大人になるということ①
そして、それから数日後。
神酒と輝蘭はお互いに声をかけ、自分の行き過ぎを謝罪していた。
形だけは一応の仲直りだった。仲直りではあるのだが・・・。
あの日を境に、二人が以前のように親しく話をすることはもう無くなっていた。
会っても少し笑顔を交わす程度。くっついて冗談を交える姿もない。
いつの間にか離れてしまった2人の心。
それに加えて、すっかり毎日バスケットボール漬けになってしまった七海や絵里子もほとんどこの2人にも会うことが少なくなり、いつしか会話もとぎれ、いつも昼休みに行われていた座談会もすっかり影を潜めていた。
そんなある日のことだった。瞬が鳳教会を訪れたのは。
★
「へぇー、そんなことがあったのかい?」
瞬もまた、以前に神酒たちに誘われてここに何度か足を運んでいた関係で、今はロバートともすっかり打ち解けた仲になっていた。
いつも一緒にいることが当たり前のように見えていた神酒、輝蘭、七海、絵里子。
彼女たちがいつの間にかばらばらに別れていることにいくらか心配になった瞬は、今までの彼が知る事の経緯をすっかり話し、彼女たちの共通の友人であるロバートにアドバイスでももらえないかと鳳教会を訪れていたのだ。
「いつも神酒ちゃんたちって、まるで子ネコみたいに楽しそうだった。でも、今はあの時みたいにもう4人が一緒って姿、見れなくなったんだ。なんとか仲直りさせられないかな?」
瞬の話を聞いていたロバートは、瞬の前に紅茶とお菓子を置くと、彼の前に静かに腰かけた。
「仲直りって、彼女たちケンカをまだ続けているのかい?」
「ケンカってわけじゃないんだけど・・・。でも何か、お互い遠慮してるっていうか、お互いがお互いのことをもう必要としてないみたいな感じで・・・」
「そうか・・・」
ロバートは少し間をおいてから、瞬に優しく笑って答えた。
「でも、それは仕方がないことなんじゃないかな?」
「・・・・え?」
ロバートの答えに、瞬は意外な気がした。
「彼女たちも、だんだんと大人になっていってるんだよ」
「大人に・・・・?」
「シュン君。さっき君は、『子ネコみたいに』って言ったよね。でも、子ネコだっていつまでも小さいままじゃいられないさ。いつまでもじゃれ合ってはいられない。いつか大人のネコになる日が来るんだ。ミキさんたちも、きっとそんなふうに成長を始めているんじゃないかな」
「それって、仲良くなくなるってことですか?」
ロバートが少し寂しそうに笑った。
「違うよ。ボクにも憶えがあるなぁ。子どもの時、ボクの目にはもっと違う物が見えていた。心に余裕みたいなものがあったからね。夢、友達、暗闇の向こう側。あの頃のボクにとっては、大事な物って1つしかなかった。でも、大人になるに従ってそれとはもっと別の物も見えてくるんだ」
「大事な物?」
「うん。やがて大事な物が1つではなくなってくる。1つの物だけには構っていられなくなるさ。いろんなことに気を配らなければならなくなる。それが良いことなのか悪いことなのかはボクには分からない。でも、それが大人になっていくってことじゃないかな」
「大人になること・・・か・・・」
ロバートは立ち上がると、部屋の窓を開けた。
心地好い風が部屋の中を通り抜け、フッと瞬の耳に何か囁いたように彼には感じた。
瞬は窓からの外の景色を見ながらぽつりと話した。
「でも、ロバートさん。それって・・・・」
「うん?」
「それって・・・・、少し寂しいですよね・・・」




