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自分の工房

 さて、錬金術学校を無事に卒業した私は、次なる試練に突き当たることになる。


 学校を卒業したら、さあ錬金術師として開業しようということになるのだけど、そこにまた、お金という障害が立ちはだかってきたのだ。


 錬金術師として開業するために必要なものは、二つある。

 錬金術師資格と、専用の工房アトリエだ。


 資格のほうは、在学中に取得しているので、それは問題ないんだけど。

 問題は、工房のほう。

 どこか建物を借りて、内装工事や設備の調達をしないといけない。


 建物を借りるには、当然家賃がかかる。

 特に最初に借りるときには、保証金やら何やらで、ある程度まとまった額のお金を支払う必要が出てくる。


 それに、工房アトリエの内装工事。

 これは大工さんなり何なりにお願いしてやってもらわないといけなくて、それにも当然、お金がかかる。


 ちなみに錬金術師の工房アトリエというのは、工房であると同時に、ポーションなどの商品をお客さんに売るための店舗でもある必要がある。

 ただ、商品を展示しておく必要性はないので、売り場スペースはそんなに広くなくても大丈夫。


 私は、錬金術学校を卒業して自分が生まれ育った街に帰ると、街の中で現在使われていない小さめの家屋を一つ賃借して、工房と店舗を兼ねた形へと、内装工事をしてもらうことに決めた。


 これには、大金貨5枚を大工さんに支払って、内装工事をお願いする必要がある。

 それと別に、薬品調合用の大窯など、錬金術用の設備をあちこちから調達するために、全部で大金貨5枚が必要になる。


 このための準備資金も、本来なら自分で稼がないといけない。

 錬金術学校を首席で卒業したといっても、そんな経験は錬金術師をやるのでなければ役に立たないので、やっぱり低賃金の下働きなどで稼ぐ必要が出てくる。

 その場合、準備資金の調達のために、あと2年は開業できなかっただろう。


 でも、私には生まれついての後援者パトロンがいる。

 商人として成功している、お金持ちのお父さんだ。

 今になって思えば、これは相当恵まれた環境だ。


 錬金術学校を卒業したあと自宅生活をしていた私は、お父さんが家に帰ってきたときを捕まえて、開業のためのお金を貸してほしいとお願いした。


「あと大金貨15枚、貸してください! 5年後までには必ず返します──お願いします!」


 私がそう言って頭を下げたこと。

 それに、錬金術学校を主席卒業したことも、評価に入れてくれたのかもしれない。


「……開業資金を貸すときは、普通は知り合いでも、その開業に必要な資金の半分までにすると決めているんだけどね。残り半分の資金を自力で調達したなら、そこにはそれだけの覚悟ありと判断できるからなんだが──私の娘の気持ちと覚悟が半端なものでないことは、これまでの実績で判断できる。いいだろう、大金貨15枚を貸そう。返済期限は5年、年利は3%。それでいいかな?」


「はい、ありがとうございます!」


 我ながら他人行儀だと思うけど、お金の貸し借りは、親子であることを抜きにした一人の大人同士のやりとりだから、こんなものだろう。




 工房アトリエの内装工事は、依頼してから1週間ほどで完了した。

 工事をお願いした大工の親方さんから、引き渡しを受ける。


「うわぁ……!」


 狭い建物だし、建物自体は元々あったものなので、そこは変わらない。

 でも、新設されたカウンターや、店舗側に新たに板張りされた床面や壁面の木のにおいを嗅いで、工房側に敷設された新品の石畳を見れば、わくわくしないと言ったらうそになる。


 構造としては、やや縦長の、狭い空間だ。

 その空間を、二対一の広さで区切るように、空間を両断する形でカウンターが設置されている。

 広さは、二が工房側で、一が店舗側だ。


 店舗側の板張りの空間は、五、六人もお客さんが入るといっぱいになってしまうぐらいの狭さだけど、扱う商品の特性上、広さが必要なわけでもないので、これで十分だろう。


 店舗側から入って、カウンターの向こう──石畳の敷かれた工房区域は、店舗区域よりも幾分か広い。

 でも、錬金術に必要な設備や道具類を置いたら、あっち側もきっといっぱいいっぱいになってしまうだろう。


 でも、錬金術師の工房アトリエは、この狭さで正解だ。

 無駄に大きな工房アトリエを持ったら、絶対後で苦労する。


 広い工房にすると、その分だけ家賃や工事費も高くつくし、ひいてはそのことが経営を圧迫することになる──というのは、錬金術学校の工房アトリエ経営学の授業で教わった内容だ。

 少なくとも、私ひとりで経営する工房アトリエとしては、このぐらいの狭さでちょうどいいのだ。


「いやぁ、まだ若いのに一国一城の主たぁ、大したもんだな。頑張れよ、嬢ちゃん」


「はい、ありがとうございます! 頑張ります!」


 大工の親方さんにお礼を言って、工事の代金を支払う。

 それが私の、錬金術師としての門出となった。


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