて覗く俺。
自分ですら何口走っているのか不明だが、目の前に現れた――水晶玉に反映された――ステータス画面と呼ばれるものには凄いやつが映っていた。
改めて、上から順に見てみる。
ステータスとは己を映す鏡。才能を数値化したものである。
俺の名前やレベルに始まり、性別は男と記載されている。それはまあ分かる。次に攻撃力や防御力、技術や素早さの数値があった。
その下に魔力量や空欄のスキル欄があるが、この二つの項目は無いに等しい。だが、全体をみれば良い数値を叩き出している。
スキル欄に何もなかったのは残念きわまりないが、これからの成長でスキルが増えることもあると聞く。それは今後に期待するとして。まあ、ここまでは想定通りだったと言える。
畑の手伝いやたまに行く狩りしかしていない身でありながらレベル17もあることは素直に嬉しいし、年齢より若干レベルが高いのは上々の結果だろう。
だが、普通なら持っていないものがあった。空欄のスキル欄の更に下、ステータス画面の一番下に位置するところにこう書いてあった。
ユニークスキル。
女神の加護‐
これが問題だ。何で俺のステータスにあるのと、動揺してしまうぐらいには凄いやつだ。
このユニークスキルは随分前から国で話題になっていた。それは俺が住んでいる僻地の村にも届いている。
ユニークスキル所持者、女神の加護を持つ選ばれた者。世界を救い、平和を導く者。なんて言われ、崇められているほどだ。その数は四人であり、今までは三人しかいなかった。
四人の枠、最後の一人が俺だった。
どうして四人なのかは不明だが、目の前の神父様よりも遥かに偉い教会の人がそう言っており、神のお告げとしてユニークスキル所持者は四人と決まっている。
随分と前から、それらが世界を救いし者だと、そう各国にお触れを出していたのだ。
世界を救う。俺の穿った見方をすると魔王をぶっ殺すことだと思っているが、そう間違っていないだろう。
現在確認されている三人のユニークスキル所持者はどこぞの国がそれぞれ保護しているのだが、もう一人はこの国出身である。
最近は名前を聞いていないが、遠くの国で信仰でも説いていることだろう。
この国出身のユニークスキル所持者は聖女様。俺も見たことがあるが、とっても綺麗な人だった。年齢は確か俺の四つ上だったか。
いやまあ、それはさておき。
四人が集り次第、パーティを組むことになっている。まあ、あれだ。魔王を倒すためにレベルを上げなさいとかそんなところじゃなかろうか。
で、だ。ユニークスキル所持者は三人。世間からはこう呼ばれている人達と同じスキルを俺は持ってしまった。
勇者、賢者、聖女の三人。そうそうたる面子が揃っている中、最後は俺で飾ることになった。勇者、賢者、聖女、――村人とな。
俺だけなんか違くねえかなと思いつつ。
――俺は選ばれたのだ。四人目のユニークスキル所持者に。
「これは女神様による加護である。心配はいらない。いずれスキルも開花するであろう。国も君を全力でサポートしていくつもりである。四番目の選ばれし者よ。どうか、民の希望となり、この世界に平穏を与えたまえ」
と、言われているが、ぶっちゃけ訳が分からない。
「……お、おうよ?」
これからどうなっていくのかも知らず、あまり飲み込めていない俺は神父様に超絶上から目線で頷いた。