プロローグ
「ああ〜、負けた!!」
あたしの叫び声が響いた。
ここは籠目小学校の第一体育館。今、6年生のクラス対抗の冬季球技大会が開かれていたんだ。
自己紹介します。あたしの名前は高村神酒。みんなからはミキって呼ばれています。
あたしは、あたしの親友のキララと一緒にバレーボールに出てたんだけど、セットカウントは2−0。1セットも取ることが出来ず、あたしたちは結局2組相手に完敗してしまった。
キララは一応スポ少でバレー部に入っているんだけどね。かなりがんばってはくれたんだけど・・・。
「やっぱりバレー部が私1人ではダメでしたね。むこうには3人もいるのに・・・」
これはキララの声。
キララの言う通りかも。根性でなんとかなると思ってたけど、現実はそうもいかない。
途中いいところは何度もあったんだけどね。どうしても最後の一押しで負けちゃうんだよなぁ。
くやしくて肩を落としているあたしに、キララが話しかけてきた。
「ミキさん、まあそんなにがっかりしないで。惜しい試合でした」
キララはいつも冷静で感情が見えにくいことが多い。喜んでるのか悲しんでるのか、よくわかんないこともある。
そんなキララに、あたしはちょっとムカッとして噛み付いた。
「キララ!あんたくやしくないの?小学校生活最後の試合なのに・・・」
すると、キララがプクッとホッペを膨らました。
「私だってくやしいです!」
か・可愛いかも・・・。
会ったばかりの頃はこんな顔することなかったからね。最近は表情豊かって感じになってるよ。
ちょっと気分が上向いた気もしたけど、やっぱりくやしい気持ちは消えない。
あたしとキララは顔を見合わせると、ハァとため息をついた。
「・・・・・リコたちの応援しようか」
「そうですね・・・」
すぐ隣のコートでは、バスケットの試合が行われていた。得点板を見ると、38−19。なにこれ。うちのクラスの大量リード。ダブルスコアじゃん。
理由はすぐに分かった。あたしたちの大の仲良し、ナミ(七海)とリコ(絵里子)の大活躍だった。
バスケのスポ少で、ナミがキャプテンを。リコが副キャプテンをしている。
スポ少でバスケやってる人数は相手チームのほうが多いんだけど、なんて言うのかな。ナミとリコの動きが他の人とは全然違ってプロみたいに見える。
「ナミ!リコ!がんばれ!!」
あたしの応援に気付いたリコが、あたしにウィンクを返してくれた。
すごい余裕だ・・・。
前に応援に行った時もそうだったんだけど、あの2人。すごく不思議な動きをするんだよね。
ほら、バスケでパスをする時、パスする相手を確認するでしょ?
でもあの2人は、時々回りを見ないで変な方向にボールを投げるんだ。
でもね、そのボールを投げた先に必ずどっちかが待っているの。
ナミが投げたボールはリコに。リコが投げたボールはナミにって感じで。
あの2人、超能力でも使っているのかな?
そして、ホイッスル。
結果はうちのクラスの大勝利だった。
試合を終えたナミとリコが、あたしとキララに駆け寄ってきた。
「やったね!全然余裕じゃん!」
「まあね。これぐらい軽い軽い」
キララも笑顔で2人の頭にタオルをかける。
「お疲れ様、リコさん。ナミさん。」
「まぁこのリコ様相手に勝とうっていうのが間違いよ!ヌッハッハ!」
リコは相変わらずおちゃらけていた。
「あと残っているのは・・・・」
「・・・・男子のフットサルか・・・」
フットサル。室内サッカーって言ったほうが判りやすいかな?
あたしはその言葉を聞いて腕組みをした。
「シュンか・・・」
シュンはあたしの幼なじみ。一応キララたちとも仲良くしている男の子だ。
「シュン君って、サッカーとかしたこと無いんでしょ?」
「うん。あいつ足が速いっていうだけで選手になったみたいなんだけど・・・」
あたしとナミは、顔を見合わせた。
急にシュンのことが心配になったあたしたち4人は、急いでフットサルの会場になっている第2体育館へ向かった。試合は今も行われていて、残り時間も少ない様子。得点板は14−15。うちのクラスが1点負けてる!
会場を見渡すと、シュンが相手チームのゴールのすぐ前に立っていた。
すごい真剣な顔つき。シュンもあんな顔することあるんだ・・・なんてあたしは思っていた。
そんな時、シュンのところに高いボールが上がった。味方からのパスだ!
オフサイドはかかっていない。これ決めたら、シュンはヒーロー!?
ドキドキして見ていたあたしの前で、その時シュンが信じられないことをした!
普通ならあんなパスが来たら、多分頭でシュートをするんだと思う。
でもシュンは、ものすごく深く踏み込むと、まるで上下が逆さまになるみたいに大きく右足を上げたんだ!
これってオーバーヘッドキックってやつ!!?
ものすごく高いジャンプ。会場からも、「おお!!」って歓声が上がった。
シュンの右足がキレイな弧を描く!!
あたしもキララもナミもリコも、シュンのシュートに目が釘付けになった・・・。
結果を言うね。うちのクラスの負け。
シュンの右足は、キレイにボールの横を通り抜けて空振り。
あいつ顔からまともに落ちて、そのまま試合が終わったんだ。
ベチャって音が体育館に響いてた・・・。
試合後、あたしたちは体育館で潰れていたシュンのところに駆け寄っていった。
「シュン君、大丈夫・・・?」
心配したナミが声をかけると、シュンはまるで冬眠から覚めたカエルみたいにゆっくり起き上がったんだ。シュンは落ちた時に顔をぶつけたみたいで、頬を赤く腫らしていた。
「あ、ミキちゃん・・・・・。顔が・・・・すごく痛い」
「・・・・・ガマンすれば?」
★
鳳町は、季節を冬から春に移し変える。
残雪も少なくなり、いよいよ神酒たちにも卒業の時期が訪れようとしていた。
神酒たちが籠目小学校に入学してから、もうすぐ6年の月日が過ぎ去る。
仲良し4人組の神酒、輝蘭、七海、絵里子。そして神酒の幼なじみの瞬。
そんな彼らが遭遇した不思議な体験は、
皆を大人へと成長させていくためのチケットへ姿を変え・・・。
それぞれのポケットに届けられる。