表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

14/15

低価格競争

 当然と言えば当然のことだけど、値引きをしたらお客さんが戻ってきた。

 たまっていた主要四種類のポーション在庫がどんどんけていって、さらに店に来たお客さんの目にとまるせいか、レアもののポーションの売れ行きも好調。


 っていうか、向こうの工房アトリエができる前よりも、心なしかお客さんが多い気がする。

 以前は見なかった冒険者が、ちらほらいるような。

 値段を安くしたせいで、あるいは改めて宣伝しなおしたせいで、今までポーションを利用していなかった冒険者が、試しに買って使ってみようかと考えたのかもしれない。


 そうやってぽんぽこぽこぽんというようにポーションの在庫を売りまくっていると、昼を過ぎた頃に、捻くれ顔の錬金術師が、お店に現れた。


「あれぇ、どうしたんですか、営業中ですよね? あんまりお客さんが来なくて、暇を持て余してるとか?」


 私がそう言ってやると、彼は顔を真っ赤にして歯をかみしめ、きびすを返して大股で店を出て行った。

 ライバルが去っていった姿を見送って、接客担当の少年がつぶやく。


「店長……大人げない」


「……ぶー、だって、ムカつくんだもんあいつ」


「うっ……店長、そのときどき見せる子供っぽいところ、反則ですよ……」


「えっ、何が?」


 ときどき彼は、私に分からないことを言う。

 気にしても仕方ないから、流すんだけど。




 そうして、その週の売れ行きは順調──になるかと思ったら、週の三日目からまたぱったりお客さんが来なくなった。

 何かと思ったら、向こうの工房アトリエで、こっちよりもさらに値を下げるという真似をしたらしい。


 その値段を聞いて、びっくりした。

 ヒーリングポーションを銀貨6枚、マインドポーションとアンチドーテを銀貨9枚で売りに出しているという。


「……何、バカなの? ねぇあの男バカなの?」


「店長、落ち着いてください……! 声、声が怖いですから……!」


 ポーションを混ぜながら苛立つ私を、少年がやんわりとなだめてくれる。

 最近私、メンタル的にこの子に依存してきてるな……。

 もう私、この子がいないとダメなんじゃないだろうか。


 でも、仕方のない話だと思う。

 あの男のやっていることは、ほとんどこっちに対する自爆攻撃だ。


 だって、仮にヒーリングポーションを銀貨6枚で売って、それで1日で生産できる5本分全部売れたとする。

 それでも、材料費が1本あたり銀貨4枚かかるんだから、その売り上げだと材料費差し引きで銀貨10枚しか残らない。


 ここから、家賃と税金とかが差っ引かれると、いいとこ銀貨4~5枚ぐらいしか残らない。

 っていうことは、彼は最大限に商品が売れたとしても、日当が銀貨6枚の下働きよりも少ない労賃しか得られないことになる。


 高いお金と期日を支払って学校に行って技能スキルを得て、安くない元手を払って工房アトリエを構えておいてそれじゃ、まるで話にならない。

 つまり、どう考えたって、正常な値付けじゃない。


 そしてその値付けをされると、どうしたってこっちも、同等以下の値段で売らないといけなくなる。


「……いいわ、付き合ってあげようじゃない。自分がどれだけバカなことをしているか、分からせてやるわ……!」


「店長~、混ぜ棒が折れる、折れますから」


 幸いなことに、まともに利益が出せない環境下でも、こっちには数年間は耐えられるだけの貯蓄がある。


 対して、開業したての向こうはどうだろう?

 そんなに余剰の開業資金を用意しているだろうか。


「根競べよ。向こうが仕掛けてきたこのバカげた戦争、乗っかってやるわ……!」


 ──そんなわけで、「今だけ大特価セール! ヒーリングポーション:銀貨6枚、マインドポーション:銀貨9枚、アンチドーテポーション:銀貨9枚」という触れ込みで、いつまでが「今だけ」なのかは告知しないで、大特価セールを開始したのだった。




 ──それからおよそ2週間後に、捻くれ顔の錬金術師は私の前に来て、価格協定カルテルを結んでもらえないでしょうかと言って、悔しそうに頭を下げてきた。

 想定通り、相手側のほうが先に、経営破綻直前まで追い詰められたわけだ。


 ここで突っぱねて、相手が完全につぶれるまで追い詰めてもよかったんだけど、そうすぐにつぶれるとも限らないし、本当に追い詰められた人間は何をやるか分からない。

 そうなればこっちのダメージも大きくなる可能性があると思って、そこで手打ちにすることにした。


 私は彼と、私の工房アトリエが当初販売していた値段で価格合意をし、両店ともその値段で据え置くことに決定した。

 そうして、痛み分け──と呼ぶには、向こうの被害が大きかったようだけど、ひとまずは健全な経営状況が戻ったのだった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