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趣味

「ふん、ふん、ふふ~ん♪」


 翌日。

 私は鼻歌交じりでるんるんと、街中をステップしながら歩いていた。


 隣には、誘ってくれた獣人の友達が歩いている。

 彼女はいつものあきれっ面を私に向けていた。


「──んんっ! 解放感~! 今日は遊ぶぞー!」


「……あのねぇ、半月以上の働きづめで失ったものを、1日で取り戻そうったって無理だって。そんな楽しい事なんて、そうそう転がってないって」


「夢のない事言うなー! あ、あそこに小物売ってるよ。見に行こう!」


「へぇへぇ」


 私は友人を引き連れて、街の中央広場にある道端の露店に向かう。

 そこでは、私よりいくつか年上といったぐらいの男の人が、地面の上に敷物を敷いて座り、その前にいくつかの作品を展示していた。


 並んでいるのは木を彫って作られた彫刻で、動物を可愛らしくかたどったものが多いが、中にはモンスターを模ったものもある。

 それぞれに値札が付けられていて、モノによって銀貨数枚から十数枚ぐらいの値段だった。


「すごーい……これ全部、お兄さんが彫ってるんですか? これ作るの、どれぐらい時間かかるんですか?」


「いらっしゃい、可愛いお嬢さんたち。──簡単なものだと、丸1日ぐらいだね。手間のかかってるものだと、何日か……3日か4日ぐらいかな」


「へぇー……って、それだったら安くないですかこれ!?」


 私は頭の中でカチカチと計算して、割り出した金額と合わない売値に驚く。

 一番安い、熊を模った彫り物が銀貨5枚なのだけど、丸1日かけて作ったものを銀貨5枚で売っていたら、絶対に採算が合わない。


 この街の働き手の最低ラインでも、銀貨6枚の日当なのだ。

 1日かけて作ったものを銀貨5枚で売っていては、材料の木がタダで手に入れられると考えても──こうやって作ったものを売っている時間とか、この場所を使う場代とかも考えたら、このお兄さんの日当は銀貨4枚とか3枚とか、あるいはそれ以下になってしまう。


 すると、私の質問に、お兄さんは困ったような苦笑を浮かべながら答える。


「……うん、最初はもっと高い値段で売っていたんだけどね。何しろ売れなくて、売れ残りをどんどん値下げしてこんな感じ。──最初はこの彫刻を仕事にして、食べて行こうと思っていたんだけど、無理だなって思って……今は料理屋で雇ってもらって、下働きしてるよ。それでもここで売ってるのは……まあ、趣味と未練でってことかな」


 そう言って寂しそうに笑うお兄さんを見ていて切なくなったから、というわけでもないけど、私は一番安い熊の木彫り人形を、銀貨5枚で購入。

 手を振って、お兄さんの露店をあとにした。


 しばらく距離が離れてから、隣を歩く獣人の少女が、私が手にしている木彫りの熊をのぞき込んで、言ってくる。


「これが銀貨5枚って、安い? こんなもの持ってても、いらなくない?」


「店に飾っておくし。こういうのが一個飾ってあるだけで、見た目華やかになると思わない?」


「ゲージュツってやつ? あたしにはわかんないなー。銀貨5枚あったら、酒場でたらふく、うまい飯が食べれてうまい酒が飲めるじゃん。そっちのがいいよ」


「私が安いって言ったのは、そういう意味じゃなくて。あの値段で売ってたら、作ってるあの人の生活が成り立たないんだよ」


「そーなん? でも、そんなのこっちには関係なくない? あたしらは自分が欲しいと思ったものが、払ってもいいと思うだけの値段だったら、お金を払ってそれを買うわけじゃん?」


「む……それはそうなんだけど……」


 そう考えると、私が作っているポーションは、銀貨10枚とか15枚とか、それだけの値段を払ってでも欲しいと思ってもらえる商品っていうことなんだろう。


 買う側の都合と、売る側の都合とが合わないと、商売って成立しない。

 商売にならないんだったら、別に仕事をもって、やりたかったことは趣味でやるしかない。


 私は手にした木彫りの熊を見ながら、こういうものが世の中からなくなってしまったら少し寂しいななんて、勝手なことを思ったりした。


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