魔法使いの遺書
これを読んだあなたへ。
これは私、シルヴィア=ネクロの遺書である。
魔王城で何が起こり、私がなぜ死ぬことにしたのか、それをここに書こうと思う。
とは言っても、私は世間一般の遺書の書き方なんて知らない。
私自身は遺書なんてもちろん書いたことはないし、他人の遺書を読んだこともない。
ついでに言うと私には残念なことに文才もないようだ。
だからあなたはもしかしたらこれが遺書だとは思わないかもしれない。
でもこれは遺書だ。
そのつもりで読んでほしい。
さて、私が間違えてさえいなければ、今日はイシュバルト歴3657年6月3日だ。
今の時間は私の懐中時計で朝の3時過ぎぐらいになる。
私たちは昨日、つまり6月2日の朝に魔王城へと突入した。
メンバーは勇者オーバル、戦士アドン、賢者シルベール、僧侶ルーシェ、そして私、魔法使いシルヴィアだ。
ちなみに道案内としてメラルという子が一緒に魔王城まで来たが、彼女は外に置いてきた。
そもそも道案内だけの約束だったし、実際問題として魔王達と戦えるとはとても思えなかったからだ。
魔王城の裏門から侵入して魔王を暗殺する。
それが私たちの計画だった。
城の中に入るまでは計画通り順調に進んでいた。
予想外の事態になったのは突入した直後からだ。
城内に侵入した私たちは魔族達の死体を発見した。
一つや二つじゃない、そこら中にだ。
それらが他殺であるのは一目見て明らかだった。
どれも血が完全に乾いていて、死んでから時間が経っているのはすぐにわかった。
もしかしたら内乱でもあったのかもしれない。
私たちはこれを好機と捉えて魔王のいる部屋を目指して進んだ。
でも結局、魔王の間に着くまでの間に生きた魔族と遭遇することは無かった。
・・・訂正する。
魔王城の中で生きた魔族と遭遇することは無かった。
魔王の間に突入した私達が見たのは文字通り積み上げられた大量の魔族の死体、そして魔王と思われる死体だった。
その時の私たちの驚きをわかってもらえるだろうか?
ここまで来るのに約二カ月だ。
普通に移動すれば一ヵ月程度の道のりを、ポンコツ勇者オーバルの戦闘訓練をしながら二カ月かけてここまで来た。
にもかかわらず、肝心の相手は既に死んでしまっていた。
魔王の死体を発見した後、私たちは数時間かけて魔王城の中を探索した。
結局生きている魔王も魔族も見つからなかった。
最近になってようやく勇者の自覚が芽生え始めたオーバルの提案で、私達は魔王城に留まって詳しく中を調べることにした。
私は外で待機しているメラルを呼びに行ってこの決定を伝えた。
泣きそうにしていた彼女は、この話を聞いた瞬間に固まった。
なかなかおもしろい顔だった。
彼女は魔王城の中に入るのを躊躇っていたけど、私が常に護衛するという条件で城に泊まることを了承してもらった。
その日は夜まで魔族の死体を調べる作業で終わった。
特に大きな収穫はなかった。
折角部屋が沢山あるということで、一人一部屋ずつに分かれて寝ることになった。
アドンとシルベール、それに憎きルーシェが城の西側、私とメラル、そしてオーバルが城の東側に泊まることになった
私は約束通りメラルと同じ部屋で寝た。
部屋にベッドは一つしかなかったので他の部屋から持って来ようとしたら、彼女の希望で一つのベッドで寝ることになった。
・・・これが女子力の違いと言うやつだろうか?
これを応用すれば私もオーバルと同じベッドで寝られるかもしれない、そう思ったら興奮して中々眠れなかった。
ちなみにメラルは速攻で寝ていた。
女の子らしい寝相だった。
胸も結構大きい。
私が男だったらとっくに襲っているに違いない。
圧倒的な女子力の違いを見せつけられた私は心を折られそうになった。
やっぱり胸か?胸なのか?
だからオーバルはルーシェがいいのか?
でも私だってもう少し経ったら胸が大きくなってくるはずだ。
まな板ってばかにしやがって、ニブちんオーバルめ。
さて、問題はその後だ。
日付が変わって少し経った頃、脳内でニブちんオーバルと一つのベッドに入ってニャンニャンするシミュレーションを終えた私は、ウトウトしてようやく眠りにつきそうになっていた。
そんな時だ、遠くに物音が聞こえたのは。
メラルはぐっすり寝ていたのでそのままにしておいて、私は部屋の外へ出た。
魔王の間の前には既に戦士アドンと僧侶ルーシェがいて、二人とも困惑した表情を浮かべていた。
私もそこに合流して、二人が見下ろしていたそれを確認した。
それとは何かって?
