表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
6/16

6 先輩だから

 七尾は石黒が真村殺害の容疑で独房に収監されたことを聞いて、すぐ独房に駆けつけ面会を求めた。けれど殺人の容疑者に関しては一切の面会を禁ずる規則があるとのことで、何時間食い下がろうと無駄だった。

 石黒人基が本当に殺人犯だったとするなら、と仮定しかけて、七尾はそれをやめた。

 まだ人を信じてみよう、そう決めたのは、彼のおかげだから。

 収監されてから一週間が経ち、阿久津と小西は、新山が伊世を監禁したことによってもう調査をやめてしまったようだったが、七尾はひとりで調査を続けた。

 初めの何日かは何をすればいいのかわからなかったけれど、ふと思いついて、真村が殺された当日、石黒がなにをやっていたのか監視カメラの映像で調べた。

 結果として、彼が自室以外で当日に出入りしたのは情報部と研究部とガレージの三つ。情報部に入って行った時の足取りは重く、出ていく時の足取りは軽かった。つまり情報部の知り合いに何かの手掛かりを得た、ということに違いない。たぶん。

「失礼します!」

 自動扉が空いたと同時に大きな声を出すと、働いている人たちの視線が一斉にこちらを向いた。

「この中に、石黒人基と一週間前に話したよって方、いらっしゃいませんか?」

 手を挙げて訊ねたけれど、無視された。

 あまり人の視線は気にならないたちなので、めげることなく、情報部のデスクを回っていく。

 ひとりとして良い反応をする人間はいなかった。

 けれどあるデスクの前を通り過ぎる時に、

「第六区画、五十五のC」

 ぼそりと呟いた声が聞こえた。

 七尾はそちらを見ずに、情報部を出た。

「うわ~。なんだか探偵っぽい」

 呟きながら携帯情報端末を開き、第六区画について調べる。ここの資料を閲覧できるのは、定例会議の参加資格をもつ者、となっている。

 つまり七尾には見られない。

 ……仕方ないか。

 端末を通話機能に切り替えて、小西に電話を掛けた。

「あ、小西? 今暇? え? 任務中? そっか。じゃあ、終わったら第六区画の前に来て」


「もー、なんなんすか七尾さん、気が利かないのは仕事以外だけにしてくださいよ。人がE型の集団とやりあってる切羽詰まったときに!」

「それは……ごめん。でも、そんな状況で電話に出ないでよ……」

「うわ、七尾さんに突っ込まれた。あー、もう明日から生きてけねえ」

「小西」

「はいはい、第六区画の機密情報がほしいんでしたね。で、資料番号は」

「五十五のC、だと思う」

「だと思う?」

「いいから、早く調べて来てよ。大切なことなんだから」

「わかりましたよ。ったくもー、人遣いの荒さだけは特級隊員なんだからー」

 七尾はため息まじりに小西を見送った。自分もよく呆れられるけれど、小西ほどじゃないと思いたい。

 第六区画手前の廊下でじっと待っていると、しばらくして、小西が出てきた。

 彼の驚異的なタッチ速度にしては、やけに時間がかかったな、と思いながら、無言で手渡された情報端末の画面を見る。

 資料からの断片的な書き写しが書かれたメモ画面で、CH計画という計画の概要が書かれていた。

「簡単に言えば、人間の意識を保ったままクリーチャーとしての身体を自在に動かせる人間兵器を造りだしちまおうぜ! ってイカレた計画だったみたいっすね。当然、まともな人間なら反対するでしょうけど、そうじゃない連中もいた」

 人を実験体として使ってでも、レナントに勝てる兵器を生み出したい。

 そう考える人間がいても不思議ではない。特に、レナントに追い込まれていた五年前なら。

「で、気になるのはここなんですけど」

 小西が指差した場所を読む。

「ここ最近の死者とそのリスト、比べてみてください。妙に一致していませんか?」

「あっ」

 読んでみて、七尾は思わず声を出した。

「すごいっすよね、これ。たぶん、石黒さんはこれを見つけたから、投獄されちまったんじゃないすかね」

「え、でも……」

 七尾は新山の顔を思い浮かべた。

「情報部の江田はともかく、みかげさんって、こんな怪しげな計画に賛同するような人かな?」

「そりゃあ、見えないすけど。いままでいたレナントのスパイだって、見事に溶け込んでたじゃないですか」

「うーん……みかげさんかあ……。みかげさんにしてはやり方がまどろっこしいっていうか、みかげさんならもっと上手くやるんじゃないかなあ」

 七尾は首をひねって、小西に情報端末を返した。

 七尾が疑問を口にしたことで、小西も、この資料をきちんと検討することに決めたようだった。

「ま、七尾さんは人を疑うことに関しては素人レベルですが……たしかに、4Sで要職にいるみかげさんに、内通のメリットがどこにあるんだかよくわかりませんね。そもそもこの資料を議題に挙げたのは誰なんすかね? こんな薄気味悪い計画、研究部以外の人間が考えつくとは思えない」

「でも、伊世さんは反対者のリストに載ってるね」

「それっすよ。たぶんこれは伊世さんしか実現できない計画で、伊世さんの反対があったから頓挫した、ということのはず。でも研究部長が反対する計画を、研究員が議題に挙げられるのかどうか」

「よし」

 七尾は顔を上げた。

「みかげさんに聞いてみよう」

 歩き出そうとすると、小西に腕を掴まれた。珍しく焦っている。

「いやいやいやいやいや!」

 早口でまくしたてられて、いったん足を止めた。

「この資料を素直に読んだら、みかげさんが反対者を殺して伊世さんを監禁、実験に協力させようとしてるんですよ! 幹部が殺されまくって、もうみかげさんに盾つける人間なんていないんすから! 新兵器を手土産に寝返る気でいるとしたら、俺らも投獄されちゃいますよ! 最悪、殺されるか、人間兵器の実験体にされるかも……」

「小西って意外と臆病なんだね」

 小西がぱくぱくと口を開けたり閉じたりする。

「わたしが投獄されたり消されたりしたら、その資料通りの結果だって証明されるだけ。そうしたら、小西がみかげさんを拘束して、計画を止めれば終わりでしょ」

「七尾さん……」

 小西がじっと、目を見てくる。

「あんたの頭のネジが緩んでるのは知ってましたけど、とっくにぶっ壊れちゃってたんですね」

 七尾は小西の頭をひっぱたいた。小西が大げさにわめきながらうずくまった。

「わたしだって他の誰かが捕まってたらこんなことしない。先輩だから、するんだよ」

 そう吐き捨てて、新山のいるだろう作戦室に向かって走り出した。



 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