楽器の共鳴がもたらすもの
メアリーの話はこういうことだった。
翠月と対になり存在する碧星。翠月と碧星は常に共鳴していて、メアリーたちの魂を人形に封印するためにもその碧星の力は使われている。
もし翠月が破壊できた後、ある2種類の音階を奏でる楽器の音を碧星に共鳴させれば、碧星も壊れ、メアリーの魂は人形から離れ、元の世界に戻ることができるというのである。
「多分メリルはその音が出せる楽器と奏者を探してると思うんだ」
「それじゃあ、もしかしたら私のフルートにメリルが反応したっていうことは・・・・・」
メアリーは輝蘭をじっと見た。
「うん。多分2つの楽器のうちの1つが、キララのフルートだったんだよ・・・」
「え?それなら今から試してみましょうか。私のフルートで・・・」
「それがね・・・」
メアリーは気恥ずかしそうに頭をかいた。
「見つからないんだ、碧星が・・・。どこに行ったんだか・・・?」
★
メアリーの話によると、メアリーたちの魂が人形に封じ込められて以来、ずっと碧星は行方不明のままなのだそうである。
メアリーは何度も遺跡の中を探したのだが、未だに見つかっていないらしい。
「まぁ、いいんだけどね。人形のままでもけっこう楽しいし」
「でも、帰りたい気持ちもあるんでしょう?」
「まあね。でも先に翠月を探してどうにかしないとね」
「ふうん・・・」
輝蘭は少し考え込んでから、別の質問をした。
「ところで、メアリーさんてあの『電話のメアリーさん』なんでしょ?なんであんなことしてるの?」
「あら。あたしはメリルの他に、あの変な日本人も探しているのよ。相手のところにお邪魔するのに電話をするのは当たり前じゃない」
メアリーがスカートの大きなポケットから、一台の古い携帯電話を取り出した。
「・・・うそでしょ?」
メアリーが舌を出した。
「アハ、判る?」
「ただおどかして楽しんでるんじゃないですか?」
「エヘヘ〜、当たり!」
「・・・はあ・・・・」
「そんなにあきれないでよ。でも不思議だね、あたしの姿は普通の人には見えないはずなんだけど・・・」
「え?そうなんですか?」
そして輝蘭はその場所から立ち上がると、メアリーにこう聞いた。
「ところでメアリーさん。あなたこれからどうするつもりですか?メアリーさんに会えたのはよろしいですけど、私はメリルさんの居場所までは知りませんよ」
「・・・うん。まぁ他に居場所もないし、しばらくここに居てメリルを探そうかなって・・・」
メアリーは少し困ったように答えたが、そんな彼女を見て、なぜか輝蘭がうれしそうにこう提案した。
「メアリーさんがよろしければ・・・、しばらく私に取り憑きませんか?」
「え?どういうこと?」
「他の人に見えないなら、しばらく私の家に来てもらってもかまいませんよ、ということです」
「えぇ!?いいの?」
メアリーの顔が、再びぱっと明るくなった。
「ええ。私を呪い殺したりしないのならね」
「・・・そんなこと、するはずないでしょ」
「ウフフ・・・、それじゃ、改めて・・」
輝蘭が右手をメアリーの前に差し出した。
「私、瀬那輝蘭です。今まで通り、キララって呼んでください」
メアリーも右手を伸ばし、輝蘭の手をつかんで握手をした。
「こちらこそヨロシク。『さん』は付けなくていいよ。メアリーって呼んで!」
2人並んで廃ビルから出てきた輝蘭とメアリー。
輝蘭はいつの間にか、あの暗く落ち込んだ気持ちがどこかに吹き飛んでいることに気が付いていた。