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仲間

 ショゴスの前に対峙する5人の少年少女。そして、メアリーとメリル。

 危ないところで詩織を助け出すことができたものの、魔物の脅威が去ったわけではない。

 現にショゴスは体の大きさもパワーも、前とは比べ物にならないほど大きくなっていて、今のメアリーたちでは押さえきることができないのが現状である。


 ショゴスは最初、出鼻を挫かれて残念そうな表情をしていたが、結局状況に変化がないことを冷静に分析していて、先ほどと同じようにまた大きな声で笑い出した。

「そんなガキが数人増えたところで何をするつもりだ?メアリー!エサが増えただけじゃないか」


 確かにショゴスの言う通りだ・・・。

 メアリーも戦況を分析したが、結果は魔物の言葉通りだと彼女は思った。

 とにかくこの子たちだけでも、なんとかここから逃がさないと・・・。


 その時である。奇妙なことを口にする者がいた。それは絵里子。

「あらー?あんた、あたしたちがただの小学生だと思っているワケ?変態トカゲさん」


 ショゴスの表情がぴくりと歪んだ。

 魔物が恐ろしい顔で絵里子を威嚇する。


 だが、そんなショゴスの態度にも絵里子は動揺する様子はない。

「もう1回言う?ヘ・ン・タ・イ・ト・カ・ゲ・さん!」


 激怒するショゴスが、勢いを付けて彼女たちに襲いかかってきたまさにその時だった。

 神酒も、輝蘭も。そしてメアリーもメリルも。そこで信じられない光景を目にしたのだ。


「さあ、出番だよ!ジャック!!」

「・・・承知した。」

 絵里子が右手を魔物に向けて掲げた。すると、彼女の肩口からあるものが飛び出してきたのだ。

 それは、白いローブを身に付けた魔導師の人形。

 白の人形は持っていた杖をメアリーにかざすと、彼女に光が降りそそいだ。

 途端に、今まで傷付いていたメアリーの体が、みるみるうちに復元されていった。


 彼の正体は、白の魔導師・ジャック。

 メアリーたちと共にかつてショゴスを封じたものの、その後の混乱で焼失してしまったはずのメアリーの仲間。

 いなくなってしまったはずの英雄の1人が、長い年月を越えここに現れたのである。


 詩織を抱きかかえていた七海もまた、両手を握り願いを込めた。

「お願い!みんなを守って!カーヤ!!」

「・・・任せておけ!」

 七海の肩口から、黒いローブをまとった人形が飛び出した。

 人形は短く呪文を詠唱すると、両手をショゴスにかざす。すると魔物の体の表面に、大きな爆発が巻き起き、激しい痛みにショゴスが悲鳴を上げた。

 

