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卒業

 私は在学中、幸いにも、大事なお金が盗まれるという経験はせずに済んだ。

 だけど、ルームメイトには、別の事柄で悩まされることになった。


「あー、今日も授業疲れたぁ」


 部屋の中央にある二段ベッドの下段で、そう言って横になっている彼女。

 自分の机の前に座って今日の授業の復習をしていた私は、あきれながら言葉を返す。


「そんなこと言って、三限、ずっと寝てたじゃん」


「いやぁ、だってお昼食べると眠くなるんだもん。昨日も夜遅かったしー。──ねっ、たまには一緒に遊びに行こうよ」


 彼女はこんな風に、毎日のように誘ってくるのである。

 悪気はない、というか、むしろ私に気を遣ってくれているのが分かる。


 でも──


「今日の授業の復習と、明日の予習もしないとだし……」


 私が渋るようにそう言うと、彼女はベッドでむくっと起き上がって、ふくれっ面を私に向けてくる。


「ぶー、相変わらず真面目さんだなぁ。真面目すぎると老けるよ? たまにはパーッと遊ばないと」


「いや、真面目とかじゃなくて、せっかくお金払って学校に来てるんだから、その分はしっかり勉強しないともったいないし……。それに、私も休みの日は羽伸ばしてるよ?」


「休みの日だけで満足できるとか、ないわ~。──ま、いいや。んじゃ行ってくるね」


 そう言って、彼女は部屋を出て行く。

 彼女は一体、いつ予習や復習をしているんだろう。

 多分、してない気がするんだけど……。


 中等学校までと異なり、高等教育の一環であるこの錬金術学校では、授業を受けるだけで十分な学習になるものではなく、授業前後の自主的な学習が、学習計画に織り込まれている。


 授業が1コマ90分。

 その授業1コマに対して、それぞれ135分の予習と、135分の復習を学生が自主的に行うことを前提として、学習計画が組まれている。


 つまり、1日に授業が1コマあったら、それに伴って合計270分──つまり4時間半の自主学習が行われることが想定されているわけだ。


 だから、今日も2コマ、明日も2コマなんていう日には、合計9時間の予習復習をしないと十分な学習効果が得られないわけで。

 洗濯とか寮の掃除当番とかに費やす時間も考えると、とてもじゃないけど、平日に遊びに行っている余裕なんてない──はずなんだけど。


 ──まぁ何にせよ、人は人、私は私だ。

 借金までして学校に来ている以上、その時間を無駄にはできない。

 在学中に、できるだけ多くの知識と技術を吸収して、持ち帰ろうと考えた。


 2年間の学校生活に必要な額は、学費・生活費など諸々込みで、おおよそ大金貨30枚。

 さらにこの期間、働いていれば大金貨12枚を貯蓄できると考えれば、差し引きでは大金貨42枚分を、私はこの2年間の学校生活に投入していることになる。


 お父さん流にいうなら、それは私自身への投資だ。

 だからこの学校生活で、私は大金貨42枚分以上の価値を、自分の中に残さないといけない。


 ──そんな風に考えて2年間を過ごしていたら、私は学年首席の成績で、錬金術学校を卒業することになってしまった。

 私、中等学校では平均ちょっと上ぐらいの成績だったから……つまりはそのぐらい、みんなちゃんと勉強をしていなかったということなんだろう。


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