結論から言えばオーバルの遺体だ。
魔王の死体と同じような人型の石がオーバルの鎧を身に着けて横たわっていた。
その時点ではまだそれがオーバルだという確証はなかった。
でも私はそれが間違いなく勇者オーバルであるとすぐに確信した。
理由はオーバルが身に着けていた腕輪だ。
オーバルは魔法耐性を向上させる腕輪を身に着けていた。
私が彼のために作ったものだ。
同じものは世界のどこにも存在しない。
それが遺体の腕にはめられていた。
体中から突き出した石の突起が引っかかるせいで後から腕にはめることも外すこともできない。
オーバルが腕輪をはめた状態で死亡し、この姿になったのは明白だった。
・・・正直眩暈がした。
オーバルが死ぬなんて・・・。
こんなことならオーバルとも同じ部屋で寝ればよかった。
そうすれば私が守れたのに。
気が付いたらいつの間にか私はオーバルに縋りついて泣いていた。
自分でもそれじゃいけないことはわかっていたけど止められなかった。
どれくらい泣いていたかわからない。
泣き終わった頃にはいつの間にかアドンもルーシェもいなくなっていた。
私はオーバルの遺体が見つかった時のことを詳しく聞こうと思ってルーシェの部屋に向かった。
最初にそこへ向かったのは単純に一番近かったからだ。
部屋にいなければ別の場所を探すつもりだった。
結論から言うと、ルーシェはそこにいた。
・・・ついでにアドンも。
部屋の扉は少し開いていて、中から言い争っている声が聞こえてきた。
オーバルの死で動揺していたせいで二人が何を話していたのかは頭に入ってこなかったけど、静かになるのを待ってから私は部屋に入った。
そこで私が見たのは首を絞めて殺されたルーシェとそれを見下ろすアドンだった。
私は咄嗟に杖を構えようとしたけど判断が一瞬遅かった。
オーバルの死に動揺していたからだと思う。
突進してきたアドンを止めきれずに地面に押し倒された。
その後のことはあまり思い出したくないので簡単に書く。
オーバルのものになるはずだった私の純潔は、あのクソ脳筋野郎のものになった。
前々から狙っていたなんて言われてもまるで嬉しくない。
盛ってんじゃねーよクソ犬!
魔法使いは杖が無いと魔法を使えない。
最初にアドンに押し倒されたとき、私の普段使っていた杖は部屋の隅に弾き飛ばされた。
だからあいつは油断していたんだと思う。
私の中に出した瞬間は完全に無防備になっていたから。
私は袖に隠していた杖で至近距離からエアカッターを頭に叩き込んでやった。
頭が真ん中から2つに割れたけど自業自得だと思う。
ルーシェはもう手遅れだった。
殺したのはアドンで間違いない。
邪魔な女を殺してくれたのは正直助かるけど、もしかするとオーバルを殺したのもアドンかもしれない。
ルーシェと言い争っていたのはそのことじゃないだろうか?
いずれにしても、もうどうでもいい。
オーバルが死んだ、死んでしまったんだ。
その事実だけで私には十分だった。
オーバルのいない世界なんてもう生きている意味もない。
私はオーバルの横で死ぬことにした。
あの脳筋野郎の体液が付いたままだと嫌だから最後にお風呂に入って体を洗い、今オーバルの横でこの遺書を書いている。
そういえばここまで書いて思い出したけど、シルベールが部屋からいなくなっていた。
どこに行ったのかはわからない。
・・・まあいいか。
むしろもっと早く消えてくれれば良かったのに。
旅の間、私がオーバルと二人きりになろうとするたびに邪魔になって仕方がなかった。
マジで空気読めよおっさん、このロリコン野郎。
とにかく、これでオーバルの横は私のものだ。
あの胸に栄養が全部いってるようなクソビッチのルーシェじゃない、私がオーバルに相応しいんだ。
さて、とりあえず書くことは最低限書いた。
だんだんこの遺書を書く意欲もなくなってきたのでそろそろ終わりにしようと思う。
最後に、これを読んだあなたにお願いだ。
私の死体はオーバルと一緒に埋葬して欲しい。
もちろん邪魔が入らないように二人だけでだ。
間違ってもあのクソビッチとかクソ犬を一緒にするようなことだけはやめて欲しい。
ロリコンのおっさんなんて論外だ。
好きな人とずっと一緒にいたい、私の願いはただそれだけだ。
シルヴィア=ネクロ




