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戦争

「──そりゃあ、アレでしょ。この間向こうに新しくできた、錬金術師の工房アトリエのせい。みんなあっちでポーション買ってるんだよ」


 我が友である獣人の少女に相談すると、そんな答えが返ってきた。


 彼女はいまだに、頻繁に店に足を運んでくれる一人だ。

 いや、ポーション買わないで、遊びに来ただけってことも多いけど。


「……へ? 私以外に、錬金術師が? この街に」


「うん、知らなかった? 半月ぐらい前に、あのときのあんたみたいに、酒場に売り込みに来たよ。ここよりね、ポーションの値段がちょっと安いの。同じものだったら安い方がいいって、最近はわりとみんなあっちで買ってるみたい」


 この友人の証言で、最近のポーションの売れ行きが悪くなっていた理由が、一気に判明した。


 この街にもう一軒、錬金術師の工房アトリエができていた。

 しかもそこでは、うちよりも安い値段でポーションを売っている。

 そりゃあ、同じ商品だったら、買う側としては安い方を選ぶだろう。


 私が行っていた錬金術学校では、各ポーションの売値の相場を教えてはもらったけど、別にその値段で売らなければならないという決まりがあるわけでもない。

 ポーションの売値は、各工房アトリエで勝手に決めていいわけだ。


「ここより安いって、いくらで売ってるの?」


「んー、ヒーリングが銀貨9枚でここより1枚安くて、マインドとアンチドーテが銀貨13枚だから2枚安いかな。ハイポーションとか、それ以外のは扱ってないみたい」


 なるほど、それでレア系のポーションは普通に売れてたわけだ。


 だけど、困った。

 学校の工房アトリエ経営学では、安売りは諸刃の刃だって教わった。

 それで安売り競争になってしまえば、自分と競合相手、両方の首を絞めることになると。


「その値段って、期間限定の最初だけ?」


「んー? どうだろ。特に期間限定とは言ってなかったと思うけど。


 うーん……これは、どうなんだろう。


 最初の宣伝のために、一時的に安値にしているならまだ分かる。

 一度店まで来てもらいさえすれば、お客さんは心理的に、店に足を運びやすくなる。

 だからお客さんをつかむために、最初だけオープン価格で安く設定するのは、経営戦術として普通にありうるらしい。


 だけど、ずっとその値段でやられるとなると、こっちも指をくわえて見ているわけにはいかなくなる。

 つまり、こっちも値下げをせざるを得なくなる。


 そうなったら、血で血を洗う価格競争の始まりだ。

 その辺、学校での勉強をしっかりやっていれば、その新しく始めた錬金術師も分かってはいるはずなんだけど……。


 その日は早めに店を閉めて、敵情視察に行ってきた。

 その工房アトリエでは、いかにも捻くれ者という顔をした男が、窯一台でポーションを作りながら、接客をこなしていた。

 今の工房アトリエに引っ越す前の私と、同じスタンスだ。


「おやおや、この街のもう一人の錬金術師さんではないですか。どうしたんです、営業時間中に? あんまりお客が来ないものだから、暇を持て余してるんですかね?」


 彼はニヤニヤと笑いながら、そう言ってきた。

 挑発的な態度に、ムカッとした。


「いえ、別に」


 それだけを言って、私はライバルの店を出た。

 そして、自分の工房アトリエに戻ってきて、考える。


 ──しょうがない、こっちも値引きするか。


「戦争するよ」


 私は自分が雇っている少年に、そう宣言する。


「戦争……? っていうか店長、目が怖い……」


「ふっ、ふふふっ……そっちがその気なら、やってやろうじゃないの」


 私は1週間限定で、ヒーリングポーションを銀貨8枚、マインドポーションとアンチドーテポーションを銀貨12枚で販売することを決め、それを雇っている少年と二人掛かりで、冒険者たちに宣伝して回った。


 さて、これでどうなるか。

 勝負といこうか。


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