 彼の正体は、黒の魔導師の人形・カーヤ。

 ジャックと同じくメアリーたちの仲間で、詩織を探していた七海に声をかけた人物の正体でもある。


 そして瞬は・・・何やら変なポーズをとっていた。

 まるで何かの戦隊もののような、そんなポーズ。

「ちょっとシュン!あんた何やってるの?」

 いらいらして瞬を見ていた絵里子が、文句を言った。

「だって、こんなチャンス滅多にないじゃないか・・・。いくぞ・・・・召喚!!」

 どうやらヒーローものの真似をしていたらしい。

 シュンは『決め!』のポーズをとると、右手で拳を作り、それを魔物に向けて力強く突き出した。

「行け!エース!!!」


 瞬の周りに激しい風が巻き起こり、風が瞬の髪を激しく揺らす。

 そしてその風を統率するかのように、1体の騎士の人形が瞬の肩口より姿を現した。

 銀色の鎧に赤い十字架を身に付けた誇り高き勇姿。

 そう。それこそは正に、5人の英雄の長にして十字軍の騎士・エースの魂を宿す人形の姿だったのである。


「シュン殿、少しカッコ付けすぎでは・・・?」

「いいのいいの。気にするな、エース!」



 かつて、遠く古きヨルダンにおいて人々に災いをもたらす魔物がいた。

 その名はショゴス。

 ショゴスは永くその地に君臨し、何人もの人々をその毒牙にかけてきた。

 だが、魔物の恐怖はある日断ち切られる。

 この脅威を退けるべく、ある5人の英雄が立ち上がったのだ。

 上位神官姉妹の姉・メアリー。

 上位神官姉妹の妹・メリル。

 偉大なる黒の魔導師・カーヤ。

 偉大なる白の魔導師・ジャック。

 そして、この4人のリーダーとして立ち上がった十字軍の聖騎士・エースである。

 5人の英雄は魔物との戦いの日々の中で、魔物の命の源『翠月』を封じる『碧星』の存在を知る。

 そして遂にその『碧星』を発見し、一度はショゴスを倒すことに成功したのだ。


 しかし、時間は流れる。

 いつしか寿命が尽きる時、封印の力は弱まる。

 再びショゴスが姿を現さぬように、5人の英雄はその身を人形に移し変えた。

 一度は姿を消したジャック、カーヤ、エース。

 しかし今、また新たに出現したショゴスを倒すために、再びここに5人の英雄が集結したのだ。



 死んでしまったはずの仲間が再び現れたことに、1番驚いていたのはメアリーだった。

「エース!あんた・・・、生きてたの?」

 エースはにっこり笑った。

「燃え尽きたのは器だけ。魂は不滅です。新たな器が見つかれば、我々は何度でも戻ってきますよ。メアリー殿」


「そんなバカな!?バカな!!」

 魔物は恐れていた。かつての封印の悪夢が甦る。


 ショゴスの周りを、5体の人形が取り囲むように並んだ。

「ショゴス!もうここで終わりにしよう・・・」

 エースが宣言した。

「我々の間違いは、お前を封印に留めたことだ。もう間違いは続けない。お前を封じず・・・、ここで滅する!」

 5体の人形が輝いた。その光の輝跡がそれぞれを結び、1つの図形を形作る。

 巨大な光の五芒星。

 やがて星は魔方陣へと姿を変え、ショゴスを強く縛りあげた。

 その中央に位置していた魔物が、急激に苦しみだす。

「やめろ!やめるんだ!!助けて・・・」


 その様子を見ていたジャックが、冷ややかに魔物に応えた。

「かつてお前に殺された人々が助けを求めた時、お前はその願いを聞いたか?」

「それは・・!!それは!!」

 ショゴスが必死に言葉を探す。

 だが、非情な行為を繰り返してきたこの魔物に、言葉が簡単に見つかるはずもない。

「人々の繰り返されてきた多くの悲しみ、その身に刻みなさい・・・」

 カーヤがそう言ったその瞬間だった。魔方陣が強く輝いた。

 その魔方陣は急激に範囲を狭めると、まるで魔物を押し潰すように絡みつく。


 辺りが急に静かになった。

 神酒たちが再びショゴスがいた場所を見ると、そこには1つの翠月が、何も言わずにそこにたたずんでいたのだ。


「終わった・・・の?」

 輝蘭が言うと、メアリーがこう叫んだ。

「まだよ!まだ終わっていない!」

 

 翠月は再び緑色に輝くと、ゆっくりと浮上を始めた。

「キララ!早くあなたのフルートを吹いて」

 輝蘭が床に落ちていたフルートを拾い上げる。

「あの緑色の光は『翠月』の結界なの!あなたのフルートを聞けば結界は消える!

 そうしたらなんでもいい。その石を叩き壊して!!」


 輝蘭がフルートで音楽を奏でた。

 同時に瞬、神酒、絵里子が翠月を壊すために飛び出す。

 神酒は側にあったモップを握り締めると、輝蘭のフルートにより急激に輝きを失い始めた翠月に叩きつけた。

 絵里子もほうきを持って神酒に続く。


 だが、力を失いかけているとはいえ、相手はソフトボールほどもある大きさの石。そう簡単に壊せるものではない。

「ミキちゃん、リコちゃん!どいて!!」

 瞬が勢いよく走りこんできた。そしてサッカーボールのキックのように、翠月を蹴り上げたのだ。


 翠月は瞬のキックにより、激しく壁に叩き付けられた。

『翠月』に亀裂が走る。だがまだ完全に壊れたわけではない。

 翠月はもう限界を感じてきたのだろう。再び2メートルほど浮かび上がると、ふらふらと外に通じる窓へと移動を始めた。

 逃げ出す気なのだ。


「させるか!」

 翠月は窓から今にも外に逃げ出す寸前だった。

 次の一撃で確実に破壊しなければいけない。

 瞬は思った。あの位置まで蹴り上げるには、よほど高く飛び上がらないと・・・。

 高く飛ぶために!強く蹴るために!

 瞬はできる限り足を深く踏み込んだ。そして・・・・。


 次の瞬間、翠月は粉々に砕けていた。

 瞬の渾身の蹴りが、まるでサッカーのオーバーヘッドキックのような弧を描き、翠月に直撃をしていたのである。


 何百年にも渡り人々を苦しめてきた翠月とショゴス。

 しかしその魔物は、5人の英雄と5人の子どもたちの勇気により、今完全に破壊されたのだった。




「ミキちゃん・・・・。石を蹴ったから、足がすごく痛い」

「・・・・・ガマンすれば?」

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